第69話 旅の仲間
その翌日からは、仕事の合間をみて、ダイケイブ探索に必要な物品の準備をした。
回復薬などの薬草類は、店の在庫から失敬した。
そして、必要無い事はわかっているが、ジャンの針と絹糸など縫合術のセットも背負い袋に入れた。
これは俺の商売道具だ。
持っていると持っていないでは安心感が違う。
発光石はこの村のどこで購入できるのか教えてもらうため、昼休みにベアリクの所に聞きに行った。
ベアリクに聞くと、持っている発光石を譲ってくれると言った。
「発光石の一つくらいあげるよ。
それより、何に使うんだい」
ベアリクは俺に聞いてきた。
俺は、打ち明けた。
「実は、俺はダイケイブに行こうと思っている。
そこで相談なのだが、ベアリク、あんたも一緒に来てくれないか」
パーティには魔法使いが必要なのだ。
頼める人間はベアリクしかいない。
しかし、ベアリクは肩をすくめて首を横に振った。
「すまんプッピ。俺は行けないよ。
俺はしがない村のお抱え魔術師だ。
ダイケイブに行くなんて、悪いがまっぴらごめんだ。
……しかしプッピ。
なぜにダイケイブなんかに行こうと思うのだ。
やはり、マケラ様の事が気にかかるのか」
「そうだ。マケラ様を助けに行く。
そしてザウロスを倒すのだ」
俺は言った。
「悪いことは言わん。やめておけ。
……あんたが優しい人間だということはよくわかってるよ。
だから、その気持ちもよくわかる。
しかし、自殺行為だ。
あんたは只の薬草師じゃないか」
ベアリクは言った。
その後もベアリクは、俺を諭した。
しかし、しまいには俺の気持ちが変わらない事を感じ取った様子だった。
するとベアリクが「ちょっと待っててくれ」と言い部屋を出て、しばらくして鈍く銀色に光る衣類を手に持ち、戻って来た。
「これもあんたにやるよ。
これはな、"魔術師の肌着"と言われる物だ。
手に取ってみてみろ」
ベアリクから肌着を手渡された。
持った感じは見た目に比べてやや重さを感じるが、手触りは柔らかで、とても着心地が良さそうだ。
「しなやかで、丈夫な衣だ。
銀糸が織り込んである。
高級品だよ。
俺の師匠である魔法使いミコスから譲り受けた品だ。
この肌着を衣類の下に着込んで行け。
矢が当たっても跳ね返すくらいに強い生地だぞ。
必ず役に立つだろう」
「こんなに大事なものを……。
ベアリク、ありがとう」
「約束しろプッピ。
かならず生きて帰ってこいよ」
その日の午後も、いつもと同じようにタリアの店は大忙しだった。
俺は黙々と運び込まれる急患を診た。
「ねえプッピ」
タリアが仕事の合間に俺に話しかけてきた。
「あなた、また何か私に隠し事をしているでしょう?」
「わかるかい」
「わかるわよ。私は勘が良いのよ。
何を隠しているの」
「少なくとも、新しい豚を内緒で飼っているわけじゃないよ」
俺は笑って誤魔化した。
「当たり前よ……。」
タリアは何かを言いかけたが、止めたようだった。
前日の泊まり番をルイダに代わってもらっていたので、この日の泊まり番は俺が引き受けた。
その翌日は、再びルイダに泊まり番を代わってもらい、俺は仕事を早めに切り上げて、早々に退勤した。
馬車を使い、東の詰所に向かった。
東の詰所には、ラモンとオルトガがいた。
俺は、二人に声をかけ、計画を打ち明けた。
「俺は、ダイケイブに行く」
ラモンとオルトガは、しばらくの間黙っていた。
そして、二人がほぼ同時に口を開きかけた。
お互いが譲りあって、まずラモンが俺に言った。
「なんとなくだがね、あんた、行くと思ってたよ」
「マケラ様が心配なのだろう?」
オルトガが言った。
「そうだ。マケラ様を助けに行く。
そしてザウロスを倒しに行く」
しばしの沈黙。
その後ラモンが少しかすれた声で俺に言った。
「しかし、マケラ様はもう……」
オルトガが制した。
「何を言うかラモン。
マケラ様が死んだと決まったわけじゃないぞ」
俺は言った。
「そうだ。死んだと決まったわけじゃない。
俺は信じているよ。
それに、マケラ様でなくても、誰かがザウロスを倒しに行かなくてはならないことは確かだ」
「しかし、だからといってプッピ、あんたが行くことは……」
ラモンが言った。
「ラモン、わからんのか。プッピが言いたいことを。
プッピ、俺達に、一緒に来てほしいと、そう言いに来たんだろう?」
オルトガが言った。
「そうだ。そのとおりだ。
俺と一緒にダイケイブに行ってくれないか。
一緒に、ザウロスを倒すのだ。
手伝ってくれないか」
ラモンとオルトガは、しばらく黙っていた。
やがて、ラモンが口を開いた。
「誰かが行かなきゃならん。
マケラ様のためにも、村のためにも」
「なぁ、プッピ。こうしよう。
俺とラモンでダイケイブに行ってくるよ。
あんたが行くことはない」
オルトガが俺に言った。
「いや、俺は行く。
あんた達と、俺と、三人で行くんだ。
詳しいことはダイケイブに行ってから話すが、実は勝算があるんだ。
きっと倒せる。
俺はそう信じてる」
「プッピ。いいのか?
本当に覚悟ができているのか?」
ラモンが言った。
「ああ、覚悟はできている。
俺には、あんた達しか頼める人間がいないんだ」
俺は言った。
「よし……。行こう」
ラモンが言った。
「やってやるぞ」
オルトガが言った。
「二人とも、ありがとう」
俺は言った。
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