第41話 戦い
俺とラモンは、森に入った。そして作戦会議をした。
ラモンは、木に登り、見晴らしの良い木の上から、追手を撃退することとなった。
俺は、その木の近くの茂みに隠れ、ラモンが打ち漏らして至近距離まで近づいてきた敵がいたら、不意打ち攻撃をかけることになった。
ラモンは俺に狼煙玉を渡した。
「もし俺が倒されてしまったら、これに火をつけて狼煙をあげてくれ。
東の詰所の人間が応援にくるはずだ。
その後はあんたも、できるだけ高い木に登って防戦するんだ。
ゴブリンは木登りが苦手な筈だから、それでなんとか時間稼ぎができるかもしれん」
そうして、ラモンは木に登って行った。
俺は、ラモンが登った木からそう離れていない場所の茂みに隠れて、短剣を抜いた。
お互いが配置につき、追手の到着を待った。
辛い静寂が続いた。
ラモンが、なるべく音を立てずに、そっと弓をつがえる。
そして、ゆっくりと慎重に狙いをつけている。
ゴブリンが射程内まで近づいてきているのだろう。
森の入り口の方から、何やら喋り声が聞こえた。
聞いたこともない邪悪な言葉だった。
喋り声の様子からして、ゴブリンは二匹どころではなかった。
三匹もしくは四匹のグループと思われた。
ラモンが、矢を射った。
数秒後に悲鳴が聞こえた。
一匹に命中したようだ。
相手も警戒し、走って散開しながら前進してくるのが、足音と気配でわかった。
ラモンが素早く次の弓をつがえて、二矢目を放つ。
……当たったのだろうか?
茂みの中からはわからない。
ラモンがもう一矢を射った。素早い動きだ。
「プッピ! くるぞ! 気をつけろ!」
ラモンが俺に声をかけた。
何者かが近付いてくる音が聞こえる。
やがて俺の視界に、緑色の皮膚をして、鼻と耳が尖った醜い生き物が走ってくるのが見えた。
俺の隠れる茂みのすぐ近くまで走ってきたため、いよいよかと思い攻撃に転じようと立ち上がろうとした瞬間、ラモンの放った矢を背中に受けたゴブリンは「シャー」とうめき声をあげて倒れこんだ。
ラモンが俺を援護してくれたのだ。
しかし、ラモンの注意が俺に向けられている間に、ラモンの上る木の根元の所まで、もう一匹のゴブリンが攻め込んできていた。
俺は意を決して茂みから飛び出し、ゴブリンの背後から短剣を斬りつけた。
短剣はゴブリンの背中にあたったが、致命傷ではなかった。
一度怯んだゴブリンは、背後から攻撃した俺に気づき、俺に目掛けてボロボロの剣を振りかざし、斬りかかってきた。
その時ラモンが木から飛び降り、地面に着地した。
驚くほどのスピードで次の矢をつがえ、俺を襲うゴブリンに向けて至近距離から矢を発射した。
矢はゴブリンの胸を貫通し、ゴブリンは倒れた。
安心したのも束の間だった。
ゴブリンはもう一匹いたのだ。
いつの間にかラモンの背後をとったゴブリンが、錆びた剣を振りかざし、ラモンの肩口を斬りつけた。
ラモンは斬られながらも振り返り、ゴブリンと掴み合いの乱闘となった。
「ラモン! 離れろ!」
俺は言い、短剣を両手で持ち、ラモンが離れたのを見計らってゴブリンに飛び掛かり、思い切り胸に刃を突き立ててやった。
ゴブリンは絶命した。
戦いは終わった。
まだ心臓がドキドキしている。
俺の両手や顔面はゴブリンの血しぶきを浴びて汚れていた。
左手で顔をぬぐった後、右手に持つ短剣を腰の鞘に戻した。
倒れているラモンに駆け寄った。
「すまなかったなぁ。あんたは怪我はないか」
ラモンは駆け寄る俺に言った。
ラモンは左の肩口を斬られていた。
流れた血が地面に血だまりを作っている。
「俺は大丈夫だ。ありがとう。
でもあんたは……。痛むか?」
「ああ、痛えな。糞、油断したぜ」
血はよく流れているが、傷はそれほど深くなさそうに見えた。
しかしいずれにせよ、急いで治療をしないと。
「プッピ、狼煙をあげてくれ。迎えにきてもらおう」
ラモンが言った。
俺は狼煙玉に火をつけた。
狼煙の煙は、小降りの雨の中でも、上空まで上がっていった。
「あんた、なかなかやるじゃないか。見直したぜ」
ラモンが傷口を右手でおさえながら言った。
「いやいや、悪かった。
俺がもうちょっとしっかりしていれば、あんたが怪我することもなかったろうに」
俺はそう言った。
目の前に倒れているゴブリンの屍体を見た。
緑色の皮膚に、ボロ服をまとい、ボロボロに錆びた剣で武装している。
恐らく殺した冒険者から奪った装備なのだろう。
ゴブリンから流れる血が悪臭を放っていた。
「おい、俺は歩けるぞ。
とりあえずここを離れようじゃないか。
迎えの仲間が来るまでに、少しでも村に近いところまで行っておこう」
ラモンは傷を負い出血しているので、本当はここを動かず救援を待ったほうが良いのではないかと思ったが、ラモンは歩くと言っているし、俺も正直、このおぞましい魔物の屍体がゴロゴロしている場所から、離れたかった。
そこで、俺がラモンに肩を貸し、ゆっくりと村の方角へ一本道を歩き始めた。
「タリアが診てくれるだろうか」
ラモンが言った。
「もちろんだ。村に着いたら馬車で向かおう」
俺は答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます