第25話 お嬢様と学食

 さっき、僕とサーヤがキスとかなんとか叫んでたけど、同居がばれて、何でそんな話しになったんだ?


 渉は、裕美を探しながら、二人の会話を想像してみた。

 けれど、どんな流れでそうなったかわからない。

 裕美が自分に興味を持つなど、一ミリも頭になかったので、清華と渉の関係を裕美が気にするなんて思いもしなかった。

 渉は、むやみやたらと探しても時間の無駄だと思い、生徒会長の権限を使い、放送で裕美を生徒会室に呼び出した。


 しばらくすると、不機嫌そうに裕美が生徒会室にやってきた。

「私を呼び出すなんて、いったい誰…よ。」

 渉が生徒会長の椅子に座っているのを見て、裕美は回れ右して逃げようとした。

「待った!ちょっと、話しがあるんだ。」

「な…何よ!私は、これっぽっちもあなたとなんか話したくないんだから!」

「あー、うん。そうだろうね。用件はすぐすむから、少ーし我慢してくれるかな?」

 渉は、こんなに嫌われることしたかな?と考えていたのだから、鈍感以外の何者でもないだろう。

「何よ!早く話しなさいよ!」

 裕美は、そっぽを向きつつ、チラチラ渉を盗み見た。

「僕は西園寺さんの家に間借りしているだけなんだけど、他言して欲しくないんだ。変な勘繰りとかされたら、西園寺さんの家に迷惑がかかるかもしれない。」

「ただ借りてるだけなのよね?」

「そうだ。」

「二人が付き合ってるとかは?」

「あったら、同じ家に住むのはまずいだろ?」

 裕美は、確かにとうなずく。

「私に、黙っていて欲しいと?」

「まあね。彼女を崇拝している奴等からしたら、僕は害虫でしかないだろうからね。駆除されたくないし。」

 ああ!と裕美は納得する。

「わかったわ。口外はしないであげる!その代わり…。」

「その代わり?」

 裕美は、赤くなってコホンと咳払いをする。

「私のことを、ヒ…ヒ…ヒロミンと呼びなさい!」

「ハア?」

 予想外の要求をされ、渉は間の抜けた声を出してしまう。


 ヒロミン?

 確か、裕美って名前だったはずだから、愛称か?

 サーヤといい、お嬢様は愛称で呼ばれたがるのは何でだ?

 そんなに友達が少ないんだろうか?

 まあ、こいつも友達少なさそうだよな…。


「それは…ちょっとハードル高過ぎ。」

 もとから女子を愛称で呼ぶ習慣はないし、というか、女子と友達になること自体、幼稚園時代まで遡らないと記憶にない。

「ハードルが高い?」


 私が高嶺の華だと?

 その通り過ぎて、顔がニヤケちゃうじゃないの!


「まあ、私を愛称で呼ぶなんて、一般市民には恐れ多くて無理よね!でも、生徒会長には特別許可してあげるわ!」


 許可されても困る…。


 どうしたもんかと、渉は天を仰いだ。

「いきなりヒロミンは無理なんで、裕美さんでいいかな?」

「しょうがないわね、それでいいわ。」

 不承不承、裕美は承諾した。

「じゃあ、僕が西園寺家に同居しているのは、黙っていてもらえる?」

「話さないわよ。第一、あなたのことを会話にするほど、あなたなんかに興味はないんだから!」


 あなたとか、あなたとか、チョイチョイ失礼な言い回しをするよな。興味ないのはわかってるし、もう少し可愛いげのある言い方はできないもんかね。


「はいはい。わかってます。じゃあ、そういうことで。」

 渉は立ち上がって、生徒会室から出ていこうとした。

「ちょっとあなた、お昼は食べたの?」

 すれ違い様に、裕美が渉の袖を引っ張る。

「いや、これから学食に。」

「なら、一緒してあげるわ!学食なんて、私の口には合わないけど、今日はシェフの作ったお弁当を忘れてきてしまったから。」

 裕美は、鼻歌を歌いながら渉の前を歩き出す。


 学食につくと、清華がお弁当を広げて待っていた。

「渉君?」

 裕美と学食に入ってきたのを見て、清華の眉が寄る。

「なんか、裕美さんも学食で食べるんだって。」


 裕美さん?!

 なんで名前で?


「生徒会長、学食を買ってきてちょうだい!」

「何がいいわけ?」

「何だっていいわよ!これ、お金。」

「はいはい。」

 渉は肩をすくめて、裕美のご飯を買いに行く。

 一番人気のA定食にした。

 鶏肉の柔らか煮に、サラダ、小鉢が二つついていて、味噌汁とご飯はおかわり自由になっている。

「これでいいかな?」

 清華の正面に座って待っていた裕美の前に定食を並べ、自分は清華の隣りに座った。

「ずいぶん多いのね。」

「ご飯と味噌汁はおかわり自由だから。」

「あなた、私がそんなに大食漢に見えて?!」

「まあ、美味しそう!」

 清華は、鶏肉をうっとりと見つめる。

「食べたいの?食べたいなら食べなさいよ。」

 裕美はムスッとして、定食をテーブルの真ん中に置いた。

「食べてよろしいの?」

「だからいいってば。第一、こんなに一人で食べれるわけないでしょ!」

「まあ!」


 裕美さんって、裕美さんって、実はいい人なんですのね!


 さっきまで険しかった表情が、いきなりパアッと笑顔になる。

 いい人かどうかの判断の基準が、どうやら食べ物をくれるかどうかにあるらしい。

「いただきます。美味しい!裕美さんも、よろしかったら私達のお弁当どうぞ。」

 裕美は、チラッとお弁当箱を見ると、そっぽをむいて煮物を一口頬張る。

「美味し…まあまあね。」

 裕美は、そう言いながら、お弁当にばかり手を伸ばす。

 しょうがないから、渉と清華で定食を食べた。

「定食、美味しいですわね。渉君、お口に…。」

 清華は、ティッシュを取り出すと、渉の口を拭う。

「あ、ありがとう。」

 渉は赤くなりつつ、清華の手を拒否することはなかった。

 その様子を見て、裕美は眉をピキピキッと寄せる。

「あなた方!イチャイチャしない!」

「イチャイチャだなんて。」

 清華は頬を染め、渉はワタワタと不必要な動きをする。


 この二人、本当に付き合ってないわけ?!


 裕美は、疑うように二人を見た。


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