イカと猥褻と私

餅搗 孝太郎

第1話 馴れ初め

スズキはその日、あまりにも理不尽な出来事に遭遇した。故に、フトンの中で一日を過ごすことを余儀なくされた。生のイカをパンツの中に入れて、7時間動く事を許されない実験を、1週間のうち3日間行うことを7週間続けることを言い渡されたのであった。

言い渡された瞬間は脳がフリーズ現象を起こし特に疑問を抱かないまま「別に良いですよ」などとあっけらかんとした応答をしてしまったのである。考えてみてほしい。生のイカがパンツの中に横たわっているのである。常人であるならば、ひゃあ、などの言葉と共にこの世界観へのアプローチを試みるであろう。おどけてみせる、おどってみせる、各々の反応を示してみせ、自らのアイデンティティを表現してみせる。甚だ、真っ当な意見でござる。

でも、でもなのです。スズキはこの提案を受け入れてしまったのである。

聞くところによればこの計画は極めて不穏な勢力が加担しているプロジェクトであると判明したではないか。大丈夫であろうか。スズキは一般市民である。ゴミはキチンと分別して出してある。今までもこれからも。スズキは一般市民として生きていくはずであった。だが、しかし。スズキはパンツの中にイカを入れる事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る