第22話 渉、自分の気持ちに気づく

 渉は、たまには一人もいいもんだ……と思いながら、身軽に歩いていた。


 最近は、登下校清華のみならず葵まで一緒だし、清華のことはエスコートしないといけないらしいし、自分のペースで歩くというのが、本当に久しぶりだった。

 もちろん、清華と一緒なのが嫌なわけでは決してない。


 二人きりならもっと……。


 葵がきてから、二人っきりというのは、ほとんどなくなった。それが残念なようでもあるが、そのおかげで青春の過ちを回避できているような気もする。


「そこのあなた!! 」


 いきなり後ろから叫ばれ、渉は自分だとは思わず歩き続けた。


「ちょっと、ちょっと、あなたよ、あなた! 生徒会長! 」


 後ろから肩を掴まれ、やっと自分が呼ばれていたと気がついて立ち止まった。


「あなた、思った以上に足が速いわね」


 振り返ると、息を切らせた裕美が立っていた。

「南……野さん? 」

「あなた、生徒会長なんでしょ!呼んだら止まりなさいよ。無駄に走っちゃったじゃない! 」


 カリカリ怒っている裕美に、意味はわからないがとりあえず謝る。


「ごめん。……で、何か用? 」

「西園寺清華……あの子の怪我……。怪我は酷いの?! 」

「いや、軽い捻挫みたいだよ。心配……してくれたんだ? 」


 裕美は、カーッと赤くなってそっぽを向く。


「そんなわけないじゃない! 私が西園寺清華の心配? ハァッ?バカなこと言わないでよ」


 全くもって素直ではないらしい。


「そう? まあ、いいけど……。用事はそれだけ? 」


 渉が歩き始めると、裕美もついてくる。


「あなた、本当に足が速いわね!生徒会長の家って、西園寺清華の家と近いわけ? 」


 息切れしながら喋る裕美を見て、渉は少し速度を遅くする。


「まあ、近いと言えば近いかな」

「なら、うちとも近いわね。うちは西園寺清華の家より少し先だから」


 裕美は渉を見ると、その腕に手をかけた。


「ウワッ!」


 渉はビックリして腕を引っ込める。


 お嬢様ってのは、人を杖代わりにする生き物なのか?!


「何よ! 西園寺清華には腕を貸せて、私には貸せないっての?!あなたの足が速いから、私は疲れたの! 腕くらい貸しなさいよ!」

「いや、無理! 」

 渉は腕を後ろに組み、断固拒否する。

 拒否した後に考えた。


 ???

 サーヤが良くて、何で南野さんが無理なんだ?

 好きでもない子と腕を組むなんて……無理?

 ……って、あれ??

 いや、まさか……ね?そんな無謀なこと、僕がサーヤのことが好きなんて、あったらダメなはず。


 何も考えずに無理! と叫んでいたが、その後に浮かんだ言葉に驚いてしまう。


「なら、荷物くらい持ってよ! 」


 渉は、裕美の学生鞄を持つと、さらにゆっくり歩いた。

 また腕を組まれてはたまらないと思ったのだ。


「全く、こんな美人が腕を組んであげるって言ってるのに、失礼な人ね」

「美人……ね」


 渉は、裕美をチラッと見た。


「何よ! 何か文句あるわけ? 」

「いや、もったいなって」

「何がよ! 」

「せっかく若くて肌も綺麗なのに、そんなに塗りたくらなくても。絶対、化粧薄いほうがいいのに……。美人も台無しだよ」

「なっ……、そりゃ、もちろんスッピンだって西園寺清華には負けないわよ! 」


 怒るかなと思いながら、裕美の様子を伺うが、怒るというより、よく分からないが怒りつつ照れているような?


 スッピンが見たいってこと?

 素顔の方が綺麗って……、やだ! 何想像してるの?! いやらしい!!

 ……見たいって言うなら、見せてあげなくもないけど!


 勘違いがお嬢様の必須条件なのか?

 裕美は、見た目Sなのに、実際はM気があるのか、渉の一言にときめいていた。


「いや、勝ち負けとかじゃなくて……」

「見たいなら見せてあげるわよ!待ってなさいよ、生徒会長! 」


 裕美は渉から学生鞄を奪い取ると、バタバタと走って行ってしまった。


 いや、見たくもないんだけどな。

 っていうか、あいつ絶対僕の名前覚えてないよな。

 そんなことはどうでもいい!


 僕は、サーヤが好きなのか?!


 いや、ダメだろ!

 僕なんかがサーヤを好きなんて、あったらダメだし、友達として気を許してくれているのに、こんな感情があることをサーヤに知られたら……。

 絶対に絶対に拒否られるに決まってる!


 渉は、突然気がついた自分の気持ちに、戸惑いよりもなんとしても隠さなければ! という気持ちでいっぱいになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る