空瓶少女

春風月葉

空瓶少女

 私は悪い子だから、そろそろこうなるとは思っていた。

 鍵のかかった扉を強引に開け、散らかった狭い部屋に数名の警官が入ってきた。

 外の光が差し込み目がチカチカする。

 私は何やら声を発しながらこちらへ歩いてくる警官をよそにぼうっと今までの事を思い出していた。


 産まれた時、私は女の子だったからお父さんはがっかりしていた。

 本当は男の子が欲しかったのだとよく言っていたのを覚えている。

 少し大きくなるとお父さんに少しでも好かれようと髪を短くしてスカートをやめた。

 お母さんはそんな私が心配だと言っていた。

 友達のさっちゃんには弟がいて、私はそれが羨ましくて、お母さんに私も弟が欲しいと言ったことがあった。

 弟がいれば、私が女の子でもお父さんが怒らないんじゃないかと思っていたのかもしれない。

 少し長い時間が過ぎ、お母さんのお腹に弟が宿った。

 でも弟と私が会うことはなかった。

 お母さんも弟と一緒にいなくなってしまった。

 二人が死んでしまったのだと知ったのは、お父さんにお前が弟なんて欲しがったからだと言われた時だった。

 人殺し、その時のお父さんの言葉が今も強く頭に残っている。

 お母さんがいなくなってから、お父さんはお酒ばかりを飲んでいた。

 ご飯はレンジに入れると温かかったけどなぜか少し冷たく感じていた。

 お父さんは仕事ばかりするようになった。

 私と目が合うとお父さんは私をぶった。

 私はそれが怖くて、家にいる時間は部屋の鍵を閉めてベッドに潜っていた。

 いつからかお父さんは家にも滅多に帰らなくなった。

 部屋の扉を開ける度に、綺麗だった家にはゴミが積もっていき、私は元の部屋を思い出せなくなっていった。

 転がった空の酒瓶と自分を重ねて泣いた日もあった。

 そんな日も、結局お父さんが怖くてさっさと眠りについた。

 私は壊れてしまっていたのかもしれない。


 警官がガシリと私の両肩を掴んだ。

 はっと私の意識が散らかった狭い部屋に戻る。

 きっと私は捕まるのだと思った。

 私は、人殺しだから。

 警官の声が頭の中に響いた。

「もう、大丈夫だから。」

 なぜかはわからないけれど、涙が止まらなかった。

 私は声を出して泣いた。

 泣きじゃくった。

 私は警察に保護された。

 連れられた先で私は、お父さんが逮捕されたことを知った。

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空瓶少女 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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