第27話 お嬢様とミスコン

「今年度ミズ西園&トップオブザ西園は、…黒沢先生です!黒沢先生、壇上にお上がりください!」


 黒髪ロングのカツラをかぶった葵が、青いアオザイを着て現れた。

 薄く化粧もしており、しなりしなりと歩く姿は女性にしか見えなかった。しかも、流し目をしながら微笑む姿は、妖艶な女性以外の何者でもない。

 壇上に上がると、黒髪のカツラを脱ぎ捨て、クルッと一回転。その途端に、いっきに男性にしか見えなくなった。変わったのは髪型だけだというのに、立ち居振舞いまで男性のものに変わった。

 見事…としか言いようがない。

 まるで一人二役の演技を見ているようだった。

 ドヨメキが起こり、みな拍手喝采だ。


「凄いな…。葵先生の性別がわからなくなりそうだよ。」

 ミズ西園とトップオブザ西園の両方にエントリーした葵は、男性女性押さえての一位になったのだ。

 出演者として、舞台の袖で見ていた渉は、葵の変身ぶりに舌をまいた。


 予想外にノリノリだな…。


「大学時代、葵は演劇サークルにいましたから。男装も女装もしておりましたわね。」

 渉に寄り添うようにして、清華が言った。

 清華は、クラスで用意した白を基調にしたお姫様の衣装を着ていた。薄い青のベールをかけ、大きく開いた肩を隠している。渉は、どこから調達してきたのか、遠藤が用意したタキシード姿だった。

「なんか、こうして並んでいますと、結婚式の衣装みたいですわね。」

 渉の腕に手をかけ、ニッコリと微笑む。

「け…結婚式?!」

 一瞬、清華のベールを上げ、誓いの口づけをしている姿を想像し、渉は頭を強く振った。

「あら、私と並んでも似合うんじゃない?生徒会長のに。」

 裕美もやってきて、清華と逆側に並び渉の腕に胸を押し当てるように腕を組む。胸が強調された真っ赤なイブニングドレスは、横スリットが入っており、歩く度に見事な足が見え隠れする。今日だけは、以前の化粧に戻っていた。

「ちょっと、裕美さん!下品ですわよ。」

 清華は、渉を引っ張って、自分の方に寄せた。その際、清華の胸も渉の腕に当たる。

 二人は、ぎゅうぎゅうとお互いの方へ渉を引っ張る。

「ちょっと、二人とも離して。」

「先に裕美さんが離してくださいな。」

「あら、イヤよ!」

「うらやましいねえ。こっちも空いてるぜ。」

 司が腕を差し出すと、二人ともそっぽを向いた。

「いいもんね、いいもんね。」

 司はイジイジとすねる真似をする。


「今年のミスター西園は、…昨年に続き綿貫司君です。壇上にどうぞ。」

「おっしゃ!」

 司は渉の肩を叩き、悪いな!と囁いて壇上に上がる。

 ちなみに、司の格好は羽織袴だった。


 いや…、自分が選ばれるなんて思ってなかったし。


「続きまして、ミス西園と特別賞を、一緒に発表します。ミス西園は西園寺清華さん、特別賞は生徒会長東條渉君!ご一緒に壇上へどうぞ!お二人は、一緒にお昼を食べているくらいの仲です。是非、二人の関係を聞きたいものです!」

 司会者の遠藤が、拍手しながら壇上でニヤニヤ笑っている。


 謀ったな!


 これで、まだ渉のことを知らなかった学生や外部の人間が、渉のことに注目するようになる。

 これじゃ、同居がばれるのも時間の問題かもしれない。

 遠藤は、ただ盛り上げたくてやっているのだろうが、渉は窮地に立たされた思いだった。

「渉君…。」

 清華も、不安そうに渉を見ている。

「早く行って、説明なさいよ!」

 裕美が渉から腕を外し、二人の背中を押した。

 渉のエスコートで歩き、渉が葵や司の待つ壇上へ出ていく。

 清華は、葵に助けを求めるように視線を送った。

 壇上の中央に立った時、マイクを渡される。

「清華様、生徒会長は一番親しい異性で間違いないですか?」

「一番親しい異性?それは、おじい様じゃないかと。」

「いや、身内じゃなくて。」

「身内じゃない…?では、執事の黒沢かしら?生まれた時から世話をしてくれていますから。」

 清華は真面目に受け答えしているのだが、回りからははぐらかしているように見えた。

「じゃあ、同世代の異性の中で、一番親しいのは?」

「それは、渉君ですわ。」

「ありがとうございます。」

 遠藤は、清華からマイクを受けとると、今度は渉に渡した。

「生徒会長、実際のところ、二人は付き合ってるんですか?」


 おい、何で僕には直接的なんだよ?

 付き合っていないから、答えはNOなんだが、サーヤが自分のことを一番親しい異性と言ってしまっているから、ここでNOと言えば、サーヤを振ったような感じにならないか?


 渉は、マイクを握りしめたまま硬直してしまう。

 そんな渉のマイクを横から葵が奪った。

「東條君は、執事の修行中なんです。」

「は?」

 遠藤は、ポカーンとしたように葵を見る。遠藤的には、渉に全校生徒の前で告白させようと目論んでいた。

 嫌がらせからではなく、友達としてだ。

 見るからに清華は渉のことが好きだし、渉も清華を好きなように見えた。渉が告白しさえすれば、絶対に上手くいく自信があったからだ。


「私の家系は、代々西園寺家に使えておりまして、私も本職は執事です。東條君は、私の祖父に弟子入りし、住み込みで修行している最中なんです。」

「住み込み?!」

「はい。そのため、登下校は一緒ですし、お昼も西園寺さんの給仕をしているわけです。まあ、まだ執事としての心構えが叩き込まれていないので、馴れ馴れしすぎるのがたまに傷ですね。」


「おまえ、執事になりたいの?」

 遠藤が、マイクに手を置いて、みんなに聞こえないようにして渉に聞いた。

「まあ、なんとなく…。」


 これなら、同居しているのがばれても問題ないから、一番良い言い訳かもしれないが…。


「生徒会長の意外な一面が見えたところで、受賞したみなさんにトロフィーと賞品の授与に移りたいと思います。」

 予想外の結果に、遠藤は話しを切り上げて、予定通り進行を進めることにしたようだ。

 渉は、ホッと安堵して葵に軽く頭を下げた。

 みなの注目が司と清華に注がれている中、葵が渉の横でつぶやく。

「申し訳ありません。他に同居の理由が思いつかなかったものですから。」

「いえ、助かりました。」

「お二人のことは内密に…と伺っていたので。」

「はい?」


 内密って、何を?


 聞こうとした時、賞品を受け取った清華が、満面の笑みで渉の横にやってきた。

「渉君!見てください!」

 清華の手には、学食の回数券が握られていた。

「凄いですわ!ただで学食がと二十回も食べれますのよ!」

 この賞品を決めたのは渉だった。もちろん、清華が選ばれると疑いもしなかったから。米俵と悩んだが、米俵は持って帰るのも大変だし、何より見た目が良くないと、他の役員達からダメ出しをくらったため、学食の回数券に決定したのだ。

「よかったね。」

 思った通り、清華が喜んでいたので、渉はホノボノとそんな清華を見つめ、すっかり葵との会話のことなんか、頭から抜けてしまっていた。

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