第66話 マケラが心配
マケラはノーラに書置きを残してダイケイブに発っていた。
ノーラはマケラからの手紙を読み、一日中泣いて過ごしたが、翌日からは気を取り直し、領主代行として村を取り仕切るようになった。
マケラが発った翌々日に、ノーラは俺を屋敷に呼び出した。
俺はノーラの元へ馳せ参じた。
「もうご存知と思いますが、父はダイケイブに行きました」
きっと一人の時に泣いているのであろう。
瞼が腫れて、目が赤くなっている。
「でも私、父はきっと帰ってくると信じています。
ザウロスを倒して、父は戻ってきます。
それまでの間、私は気を確かにして領主の仕事を代行していこうと思っています」
「私にできることがあったら、何でも言ってください」
俺は言った。
「ありがとうございます。
……これは、私宛の手紙の中に入っていた、プッピ様宛の手紙です」
ノーラは、一通の手紙を俺に手渡した。
俺はノーラの前で封を開け、中を確認した。
手紙の文章はごく短いものだった。
手紙は比較的読みやすい英語筆記体で書かれていたので、俺にも読むことができた。
”親愛なるプッピよ
私がダイケイブへ行けば、きっとノーラは悲しむだろう。
ノーラのことを頼む。
そして、地図をありがとう。どのような経緯でおぬしがダイケイブの詳細を知ったのかはわからないが、それを問うのは止めるとしよう。
いずれにせよ、プッピから地図を受け取っていなかったら、私は間違いなく地下迷路の中で討ち死にしていたであろう。
私は帰ってくる。ザウロスを倒す。また会おう。
マケラより "
帰り際にノーラが俺に訊いてきた。
「プッピ様は、父が帰ってくると思われますか」
目に涙をためている。
「当たり前です。必ず帰ってこられます。
だから、それまでの間、しっかりしてください。
村の取り仕切りをマケラ様に代わって成し遂げることが出来るのは、ノーラ様しかいないのです」
俺はそう言って、屋敷を後にした。
しかし、十一人の仲間を連れてダイケイブへ発ったマケラは、それから数日経っても帰ってこなかった。
村の誰もがマケラの身の上を案じた。
そして、とうとう一週間が経過した。
俺は悩んだ。
マケラの事が心配で心配でしょうがなく、仕事が手につかなかった。
最もそれは俺だけでなく、村中の誰もが同じ気持ちだった。
皆、マケラのことを心配していた。
しかし、一週間経過して、何の音沙汰もないという事実が、トンビ村全体に重たい空気を持ち込んでいたことは確かだったし、皆、口には出さないが、いよいよマケラは帰ってこないのではないかと、考え始めていた。
俺は、マケラを一人で行かせた事を後悔していた。
地図を作成してマケラに手渡すだけでなく、俺には出来ることがあった筈だ。
あの時なぜ、俺も行く、と言えなかったのか。
俺はこの世界のテストプレイヤーだ。
他の皆とは違う存在なのだ。
死んだら後に何も残らない皆とは違う。
俺という人間は、もし死んでも生き返ることができるのだ。
現に俺は、この世界で一度死んでいる。
ネズミに食い殺されて死んだことがあるのだ。
その時、"何度でもやり直すことができるのです"と女神リーナが言っていたではないか。
なぜ俺はマケラについて行かなかった?
怖かったからか。
……そう、怖かったのだ。
死にたくなかったのだ。
眠れない夜が続いた。
俺は、何をしているのだろう。
俺は何のためにこの世界にいるのだろう。
そんな事を考えていた。
気を紛らわせるために、夜中にユキにメッセージを送って、他愛もない会話をして過ごした。
メッセージのやり取りをしている間は、何もかも忘れて過ごすことができた。
ユキとの会話は楽しかった。
しかし、それが終われば、またマケラのことを考えてしまう。
この村のことを考えてしまう。
ノーラの泣き顔が目に浮かぶ。
この世界は現実の世界ではない。
アイランドは虚構世界だ。
所詮は、ゲーム内世界、オープンワールドだ。
それなのに、どうしてこんなに悲しくなるのだ?
どうしてこんなに切なくなるのだ……。
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