第3話 奴隷紹介所


 ガンツさんの店を後にし、ギルドがあるという街壁方向へと足を運ぶ。

 大通りに出ると、むせ返る様な人の波に少し眩暈がしてしまう。

 脇には様々な露店が広がり、そこら中に活気が溢れているのが分かる。


 街行く人の姿を見て、改めてここが異世界なのだと実感した。

 頭の上から獣耳を覗かせる獣人。耳が長く、スレンダーな体系をしたエルフ。ガンツさんと同じ、子供の様な背丈をしたドワーフ。

 ここには様々な人種が存在し、普通に生活を送っているようだ。


 そして何だか、食事の屋台がえらく賑わっている。


――ぐぅ~~


 匂いに釣られてか、唐突に鳴りだす俺のお腹。

 そう言えば、今日は何も口にしていないな。

 それに空をよく見れば、既に赤く染まり夕暮れ時になっていた。

 

「ガンツさんが剣を作っている間、結構待ってたもんなぁ……」


 俺は腰に提げた剣を見ながら苦笑する。

 これは、ギルドよりも先に宿を探してしまった方が良さそうだ。 

 とは言え、この辺りの土地勘など全くなく、どこに行けばいいのかも分からない。


「取り敢えず、適当に開いてる所が無いか回ってみるか」


 大通りに面している宿であれば、変な場所ということは無いだろう。

 俺はそう結論付け、宿探しへと踏み出した。




 一時間後。


「まさか、どこも空いていないとは……」


 五軒ほど回ってみたが、どこも既に満室だと断られてしまった。

 どうやら大通りに面している場所はどこも人気で、少なくとも朝一番で予約しなければ入れないそうだ。

 俺は仕方が無く、宿の人に教えてもらった外壁近くの宿屋を当たることに。


 この辺りはまだ聖域内ではあるものの、中心部より少し離れるためかLPの回復が遅いらしい。そのため、住んでいる層も中流層から下流層とやや生活レベルが落ちるそうだ。

 中心部よりもやや暗い雰囲気の中、俺は目当ての宿へと足を運ぶ。

 が、大通りを外れるとそこはえらく入り組んでおり、中々思うように進めない。

 そして――


「迷っ、た……?」


 まさかこの年齢になって迷子になってしまうとは……。

 ま、まぁ、ここは慣れない場所だし、仕方が無いという事で。

 

 この辺りにも店はいくらか並んでいるが、大通りとは違い今一つ活気が少ない。

 人の流れもまばらで、ここで生活している人々は既に家に入ってしまっているのだろう。

 と、辺りを眺めながら歩いていると、ふと一つの店に目が留まる。

 

 そこは酒場と宿屋が併設した一見普通の店のように思えた。

 しかし看板には――


「……奴隷紹介所?」


 聞きなれない単語を見て、つい口に出して呟いてしまう。

 すると俺の言葉を聞きつけたのか、店の前で客引きをしていた若い男が近寄ってきた。


「お客さん、今日の宿はもうお決まりですかい?」


 愛想のいい笑顔でそう尋ねてくるその男。


「い、いや、まだだ。大通りを当たってみたんだが、どこも満室みたいでな」

「そりゃあそうでしょう。あの辺りはLP回復も早くて客の入りも良い。なーんの苦労をせんでもすぐに満室になっちまう。まぁその分こちらの方はお高めなんですがね」


 そう言って、親指と人差し指で円を作り、ニヤリと笑うその男性。

 金を指すジェスチャーなのだろうが、こう言うのはどこに行っても似た様な物らしい。


「その点! うちはLP回復は今一だが、他のサービスは充実してますよ! 飯も安くてうまいってんで評判でさぁ。お客さんが気になっていた、奴隷の紹介もしてますしね」


 ウインクを交えながらグイグイ売り込んでくる彼の勢いに、思わず一歩引いてしまう。


「そ、その奴隷の紹介というのは一体何をしているんだ?」

「何をってそりゃぁ……ナニに決まってるじゃぁ無いですか」


 このこのぉ、とひじでグイグイと突いてくる。

 この短時間で距離の詰め方が半端ない。

 しかし、そうか。ナニか、ナニなのか……。


「ちょ、ちょっとだけ、話を聞いてみよう、かな?」

「あっりがとうございまーす! マスター! お客様一人、ごらいてーん!」

「おうよ! そこで座って待っててもらってくれ! 今手が離せねぇからよ!」


 客引きの男性に手を引かれる様にして店に入ると、奥から渋いガラ声が飛んでくる。

 中には思った以上に人が溢れており、皆楽しそうにワイワイと酒盛りで盛り上がっていた。


「へ~、意外と人が入ってるんだな」

「でしょう? 飯が上手いってのはマジなんですよ! もちろん、その他のも嘘じゃありませんよ?」

「はは、期待してるよ」


 この男性、距離の詰め方が上手い。

 最初に抱いていた警戒心も、いつの間にやら消え失せてしまっていた。

 

「で、お客さんはどんな子が好みなんで? と言っても、今日はお客さんでラストなんで、今残っているのは……狼獣人の子か、狐獣人の子くらいなんですけどね。もし獣人が苦手ってんならすいません」


 早速奴隷について切り出してきた彼の言葉に、思わず胸がドキリと打つ。

 周りをよく見れば、男性客の間に若い女性たちが混じっていた。

 どうやら一緒に飯を楽しむところからスタートするみたいだな。


「因みに、値段とかはどのくらいなんだ?」

「そうですねぇ……狐獣人の子なら宿と飯代込みで二万G、狼獣人の子なら一万Gってとこですね! あ、酒は別料金っすよ?」

「……えらく狼獣人の方は安いな。何か理由でも?」

「いやー……ここだけの話なんですが、実は彼女今、LPが枯渇してまして」


 そっと耳打ちするように、コソコソと内情を伝えてくる男性。


「一か月ほど前にマスターが買ってきたんですけどね? レアリティがLRレジェンドレアってこともあって、かなり安く買えたらしいんですよ。でもどっかのお客さんから病気でも貰ったのか、あっという間にLPが枯渇してしまって…… 大損だーってマスターの機嫌が悪いのなんの」

「なるほど……」


 男の愚痴に、適当に相槌を打つ。

 ……LRか。そうか、LRの奴隷って、安いのか。

 これは良い情報を入手したぞ。


「お、あの子ですあの子。あそこで給仕をしているのが、その狼獣人の子ですね」

「へぇー……」


 男性が俺の肩を軽く叩きながらその娘の方向を指し示す。

 俺も何の気なしにそちらに視線を送り……


「……え?」


 俺はその姿を見て、固まってしまった。



「レオナ……たん?」






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