第19話 お嬢様と球技大会

「それにしても、予想外だったな……」

「確かに……」


 渉と司は、生徒会室でお茶をしながら、球技大会初日を迎えていた。


 通常なら、まだバタバタしていてもおかしくないのだが、今年は司の狙い通り、清華に引き寄せられてきた生徒が多数、お手伝い係に志願してきて、( 清華のエスコートができると信じている )生徒会長志願の男子達がほとんどで、年間通してのお手伝い係をゲットできた。そのため、いつもよりもスムーズに球技大会を迎えられたということもあった。


 まあ、これは予想内の出来事で、予想外な出来事は二つ。


 一つは、渉の制止を聞くことなく、清華がいつの間にかお手伝い係にサインしてしまっていたこと。これは、渉のみ予想外であり、司にしてみれば、狙っていた結果であり、大成功! とほくそ笑んでいた。


 二つ目が、最も予想外なことで……。かなりな人数がお手伝い係になったわけだが、人数ばかりいても烏合の衆。それをまとめたのが、以外や以外、南野裕美だったのだ。

 上級生も関係なく、ズバズバと用事を言い付け、適材適所に生徒を配置していった。まさに次期生徒会長適任と言わざるを得ない。


「頭のできだけが全部じゃないんだな」

「司先輩、さすがにそれはちょっと……」


 一番の功労者に、散々な言い方である。

 裕美に反感を持たない生徒がいないわけではなかったが、そこは清華がヤンワリ間に入って、揉め事にはならないでいた。


「あの二人、裕美はお姫様をライバル視してるみたいだが、実はいいコンビだよな。裕美とお姫様が来年の生徒会に入ってくれれば、生徒会も安泰だな」


 来年は卒業しているだろう司は、勝手に次期生徒会役員案を目論み、来年は副会長として残らなければならない渉は、かなりゲンナリしながら、司の案を聞いていた。


「さて、生徒会長、そろそろ球技大会開始の宣誓をする時間だぞ」


 司がそう言ったと同時に、生徒会室がノックされ、進行係を任せていた副会長が入ってきた。


「全校生徒整列しました」

「わかりました。校長先生並びに諸先生方に校庭にいらしてもらってください」

「頑張れよ! 」

「はあ……」


 司に背中を叩かれ、渉は気が重い中、生徒会室を出る。


 全校生徒の前で挨拶なんて、はっきり言って辞退したい!

 こんなの、お祭り男の司先輩がやればいいのに!


 目立たず、勉強ばかりしてきた渉にとって、球技大会という体育会系の行事は、空気のごとくやり過ごしたいところなのに、一番目立つ宣誓をしないといけないとは!


 渉が宣誓をするために校庭の朝礼台に登ると、全校生徒の目が渉に注がれた。


「えーッ……」


 一瞬頭が真っ白になる。

 生徒の視線が、痛いほど突き刺さる。敵意の視線に感じるのは、渉の気のせいではない。渉の顔を知らない生徒達も、清華をエスコートしながら登下校し、お昼ご飯まで一緒に食べている生徒会長の存在は知っていた。その行為は、生徒会長の権力を行使しての振る舞い……とすら思われていたのだ。


 そんなきつめの視線の中、清華はうっとりと渉を見つめていた。

 緊張して蒼白の顔は、キリリと引き締まって見えたし、ただ言葉が飛んでしまって喋れないだけなのだが、余裕を持って生徒達を見渡しているように見えた。

 恋は盲目……とは、全くその通りである。


「これより、第八十七回球技大会を始めます。正々堂々戦うことを誓います。生徒会長、東條渉」


 本当は、もっと長い文章を考えたはずであるが、史上最短の宣誓になってしまった。


 やってしまった……。


 朝礼台から降りる渉を、司はニヤニヤして見ている。

 生徒達は何故か歓声をあげていた。

 貧血をおこす女子が数人でるくらい、校長の話しが長かったのだ。みな、早く身体を動かしたくて、うずうずしていた。そこに渉の宣誓だったため、その短さにみな歓声を上げたというわけだ。


「いい宣誓だったぞ」

「イヤミでしょ」


 本部に戻り席につくと、司が渉の肩を叩いた。

 校長の話しが長いことにも気がつかないくらい緊張していた渉は、司にイヤミを言われたと思い、仏頂面になる。


 あとは、各試合結果の集計を取ったり、自分たちの試合の順番がきたら試合しに行けばよかった。


「渉君、素敵でした! 」


 清華が本部にやってきた。


「お姫様は、出番以外は渉の横で集計とってね」

「はい。渉君はバスケットボールでしたわよね? 第何試合でしょうか? 」

「僕は第三試合。君は? 」


 周りに人が多いから、名前を呼ぶことを控えた。


「バドミントンの第七試合です。渉君の試合、応援できそうですわね」


 バスケも、バドミントンも一日目は午前に試合が組まれており、勝ち進めば、二日目の午後に準々決勝から始まる。

「あれ? チアもやるんだよね?」


 清華は、ポッと頬を染めた。


「私の出番は午後です。明日は午前中です。でも、恥ずかしいので、見ないでくださいね」


 見ないで……と言われると、凄く気になる。


「チアの衣装はあるの? 」


 最近は、かなり衣装が過激になってきたため、以前のように体操服に戻した方がいいのでは? という案も出ていた。今回は露出は少なく、自粛するようにと、各クラスに通達していたが、どれだけのクラスが守っていることやら。


「あります……。おなかが丸出しで、風邪をひきそうですわ。スカートも短いですし」


 本部に座っていた男子が、みな生唾を飲み込む。

 そして、試合があろうが、お手伝い係の仕事があろうが、清華の出番には確実に見に行こうと、みな心に誓ったようだった。


「西園寺清華! あなた、なんで体操服なんか着てるのよ? チアは試合の時以外は衣装が基本でしょ! 」


 裕美が、大胆な衣装を着て現れた。蛍光紫の柄に、スパンコールがついていて、シャツは可能な限り短かった。万歳したら下乳が見えてしまいそうなくらいだ。

 スカートは、アンダースコートが見えるか見えないかギリギリの長さで、短スパッツではなく、テニス用のフリフリスコートを履いているようだ。

 衣装の過激さもさることながら、裕美のEカップの爆乳と、引き締まったウエスト、形のいいヒップから続くスラッとした長い足……高校一年の体型とは思えないくらい、完成度が高かった。

 裕美に文句を言っていた男子達も、ヨダレが垂れそうな勢いでガン見している。

 裕美も、そんな視線に満足しているようで、わざとらしく腕を組み、胸を強調させていた。


「これは、裕美に一本だね」


 司は、裕美に赤旗を上げる。


「何が一本ですか! 」

「渉君も、やはりこういう体型がお好みですか? 」


 清華が渉の体操服の裾を引っ張りながら聞いてくる。


「イヤ、僕はどちらかと言えば、こう……片手にスッポリ入るくらいのサイズが……そうじゃなくて、スレンダーがいいです」


 手で胸の大きさを表そうとして、慌てて手を振る。


「それはいいとして、サーヤもああいう衣装なわけ? 」


 渉は、清華の耳元でこっそり聞く。


「ええと、クラスの女子はそんな感じです。もう少し清楚なレース地ですが。私は、無理を言いまして、露出は押さえていただきました。それでもおなかが冷えそうですが……」


 渉は、ホッとしつつ若干残念にも思っていた。

 清華の過激なチアの衣装を見たいような、他の男には見せたくないような……。

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