第6話 女優と定年退職おじさん

ッッッベチャッッッ!!!と顔前に落ちて来たイカとスズキは見つめ合っていた。イカは、舞台を終え興奮冷めやらぬまま顔を上気させた女優にも見え、定年退職日に花束を受け取ったおじさんにも見えた。どちらも大仕事を終えた満足感と幾ばくかの寂しさを抱えていることは同じだ。イカはすでに絶命している。故にそのような複雑な心境は内包していないにもかかわらず___。派手に転んだがスズキに身体的な痛みは無かった。手のひらに多少の血は滲んでいるが、致命的な傷ではない。身体の各所ダメージはおそらく打撲的なダメージだ。何かしらのハプニング直後、急遽放出されるアドレナリンによって今は痛みを感じにくいラッキータイムに突入していることをスズキは認識していた。この後、どっと押し寄せてくるであろう痛みの事を考えながら、スズキはイカとお互いの顔を見つめ合っていた。黒服達はスズキを無言で取り押さえていた。

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