第14話 お嬢様、二学期最初の登校日

 二学期が始まって初日、西園学園にドヨメキが起こった。

 というのも、毎朝車で送迎されていた清華が、歩いて登校してきたからだ。しかも、渉の腕に手を添えて……。


「なんだ? 車の故障か? 」

「生徒会長と腕くんでらっしゃるぞ! 」

「足に怪我でもされたのか? 」

「具合でも悪いんじゃないか? 」


 みなザワザワと清華達の後ろからついて歩き、清華病気説が飛び交う。

 清華と渉が一緒にお弁当を食べるようになっても、二人が付き合っているという噂は全く流れず(清華が一般市民と付き合うという考えに誰も至らない )、実は渉の家が貧乏で、清華がご飯をめぐんでいるんだというのが定説になっていた。

 渉も、それを否定するのもやっかいだから、適当に話しを合わせていた。

 その会食だが、梅雨の期間から屋上での会食を止めて、学食でお弁当を食べるようにしていた。

 今では渉の家からの家賃で、お米もお肉も買えるようになっていたし、お弁当は二人分清華の手作りのため、一緒に食べる必要はないのだが、お弁当は二人分一緒に詰められ、一つの袋に入っているため、清華が会食を止める気がないことは確かなようだ。


「清華様、おはようございます」


 クラス委員の高橋が、意を決したように話しかける。


「ごきげんよう」


 清華はいつも通り、フワリと微笑んで挨拶した。


「具合は悪くなさそうだぞ! 」

「じゃあ怪我か? 」


 みな、高橋の勇気を誉め称えながら、清華の様子を観察する。


「清華様、今日は車は? 」

「私も、皆様みたいに歩いて登校してみようと思いまして」

「じゃあ、君、これよろしく。僕は生徒会室に寄ってから行くから」


 渉は、清華のお弁当と荷物を高橋に渡すと、清華の手をさりげなく外して足早に歩いて行く。


「渉君、お昼学食でお待ちしておりますね」


 渉は、振り返らず手を振って答える。

 海に行ってから、清華は渉と歩くときは腕をとるようになっていた。あまりに自然に腕に手をかけてくるものだから、拒否するのもおかしいし、渉はどうしたものか悩んでいた。

 今朝の登校のときのドヨメキからも、さすがに学校関係のときに腕に手をかけるのは止めてもらおうと渉は思った。


「あの……、怪我とかなさってるんですか? 」


 高橋は、それならば自分も腕を貸そう! と、若干興奮気味に腕を差し出す。顔が赤くなり、鼻の穴が膨らみ、何を想像しているのやら……。

 後ろで見ていた他の生徒達も、この機会を逃してなるものかと、突進してきた。


「いいえ、どこも悪いところはございませんわ」


 清華は、当たり前ではあるが、誰の腕をとることもなく教室へ足をむける。


「なんで生徒会長だけ? 」

「きっと……、杖だ! ただの杖代わりだ。」

「そうだ! その辺の木の枝みたいなもんだ」

「歩きなれていらっしゃらないから、落ちていた木の枝を杖にして歩いていたようなもんだ。それ以外考えられない! 」


 自分達の学校の生徒会長を、木の枝扱いする生徒達だった。

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