第5話 第四で君と

「ユリウス!」


 ユリウスが第四に入るとともに、駆け寄ってくる影。

 白銀の鎧に緋色のマント、肩よりも長く豊かなブロンドの髪。

 『神の乙女』こと、四天のクラウディアだ。


「無事だったのですね、よかった」


 見上げる彼女の年齢は十七。

 ユリウスとは一回り近く違う。

 彼女は小柄で、同年代の女の子よりもやや幼げな風貌をしており、それが更に年の差を感じさせる。


 少し前に第一を守っていた四天の一人が戦死したため、候補者の中から四天に選ばれ、第一担当となったユリウスと入れ替わりで、第四の守護者筆頭となっている。


 彼女の属性は光。神に愛されし乙女。

 戦闘の無い第四であるため、これまでその力は振るわれることは無かった。

 そのため、ゲートでは『深窓の令嬢』と陰口をたたくものもいる。

 外見が外見であるため、無理はない。


 だが、手合わせしたことのあるユリウスは知っていた。

 彼女を傷つけることができるものは、少なくともこの世界にはいないということを。

 彼女が姉に似ているのは外見だけでなく、能力もそうだった。

 神の守護による因果の守りは、余人に体を触れさせないのだ。

 ユリウスの剣は、彼女の体をかすりもしなかった。



 ユリウスが彼女と初めて会ったのは、そう、十年前。

 アウレリアに妹だと紹介されたのだ。

 恥ずかしそうに姉の影に隠れて、こちらの様子をうかがう彼女に、「俺ってそんなに怖いのか?」と言って、姉妹共々に妙な顔をされたユリウス。

 あれは、照れてるのよ、と彼はアウレリアに教えてもらった。

 なぜ照れてるのかと尋ねる彼に、アウレリアは、悲しく微笑んで言った。


「私がいなくなったらわかるかもね。その時は妹の事をよろしくお願い」


 彼女はあの時全てわかっていたのだ。


 ……今目の前にいる彼女の妹も、わかっているのだろうか?

 ユリウスは考える。


 しかし、現実はすぐそこまで迫っていた。

 伝令がやってきて、四天の二人に報告する。


「消滅魔法、効果無しとのことです。現在、ルキウス様がその身を変えられ、大地と結合し、足止めしているとのことですが、猶予はございません。クラウディア様ご準備を」


 ルキウスが禁呪を使ったことをユリウスは悟った。

 その身を世界樹と化し、世界と一体となって、魔神を足止めしているのだろう。

 足止め程度しかならないから、そうなったら後は頼む、と本人は言っていた。

 しかし、自分に何ができるというのか、何もできはしないのだ。

 十年前と同様……。


 クラウディアは、しばらく厳しい顔をしていたが、やがてユリウスの方を向くとこう言った。


「ユリウス、少しこちらにかがんでくださらない」


「ん? どうした? これでいいか?」


 訳わからないが、言うとおりにしてやりたい気持ちはあり、ユリウスは彼女に向かって頭を下げる。


 時が止まる。


 彼女は、ユリウスの顔に自分の顔を近づけると、そっと口づけした。

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