番外編 おやごころ
勇介の卒業式で着る服を買いに夫婦で出かけた日のこと。
「今の家とも、もうすぐお別れね」
妻が感慨深げに呟いた。
結婚してからだから…もう13年経つ。
「新しい家を気に入ってくれるといいけど」
「そうね。なんたって、あなたの会社が手掛ける巨大テーマパークが目の前だもの」
「完成は、まだまだ先だけどな」
2年後にオープン予定のテーマパーク建設が始まり、一家の大黒柱は仕事の拠点を現地に移さなければならなかった。
「栄転じゃない!おめでとう。単身赴任なんて、させないからね」
そう言ってくれた妻の言葉が心強かった。
「ちょっと見に行ってみるか?」
「えっ、いいの?」
「まだ一部分しか出来てないけど」
土日は工事業者も入らない。
誰もいない駐車場に車を停め、鍵を開けて中に入る。
「すっごい!本物の森みたい!」
「ここはアドベンチャーゾーン。色んな仕掛けがある自然の中を冒険するコースなんだ」
「へぇ。あの子たちも喜びそう」
まだ名前のない森を歩きながら、目をキラキラさせる。
「今度近いうちに招待してやるか」
「本当に?だったら…」
だったら、私にいい案があるの。
そう言って妻はいたずらっぽく笑った。
勇介の小学校卒業祝いに、とびっきりの冒険を。
それから、まだまだ甘ったれな次男の悠太の成長を願って。
引越しの準備を進めながら毎日のように“計画”について話をする。
ーあなたの実家から、またリンゴ送ってもらえないかな?
ー私の仕事の仲間と…それから姪っ子も呼んでいい?
いくつかのパターンを用意した上で、危険な目には遭わせないこと、何かあった時はすぐに中断することを念頭に考えた彼女の“計画”は完璧だった。
「どうかな?」
「さすが、売れっ子脚本家だよ」
終
夢冒険 如方りり @Mgt_Lili
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