第20話 お嬢様、捻挫する
結局、渉のチームは一回戦敗退、清華のバドミントンダブルスは二回戦敗退となった。ちなみに、裕美は三回戦進出したものの敗退し、清華と戦うこともなかった。
ただ、清華は二回戦、裕美は三回戦までいったので、裕美の勝ちだと言い張っていたが。
「渉君、残念でしたわね」
「いや、残念……っていうか、ボロ負けだったけどね。サーヤは、ずいぶんバドミントンうまかったんだね」
清華のお弁当を本部テントで食べながら、すでに球技大会は応援部隊になった二人は、まったりとしていた。
「いえ、ダブルスを組んでくださいました佐藤さんが、お上手だったんですわ。」
清華は謙遜気味に言っているが、清華達が負けた相手は、今回の優勝候補の三年生ペアで、去年の優勝ペアでもあった。着実に明日の準々決勝に駒を進めていた。そのペアに接戦していたのだから、清華の運動神経は、見た目以上なのだろう。
「西園寺清華、あなた何悠長にご飯なんか食べてるのよ! 昼休みはチア合戦よ! 」
「そうでしたわ。裕美さん、教えにきてくださったの? 」
「バカね! 不戦勝じゃ、勝った気がしないからよ。ほら、早く支度なさい! 」
清華は、裕美に引っ張られて、本部テントを後にした。
清華は、女子更衣室に行き、チアの衣装に着替える。
純白総レースの衣装は、白い肌の清華によく似合っていた。
おなかはチラ見くらいに見えていて、ガバッと見えているより逆にセクシーだった。
スカートは前は他の女子と同じくらい短かったが、後ろはフワリと少し長くなっており、回る度に見えそうで見えないブルマが、チラリズムを刺激する。
大胆な衣装が目立つ中、逆に清華の衣装は清楚な中に、隠れたエロスがより際立って見えた。
「若いっていうのは、元気があっていいですな」
「衣装の出来としては、一年一組の物が、高校生らしくてよろしいのでは? 」
「三年五組のも、大人っぽくていいですよ」
「ダンスは一年三組ですかな? 」
審査員を頼んだ先生五人が、項目別に点数をつけていく。先生達の持ち点は一人百点とし、生徒の持ち点は一人三点で集計される。
校庭の前のステージで、三分ほどのチアダンスが次々と披露されており、渉はとりあえず無表情でステージを見ていた。
生徒会長と副会長のみ、三十点つけれることになっており、準審査員扱いとして、先生方の脇に席が用意されている。脇といっても、ステージの真ん前であり、目の前で女子達が足を上げたりして踊っているわけだから、ダンスとして真剣に見ていいのか、見ないようにするべきなのか、悩むところである。
「これくらいの役得がなきゃ、生徒会なんてやってられないよな」
司は、真ん前の席だというのに、双眼鏡を使って見ている。
「先輩、後で女子に袋叩きにあいますよ」
「厳選な審査のために必要なんだよ。おまえもいるか? 」
司は、双眼鏡から目を離さないまま、ゴソゴソともう一つ取り出す。
なんで、何個も……。っていうか、先生方の席の前にも置いてあるし。
「双眼鏡八個、生徒会費から落としてくれよ」
「先輩! 」
「司先輩、自分にも貸してください」
「おー、使え使え。先生方も、良かったら双眼鏡どうぞ」
もう一人の副会長である
「遠藤まで……」
「郷に入れば郷に従え」
二人が双眼鏡を使い出すと、先生達もそうか? と言いながら双眼鏡に手を伸ばす。
これじゃ、生徒会がエロの集まりみたいに思われるじゃないか!
「オッ! オオッ!! 」
司は下品に叫びながら、遠藤と小突き合っている。
渉は、眼鏡を押さえながらため息をついた。
「ほれ、お姫様の出番だぞ」
渉が正面を見ると、一年一組がステージに走って出てきたところだった。
清華は、渉を見つけると、スカートの横辺りで手を振った。
恥ずかしさと緊張で、心臓が飛び出てしまいそうだったが、渉が最前列に座っているのを見て、なんとか平常心を取り戻す。最初のフリも、なんとか遅れずにでてきた。
清華は頭の中で歌いながら、リズムを取って踊る。
足をかけてターン。後ろを向いて手を上下、足をかけ……。
振り向こうとした時、足をグキッと捻ってしまう。かろうじて転ばないですんだが、足がズキズキしてきた。
清華は、一瞬眉を寄せたが、笑顔で踊り続けた。なんとか最後まで踊りきり、笑顔のままステージをはける。
なんか……、一瞬よろけたよな?
渉は、椅子から立ち上がった。
「どうした? トイレか? 次始まるから、早く戻れよ」
渉は、ステージ裏に回った。
「サーヤ? 」
みな、踊り終わって興奮状態でキャーキャー騒いでいる中、渉は清華の肩に手を置いた。
清華は笑顔のまま振り返ったが、何か貼り付けたような笑顔に見えた。
「渉君、凄く凄く緊張してしまいましたわ」
「上手に踊れていたよ。もしかして、足……」
足を捻ったんじゃないのかと聞こうとした時、渉の後ろから清華に向かって手が伸び、素早く抱き上げた。
その様子を見た清華のクラスメイトから、悲鳴のような甲高い歓声が上がる。
「葵……先生」
「保健室に連れて行く」
渉は、慌ててジャージの上を脱ぐと、清華のスカートの上にかけた。
「東條君もついてきてください」
「はい……」
渉は保健室まで先導するように、扉を開けたりしながら葵の前を歩いた。
「葵、ちょっと足を捻っただけですから。自分で歩けます」
「動くと落ちますよ。私は非力ですから」
葵がわざと手を離すふりをし、清華は慌てて葵の首にしがみつく。
「重いでしょう? 」
「清華様が小さい時から、おんぶだ抱っこださせられてますから、今さら気にしないでください」
「それは、本当に小さい時じゃないですか! 」
清華はプクッと頬を膨らませる。
二人の距離があまりに近くて、その自然な様子に、渉は疎外感のような物を感じた。
「渉君も、私が足を捻ったのに気がついてきてくれたんですか? 」
「まあ、……一応」
「上手に隠せたと思いましたのに。目立ってしまっていましたか? 」
「いや、たぶん回りは気がついていなかったと思うけど……」
「なら良かったですわ」
渉君だけ気がついてくださいましたのね……。
愛の力かしら! キャー!
清華は一人赤面し、そんな清華を見た渉は、葵に抱き上げられて赤くなっているんだと勘違いする。
それにしても、葵も気が利かないんだから。渉君が運んで下さったかもしれないのに。渉君にお嫁さん抱っこしていただけたら……。
清華は、一人妄想が暴走し、幸せそうな表情を浮かべる。その様子を見て、さらに渉は勘違いが深まり、不機嫌そうな表情になっていく。
そんな二人を客観的に見ていた葵は、渉の勘違いを指摘しようかどうか一瞬悩み、含みのある笑みを浮かべた。
もう少し、このまま……。
渉がどれくらいの気持ちで清華を思っているのか、試してみようという気持ちからだった。
ただ、葵しか気がついていないと思っていた清華の怪我に気がついたようだし、プラス十点。
合格点に達したら、サプライズプレゼントでしょうか?
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