10羽 失踪!? 焼き鳥屋でも開店する気かオメー!!

 トラック運転手の女性を交えた会議、その翌日のこと。


 いつものように学業を終え、例のスナックへ向かうと、長谷の目に異変が飛び込んできた。昔ながらのネオンが沈黙しているのである。


 昨日の記憶では、五時になれば点灯する筈だが、それから三十分を過ぎた今でも暗いままだった。


 空き地に車を停め、戸の施錠を確認した後、長谷は店へと近付く。どれだけ接近しても、耳を澄ませても、音は聞こえなかった。


「定休日か? いや、そんな記述ないしな……」


 ドアノブに手を掛け、ぐいと雄。しかし何度試しても戸が開くことはなかった。

 鍵が掛かっている。


「どうしたんだろう、ミホさん。まさか鳥アレルギーでも発症したか?」


 もしそうだとしたら命に関わる。長谷は数度扉の前を往復した後、再びノブに手を掛けた。

 やはり開かない。


「どうすっかな……」


 必ず会わなけらばならない、という訳ではない。自分で蒔いた種を最後まで見届けようと、そういう意志から長谷はスナックに足を運んだだけである。


 不在ならば仕方ない。長谷は愛車へと戻ろうとした。


「どうした、兄ちゃん」


 道を挟んだ先、私有地であるという空き地に、灰色の作業着が経っている。白いと理を捕獲し困っていたところに手を貸してくれた、スナック常連のおじさんだった。


 彼は車が来ないか確認しつつ道路を渡る。それを迎える長谷は、表情の選択に手間取っていた。


「こんにち……こんばんは、おじさん」

「おう、こんばんは」


 長谷の前に来たおじさんは店を見遣る。彼ならば情報を持っていると思いきや、おじさんもまた、くいと首を傾げた。


「なんだぁ、開いてないのか?」

「みたいです。どうしたんですかね。おじさん、知ってますか?」

「知らねぇなぁ。風邪ひいてなけりゃいいんだけど」


 思い返せば、昨晩のミホは少しばかり様子が違っていた。尤も、出会ってから二日も経っていないのだが、それでも分かる変化だった。


 あれが体調不良の前兆だったのかまでは不明だが、気にしない訳にはいかない。


「この時間に開いてないとなると、もう望みはないだろうな。――そうだ。連絡先、教えてくれよ」

「突然ですね」

「明日から休みだろ? いつ再開するかも分かんねぇし、やり取り出来たら楽かなと。……ああ、あの嬢ちゃんにも訊いときゃよかったな」


 今週は幸か不幸か三連休である。土曜、日曜、月曜と学校は機能を停止しており、長谷自身も家でのんびりと過ごすつもりだった。休日前に問題が起きなければ。


「LINEでいいですか?」

「なんだそりゃ」


 軽いジェネレーションギャップを感じつつ、長谷は生まれて初めてメールアドレスの交換を行った。文字を一つ一つ打ち込むのは、非常に面倒臭い。ひと昔前はこれが主流だったのかと思うと、ぞっとする。だが長谷は充足感を得ていた。


 互いの個人情報を交換したのだ。互いにナイフを突きつけ合うような、かつてない実感が長谷の中に湧き上がる。心臓は高揚を訴えていた。


   □   □


 おじさんと連作先を交換した後、長谷は真っ直ぐ帰宅した。そこはかとなく覚える焦燥を宥めつつ、一日、また一日と休日を過ごす。どれだけ経っても、おじさんからのメールはなかった。


 平日がやって来た。


 いつもと同じ時間に家を出、スナックの前を通り、学校へ到着する。授業を受け、再びスナックを通り過ぎ、帰宅する。


 再び、休日がやって来た。


 おじさんからのメールはない。まさかアドレスに不備があったのだろうか。連絡出来ない程の重大な出来事が、おじさんやミホの身に起こったのだろうか。


 悶々と日付ばかりが過ぎて行く。


 最後の会談から一週間弱程が経過した頃、長谷のスマートフォンに一通のメールが届いた。


――明日、学校が終わった後、店に来れるか?


 それはおじさんからの、待ちに待った連絡だった。

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