第2話 逃走と逃避

スズキの眼前には膨大な水量を誇り、一般的には一級河川と呼ばれる川が揺蕩っていた。鴨が着水と離水を繰り返し、バシャバシャと音を立て、背後からは子供の笑い声が聞こえる。川面には夕日が映え、キラキラと眩しい。

一級河川と二級河川には何の違いがあるのであろうか。何をもってしてクラス分けが行われているのであろうか。スズキは国土交通省の仕事に想いを馳せていた。現実逃避である。パンツの中にはイカがいる。

スズキは施設(布団)から逃げ出していた。生のイカをパンツの中に入れて7時間動くことを許されない実験から逃げ出していた。荒唐無稽で傍若無人、邪智暴虐の王との契約をスズキは締結してしまったにもかかわらず、スズキは逃げ出していた。しかし、スズキにも良心はある。約束や契約を破ることは極めて悪事であると認識している。スズキは良心の呵責と現実の責任を天秤にかけ、イカをパンツに入れたままならば逃げてもセーフ理論を採用したのであった。イカをパンツに入れたまま、川面をぼんやり眺めていた。

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