神様は告らせない~神様はヒロインのアプローチを全力回避する(短篇)~

小暮悠斗

プロローグ

 あるところに、誰もが振り返る美少女がいた。

 老若男女問わず少女の美しさを讃える。

 そんじょそこらの美少女とは訳が違う。

 控えめに言って世界一の美少女である。


 どのような詩人も、少女の美しさを正確に表現することは叶わない。

 人類の持ち合わせた語彙では表現に限界がある。

 強いて言語化するなら〈神々しい〉だろうか。

 人間の物差しでは計れない美しさ。

 百人に聞けば百人が、人生に思い残すことはないと答えるだろう。


 その姿を拝顔できれば、死んでもいいと思わせる美少女。

 それが樫原優莉である。


 そんな彼女にも悩みはある。

 端的に言えば恋愛絡みである。


 才色兼備を体現した存在にもかかわらず、その悩みは実に幼いものだった。


 彼氏が欲しい。


 たったそれだけ。


 でも彼女にとって、それは富士山級――いや、エベレスト級の難題なのだ。


 問題は彼女の彼氏の基準にある。

 大金持ちだの、とてつもない才能を持っているとか、そういった無理難題を思い描いているわけでもない。


 求める要求はシンプル。


 私に相応しい相手であれば誰でもオーケー。


 誰でもとは言うものの、その「誰でも」に当てはまる男子など、世界中どこを探しても見つかる気がしない。


 先に述べた通り、彼女は人間の物差しでは計ることのできない存在――超絶美少女である。

 そんな彼女――樫原優莉の理想に叶う男は存在しない。

 だからこそ彼女は神社を訪れていた。

 神頼みである。


 パンパンと柏手を打つ。


「初恋――じゃなくて、いい恋ができますように」


 恋愛経験値ゼロというのは彼女のプライドが許さない。

 誰もが超絶美少女である彼女が、恋愛経験値ゼロの恋愛ド素人だとは思うまい。

 だからこそ神頼みするほかなかったのだが……


「お願いね。神様」


 どこにいるのかわからないが、彼女は神様に上目遣いで頼む。

 ウインクのサービス付きだ。


 ここで一つの問題が――大問題が発生する。


 神様に上目遣いでお願いした直後。


「まかせとけぇぇぇええええ!!」


 天界で一人――もとい一柱が叫ぶ。


 樫原優莉の美しさは人間界はもちろん、天界でも同様に称えられる。

 そして天界に住まう神々は人間と違って、いとも簡単に彼女の願いを叶えてしまう。


 その結果、「僕」は天界から下界に(彼女の願いを叶えようとした神によって)降臨(させられた)した。

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