第46話 相部屋
閉店後、タリアと別れた俺は、水馬亭に向かった。
そしてまた食事と宿泊を申し込んだが、本日は個室が満室になっていて、二人部屋しか用意できないという。
仕方がないので、二人部屋で了承して部屋を確保した。
一階のパブで食事を摂っていると、ベアリクが隣に座ってきた。
「やあプッピ。また会ったね」
「今日も休暇日かい?」
いつものように普段着で現れたベアリクに冗談混じりに言ってやった。
「いや、今日は仕事だった。忙しかったぜ」
とベアリク。
村の東部の魔術師のサチメラから、患者を回されたのだ、という。
「サチメラも手が足りなかったようでな」
なんでも、ダイケイブに財宝探索に出た冒険者一行が、散々な目に遭って退却してきたらしい。
皆、怪我をしてサチメラの所に運び込まれ、サチメラが一人で四人の怪我人の対応をしていた。
そこに、さらにもう一組のパーティが、同じくダイケイブから傷つき退却して戻ってきた。
さすがに手が足りないと音を上げたサチメラが、ベアリクに患者を回してきたのだと言う。
「偶然かもしれんけどな、一日に二組のパーティが潰れるなんて、ちょっとな。……ほれ、昨日は大変だったんだろう?」
ベアリクは、昨日俺とラモンがゴブリンと遭遇した騒動を知っているようだ。
「ダイケイブの魔物共が狂暴化してきている、という事はないか?」
俺は言った。
「ああ。俺もそう思うぜ。これからは、お互い忙しくなるぞ。そんな気がする」
ベアリクが言った。
「ところでベアリク、物は相談なのだけど……」
俺はベアリクに持ち掛けた。
「今度、あんたが仕事している所を、見てみたいんだ。勉強のために」
「あんたは本当に変わった人だなぁ。
いいよ。いつでも見においで」
ベアリクと別れた俺は、二階の部屋に上がった。
二人部屋には、すでに一人の客が窓側のベッドに潜り込んでいた。
「こんばんは」
俺は先人に声をかけた。
「やあ。ごきげんよう」
客は俺に気づくと起き上がり、挨拶した。
「俺の名前はタランだ」
「プッピです」
しばらくの間、それ以上会話は続かなかったので、俺はホッと安心した。
こう見えても他人と話すのは苦手なのだ。
さっさと寝てしまおうと布団に入ったときに、向こうが話しかけてきた。
「俺はクイナから来たんだ。もちろん、ダイケイブの財宝目当てでな」
と、タランは言った。
「あんたはどこから?」
「元々はこの村の人間じゃないけど、今はここで仕事をしているんだ。まだ家無しでね、こうして毎日宿屋で寝泊まりしているのさ」
俺は説明した。
「あんた、昨日の騒ぎを知ってるか?
なんでもヤブカラ谷にゴブリンが出現して、村の番兵が負傷したとか」
「ああ。そのようだな」
俺は言った。
「ダイケイブの魔物が、そんな所まで出張ってくるなんて、思ってもいなかった。
俺は明日、ダイケイブに向けて出発するんだ。
今日パーティを組めたのでね」
タランはダイケイブの金銀財宝を目当てに、クイナの村からトンビ村にやってきた。
職業は戦士だそうで、部屋の隅に、大きな鋼の剣が立てかけてあった。
村の中心部に、ダイケイブに潜りたい者が集まる酒場がある。
そこで、お互いが自己紹介し合い、パーティを組んで、探索の計画を練るのだ。
タランはその酒場で放浪の魔術師とドワーフの戦士と意気投合し、明日、出発することに相成ったというわけだ。
「一つ聞いてもいいかい?」
俺はタランに、疑問に思っている事を聞いてみることにした。
「ダイケイブの奥深くには金銀財宝が隠されているという噂があることは知ってるよ。
でもな、誰もそれを見たことは無いんだよな?
それどころか、ダイケイブの奥深くまで潜って、生きて帰ってきた者はそういないんだろう?
じゃあ、なぜ皆、そこまでの危険を負って出かけていくんだ?」
タランは無精ひげをいじりながら、俺の質問に答えた。
「それはな、もしダイケイブの深部まで行けなくても、それなりに稼げるからだよ。
ダイケイブは古い坑山迷路だ。
昔は宝石を掘ってた山だ。
だから、それなりに深い所まで潜ることに成功すれば、貴重な鉱石が手に入ることがあるんだ。
それに、倒した魔物がお宝を持っていることもある。
だから、ある程度の金と手間と、命の危険を秤にかけても、坑山のそこそこ奥の方まで辿り着ければ、一獲千金の利益が出る可能性があるのさ。
俺が思うに、ダイケイブの探索は引き際が肝心なんだな。
少しずつ、少しずつ、行ける所まで行くのさ」
なるほど。
少しずつ、何度も行く事を繰り返し、地図を作成しながら、危険な場所や魔物が出る場所をマーキングしながら、到達ポイントを深めていくと、そういう事なのだな。
しかし、その途中で皆命を落とすのではないか。やはり冒険者というのは無謀な輩だ。
「なるほど。よくわかったよ。
いずれにしても、明日から気を付けて」
俺は言った。
「ありがとう。
成功を祈っててくれ」
タランは言った。
「実は俺は、村の薬草屋で働いているんだ。
ダイケイブから退却してきた怪我人が運ばれることもある。
また会わないことを祈ってるよ」
タランは笑って、布団をかぶり横になった。
今夜はスマホを確認するのはやめて、俺も眠りについた。
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