第44話 猫の名前
マケラはまたしてもワインを飲みすぎ、ほろ酔いの体で寝室に入って行った。
俺はマケラと別れた後、もう一度温泉に浸からせてもらい、酔いを醒ましてから、客室に行き、ベッドに横になった。
時刻を確認すると夜の十一時だった。
いつものように、俺はスマホを確認した。
今日はハリヤマからのメッセージのみで、ユキからは連絡が入っていなかった。
◆『お疲れ様です。お困りのことはありませんか?
実は、タカハシさんの私物のスマホのロックを解除させてもらい、着信履歴を確認させてもらいました。
メールボックスに新着メッセージが四件ほど入っていましたが、どれも企業アカウントからの広告メッセージのようでした。
二件は“AMAZON.COM”から、一件は“ドミノ・ピザ”、最後の一件は“セーラー服凌辱本舗”からのメッセージでした。
今後も、着信があった際には、報告させていただきます』午後4:19
俺は返信した。
◇『おつかれハリヤマちゃん。
ちなみに、セーラー服がどうのとか、そういうつまらない情報は教えてくれなくていいからね』
ハリヤマからの返信は、五分後に届いた。
◆『こんばんは! お疲れ様です。
セーラー服の件、了解です(敬礼)』
◆『どうですか?
そちらでの生活に慣れてこられましたか?』
俺は、今日一日いかに大変な目に遭ったのか、要約してメッセージ送信した。
◆『それは本当に、お疲れ様でした。
タカハシさんが無事で何よりです』
◆『しかし、さすが看護師ですね!
患者の治療ができるなんて、すごいです。』
◇『そこで聞きたいことがあるんだけど、この世界の人間って、どこまで精巧に作られてるの?
内臓から血管から神経から、全部本物と違わず構成されているのか?』
◆『そんなことはないと思います。
AI自立しているNPC(ノンプレイヤーキャラクター)は、極限までリアリティを再現してデザインされていますが、恐らくは、身体内部の臓器や血管まで細かく再現されていることはないかと思いますが……』
と、ハリヤマは言うが、実際にはどうなのだろうか。
この数日間に出会った怪我人達の皮膚の切れ方、血の出方、何から何までリアルに再現されているように見える。
ここまでくると内臓も毛細血管も神経も、解剖生理学通りに存在しているような気がしてならない。
◇『ハリヤマちゃんはそう言うけど、実際に見てみるとすごくリアルなんだよ。
まぁいい。そのうち、胸や腹が破けた患者がきたら、観察してみるよ』
◆『タカハシさん、一つ説明させてください』
◆『私は以前に、“アイランド”は、まだ中身がなく、システムが白紙の状態だ、と、申し上げたのを覚えておられますでしょうか?』
◇『覚えてるよ。
世界は再現できているけど、ゲームシステムが白紙だって言ってたな』
◆『そうです。申し添えておきたいのですが、ゲームシステムが白紙、という意味はですね、“何も出来てない”ではなく、“何でもあり”ということです。
つまり、アイランドは、極限までリアルな世界の再現という部分では、すでに完成しています。
しかし、それを“ゲーム”として成立させるためのルール作り、ようするに制限やブレーキの調整が、全く手つかずでなされていない、ということなのです』
◆『ですので、今の状態は、ある意味で枠を超えた危険な状態です。
タカハシさんは、アイランドの中で、どんな事でも起こり得る、ということです。
もちろん、アイランド内で、もし死んでしまっても、タカハシさん自身が命を落とすことはないので、そこは安心してください』
◇『それは知ってる。死んでも生き返るんだろ。
もう経験済みだ』
◆『あっ、そうでしたか(汗)
では、初日の連絡のとれなかった時に一度……?』
◇『そうです。言ってなかったっけな』
◆『すみません(ゴメン)
とにかくですね。私が言いたいのは、アイランドの中では、ほとんど制約がない、ということです。
でも、あくまでも、そこはゲーム内の世界ですから、さすがに人体の内臓や毛細血管まで再現されているとは、私は思わないんですがね……』
難しい話が続き、眠くなってしまったので、そろそろ交信を終えようと思う。
◇『了解了解。わかったようなわからんような……。
とにかくオヤスミ』
交信を切った。
今日はユキからの着信はなかったが、寝る前にメッセージを送ってみることにした。
◇『タカハシです。夜遅くにごめんね。
今日はいろいろ危ない目にも遭って、大変な一日でした。
明日も頑張ります! おやすみ』
送信してすぐに、ユキから返信が届いた。
◆『こんばんは! お風呂に入ってました。
私もこれからメッセージを送ろうと思っていたんです(ネコ)』
◆『今日、仕事が休みだったので、タカハシさんの家に行ってきました!
ネコちゃんに会いましたよー!!』
◇『猫生きてましたか。良かった』
◆『私がお家にお邪魔して、ベランダの窓を開けたらすぐ、“にゃあ”って鳴いてタカハシさんの家に入ってきましたよ!
しばらく猫ちゃんと遊んでから帰りました』
◇『人懐こい猫なんだ。
良かった仲良くしてくれて。ありがとう』
◇『ところで、猫の名前を決めたの?』
◆『はい。煮干しを美味しそうに食べたので、“にぼし”と命名しました!』
◇『なるほど。うん。良い名前だと思う』
◆『ありがとうございます。また今度にぼしに会いにタカハシさんの家に遊びに行こうと思います』
◇『よろしくお願いします。散らかっている家ですが』
◆『明日も頑張ってください!』
◇『頑張ります。おやすみ』
◆『オヤスミなさい(zzz)』
初めて猫に名前がついた。
なんだか天地創造のようだ。ここににぼしあれ。
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