第67話 魔除け
この日も、そんな事を考えながら鬱々と夜を過ごしていた。
ふとスマホをみると、新着メッセージの通知が入っていた。
ハリヤマからだった。
◆『お疲れ様です。お知らせしたいことがあるので、このメッセージをみたら折り返し連絡をよろしくです!!』
俺はメッセージを返した。
◇『こんばんは。何かあったのかな?』
ハリヤマからの返信は五分後に届いた。
◆『こんばんは! タカハシさんお疲れ様です! 元気ですか?
ところで、ちょっとしたアップデートをしたのですが、お気づきですか?』
◇『いやわからない。何?』
◆『スマホのアプリの中の"アップデート情報"の所を更新していたのですが……やっぱり見ておられませんでしたね。すいません(ゴメン)
以前にタカハシさんから、地図アプリについてお問い合わせいただきました。
その時に、もしダンジョン探索に行くことがあればご相談ください、とメッセージを送りましたが、どうです? これからダンジョンに行く予定はありますか?』
◇『いや、ないです』
◆『ないですか(苦笑)じゃあ、不要かもしれませんが、スマホ内のアプリに新機能を追加しました!』
◆『題して、"魔除けアプリ"です。
使用するには、スマホの再起動が必要です』
◆『このアプリを起動すると、ダンジョン内でのエンカウント率を〇%から一〇〇%まで任意に変更することができます!!』
◆『"エンカウント率"ってご存知ですか?』
◇『知らない。何?』
◆『エンカウント率とは、コンピュータRPGにおいてフィールド画面上で敵キャラクターと遭遇する確率のことを示します。
ゲーム用語ですね』
◆『つまり、ダンジョンの中に入ると敵と遭遇するわけですが、この確率は、実はプログラム上で制御しているのです。
この確率を操作することによって、ダンジョン内をいくら移動しても、一切敵と遭遇しないようにする事ができますし、逆に一歩歩くたびに敵と遭遇するようにもできるのです』
◆『タカハシさんがダンジョンに興味をお持ちのようだったので、プログラマーに指示して開発させました。
あったら便利かな? と思って(苦笑)
このアプリの利点は、システム全体の再起動は必要なく、スマホを再起動させるだけで使えるようになるという所です』
ん? ……ちょっと待て?
何かハリヤマが大事な事を言ってる。
◇『ちょっと質問!
つまり、俺がダンジョンに入って、そのアプリを作動させれば、ダンジョンの中をいくら移動しても敵と遭遇しないように設定できると?』
◆『そういう事です。
あっ! やっぱり興味ありますか?
良かった(笑)』
◇『ハリヤマちゃん。
今の俺のニーズに、すごく合ってるアプリのような気がしてきたよ。
もう少し詳しく教えて』
◆『今タカハシさんが言ったとおりです。
ダンジョンに入る前にアプリを起動します。
エンカウント率設定の画面が表示されますので、任意の数字を入れます。
ここでたとえば、〇%に設定すれば、ダンジョンの中をいくら歩き回っても、敵モンスターと遭遇することは一切なくなります』
◆『ただし、有効なのは、いわゆる"雑魚キャラ"だけです。
ダンジョンの奥の"ボスキャラ"やはじめから定位置に配置されている"中ボス"等には無効です。
わかります?』
◇『うん。わかってきた!』
◆『エンカウント率設定変更の有効範囲は、スマホから半径五〇mです。
半径五〇m以内のランダムエンカウントは変更した設定値に準拠されます。
わかります?』
◇『うん? 難しいな』
◆『兎にも角にも簡単に言えば、このアプリを使えばダンジョンの中でも雑魚モンスターに遭わずに、どんどん先に進めるということです』
俺はここまでのハリヤマからのメッセージを、何度も読み返した。
つまり、ダイケイブの中で、魔物とほとんど遭遇せずに地下四階まで行けるかもしれない、とそういう事だ。
そうに違いない。
◇『ハリヤマちゃん!!
ありがとう!!(泣)』
◆『あっ、そんなに喜んでいただけると私も嬉しいです!』
◆『スマホを再起動してください。
再起動後にホーム画面にアプリが表示されます』
ハリヤマとの交信を終えた俺は、早速スマホを再起動した。
しばらく時間が経過して、再起動を終えたホーム画面を見ると、確かに新しいアプリのアイコンが増えている。
現在ホーム画面には、時計の他に五つのアイコンが並んでいる。
『MAP』
『ISLAND』
『SMS』
『マニュアル』
『魔除けアプリ(NEW)』
俺は、『魔除けアプリ(NEW)』を起動させてみた。
++++++++++++++
魔除けアプリ(NEW)
++++++++++++++
>エンカウント率設定<
俺は、>エンカウント率設定<をタップした。
すると、エンカウント率を数値で設定する画面に変わった。
現在の数値は五〇%を示していた。
俺は、数値をゼロに変更して、設定変更ボタンをタップした。
画面に、『設定変更完了』というポップアップが出て、アプリが勝手に終了した。
これで、俺がダンジョンに入っても、俺の目の前には魔物は出てこないということか……?
随分簡単すぎて、いささか実感が湧かなかった。
しかし、ハリヤマの言うことに間違いはなかろう。
俺は、他の皆と違い、死んでも何度でも生き返る。
俺は、地図アプリを使って、ダイケイブ内部を迷わずにまっすぐ地下四階まで行くことができる。
俺は、魔除けアプリを使って、ダイケイブ内で魔物と遭遇せずに地下四階まで行くことができる。
これだけの材料が揃った。ハリヤマのおかげだ。
俺の心は決まった。
ダイケイブに行き、ザウロスを倒す。
やってやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます