第1話 決意の転向初日
♀♀♀
私こと樫原優莉は悩んでいた。
平凡な恋でいいからしてみたい。
私の悩みは恋をしたことがない事。
恋だけでなく恋愛話すらまともにしたことがない。
恋バナというモノにもちょっと憧れていたりもする。
言うまでもないが、私に恋バナをする友人がいないという訳ではない。
恋バナ(私以外はそう思っている)は頻繁にしている。
しかしいつも話は同じ展開になる。
「ユリちゃんはどう思う?」
「私もユリちゃんの意見聞きたいな」
「え、でも、私の話なんか聞いても参考にならないよ?」
「そんな謙遜しなくてもいいよ。シノッチなんて五人連続でひと月持たずに別れてるからね」
「何よ! それを言うならミヨは告白五連敗で誰とも付き合ったことないじゃん!!」
「ムキィーー!! 何さ「自分はいい女です」アピール? シノッチなんてユリちゃんに比べたら――」
「ちょっと! ユリちゃんと比べるのは無しでしょ!?」
確かに~、と先程まで言い争いをしていた二人は笑い合う。
内心ひやひやものである。
だって私は恋人どころか告白も、誰かを好きになったことさえないのだから。
私からすれば彼氏持ちも、彼氏ができない女子も皆等しく百戦錬磨の猛者である。
例えるならば、同じ猫科の動物でも、ライオンとクロアシネコくらいの差がある。
分かりにくいかな?
違う例えをすれば、プラトンと岡本太郎の藝術感性くらい違う。
まだ分かりづらい?
要するに対極に位置する存在ってこと。
人前では口が裂けても言えないが、恋愛素人――恋愛偏差値は底辺。
テストがあれば間違いなく赤点をとることだろう。
そもそも誰かを好きになるという感情が分からない。
そんな気持ちを抱いたことが一度もない。
それはこれからも変わらないと思っていた。
そう、彼が現れるまでは。
♂♂♂
いい恋ができますように、一見可愛い神頼み。
しかし、それは願い事をする人間次第だ。
「うひょ~!! ユリちゃん可愛いな!!」
奇声をあげるのは変態――もとい神様である。
変態のくせに力は本物だから手に終えない。
「その願い、叶えてあげよう!!」
「叶えるって、どうやって?」
「簡単なことさ。ユリちゃんに見合う男を用意するのさ」
簡単に言うが、実際には難しい。
大袈裟ではなく、本当に彼女に見合う男がいないのだ。
「用意するとしても誰をあてがう気だ? アイドルかハリウッドスターでもあてがうのか?」
「そうだな……仕方ない。今一番人気のアイドルを学業専念を理由に引退させて、ユリちゃんが大学受験するまで浪人生活してもらって、同期生として入学する……みたいなシナリオはどうだ?」
さすがに前途あるアイドルがかわいそうだ。
「お前は縁結びなんぞのために、人ひとりの人生をメチャクチャにするつもりか!?」
「え、ダメ?」
「ダメに決まっているだろう」
「でも、オレ神様だよ?」
「だからだよ!」
神様なのだから下界の者たちのことも考えなければいけないだろう。
神としての仕事を放棄している。
「分かったよ。それじゃ手近なところで手を打つかな」
「手近なところ?」
「ああ、下界の男でダメなら……ねぇ」
なんでキラキラした目で僕を見るんだ?
嫌な予感しかしないぞ。
「君が下界に降りて彼女の相手をしてくれればいい」
ほら来た。
「神としての仕事に穴を空けるわけにはいかないだろう!!」
正論をぶつける。
僕も彼との付き合いは長い。
人間たちが言うところの腐れ縁みたいなものだ。
だからこそ分かる。目の前の彼が正論の通じる相手ではないということが。
全くもって分かりたくもないが……
次に彼は、「だって」と続ける。
「人間に迷惑掛けないためには神自らが出向いて問題解決した方が早いでしょ?」
「神が下界に干渉する方が問題とは考えないのか?」
「まあ、確かに神が干渉し過ぎた結果、いろいろ問題と言うより、あり得ないことが起きたりしているしな」
「分かっているじゃないか」
「あぁ、勿論だ。阪神タイガースが10年おきに優勝したり、巨人が何年も優勝出来なかったり」
それは選手の努力や運であって神は関係ない。
断じて関与していない……多分。
「だから、下界ではできる限り力を行使するなよ」
「は? いや、ちょっと待っ――」
「それじゃ、頑張ってきてください」
なんで最後だけ敬語なんだッ!
思わずツッコミを入れてしまったぞ。
そんなことを思っている間に下界に降りてきてしまった。
これは樫原優莉の願いを叶えるまで天界には帰れないということか……
困ったものだ。
要は実らずともいい経験ができればいいわけだ。
片想いも恋の1つの形だろう。
方針は決まった。
僕は彼女に告白をさせずにやり過ごす。
彼女の中で僕のことが思い出となるその日まで。
…………
……
…
(転校生は冴えない感じの男の子。でも、なんでだろう? 気になってしまう)
なんてことを彼女は考えている。
僕の見た目は、お世辞にも華やかとは言えない。そのように見せている。
ほんの少しだけ「力」を使っている。
「それじゃ、自己紹介して」
担任に促されチョークを手に取る。
名前か……考えてなかったな。
まぁ、なんでもいいか。
適当に考えた名前を板書する。
「貧乏田貧太です。よろしくお願いします」
察しのいい人は僕がどんな神様なのか分かったかもしれない。
主に貧乏クジを引く神様だ。
今回の事しかり……これからもきっと貧乏クジを引き続けるのだろう。
「それじゃ、空いてる席に……」
教室を見渡して、
「樫原の隣が空いてるな」
空いているのではない。
クラスの男子たちが彼女の隣に座る勇気がなく、見合う男になるまでは、などと考えているために空けてしまっているのだ。
僕には関係無いことなので構わず空いている席に座る。
すると複数の殺気が飛んでくる。
はぁ、めんどくさい。
貧乏クジを引くのには慣れているが、下界に降りてまで貧乏クジを引く羽目になるとは……
いや、これからもっとたくさんの貧乏クジを引くことになるのだろう。
「よろしくね。貧乏田くん」
「あぁ、よろしく」
しまった!?
そう思ったときには手遅れだった。
(私が声をかけているのに態度がそっけない!? 他の男の子はオドオドするか、一目散に駆け出すかの二択なのに! 初めて男の子と会話できた! この人となら、もしかすると――)
心を読めてしまう僕は、彼女の初恋が始まった瞬間も分かってしまう。
この娘、もしかしなくてもチョロいな。
よく今まで無事でいられたものだ。
そして恐ろしいことに、彼女の頭の中では初デートのシュミレーションがなされていた。
先走るにもほどがある。
だが既に彼女の妄想の中の僕はプロポーズをしていた。
超展開過ぎる。
樫原優莉がフラれる。
そんな展開は人間界ではあり得ない。
つまり、告白されれば付き合わざるを得ないというわけだ。
付き合ってしまえば、トントン拍子にプロポーズ、そして結婚と事が運んでしまうことは明白。
隣の席では、
(学校案内をして話すきっかけを……そして告白されて……)
頭の中がお花畑になっている樫原さん。
なんとか彼女――彼女のアプローチから逃れなくては!!
この強い決意とともに月日は流れて――半年が経過した。
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