第5話 イカの回転エネルギー

膝裏ネチャネチャの32歳には、神はそれほどの走力を与え給うことなかった37m。スズキが少女と別れて走り出してから、走り切れたのは37mだった。小さな、小さな小石につまづき、スズキは盛大に転倒した。転倒の最中、スズキは走馬灯を体験していた。小学生時分の体育教師タケウチの声で「モモを上げろ!モモを!モモを上げろー!」が脳内でリピート再生されていたのであった。推進方向のx軸に対して90°の方向にあるy軸方向へベクトルを向かわせることは理に反しているのではないか?小学生スズキの疑問をよそに、タケウチは正しかった。タケウチへのリスペクトの念が今にして沸き起こった。暖かい感情に包まれながらスズキは盛大に転倒した。転倒はまず、顔面を守るべく手が地面に着地する。その後、行き場を失った足下、膝が地面に着地する。着地した膝を支点に脛は回転をはじめ、かかと方面へ大きな遠心力を発生させる。x軸方向へのエネルギーがy軸方向へ一気に転換される。イカがキラキラと宙を舞った。夕陽をまとった綺麗なイカが、輝きをはなっていた。とてもきれいだった。

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