第26話 千二百万円




 千二百万円という、今まで見た事のない金額が書かれたハリヤマのメッセージを見て、思わず口元がニヤケてしまう。

 もし元の世界に戻るまで本当に六ヶ月かかっても、その時には巨額の報酬を得ることができるのか。

 月給にすれば二百万円か。



 ……しかし、本当に払う気あるのかなコイツ。

 いや、ハリヤマの所属する企業が、莫大な資産を所有しているであろう事は確かだ。

 あながち嘘ではないかもしれない……。



 ハリヤマから新たなメッセージが届いた。


◆『やっと既読がついて安心しました! 

 お怒りになってスマホを壊してしまったのではないかと焦りました(汗汗)

 タカハシさん、機嫌を直してくださいましたか(ゴメンナサイ)』



◇『とにかく、しばらくの間元の世界に戻れないのなら、必要な情報をくれ』

 と、入力して送信した。




 ハリヤマからの返信。


◆『まずお伝えしておきたいのは、スマホの事です。

 そちらの世界にいる間、私共と連絡をとる手段は、現時点ではこのスマホしかありません。

 必ず、肌身離さず持ち歩くようにしてください』



◆『“アイランド”は、中世ファンタジーの世界です。

 そんな世界において、タカハシさんの持っているスマホは、本来なら有り得ない物体です。

 スマホを使用する時は、必ず誰にも見られない場所でお願いします。

 他人にスマホを見られて、騒ぎになったり、盗まれたりしないように十分に気を付けてください。

 念のため、マナーモードにしておくことをオススメします(ウインク)』



◆『“アイランド”のプログラミングは、今この時点でも継続して行われています。

 今後、様々な部分でそちらの世界を修正、改善していきます。

 変更点が出た際は、ISLANDアプリの >アップデート情報< を更新していきますので、たまに確認をお願いします』



◆『そして、通貨のことです。確認ですがタカハシさん、今、お金はお持ちですか?』


 金? なんのことだかわからない。


◇『俺は今、スマホ以外に持っているのは、人から貰った短剣だけだ』


◆『周辺を探してみてください。

 スマホと一緒に、この世界での通貨を所持していたはずなのです』



 俺は、辺りを見回してみる。しかし、特に何も落ちていない。

 まさか、それも木に引っかかっている?


 俺はもう一度、目の前の木によじ登ってみた。

 先ほどスマホを発見した枝の分かれ目から、さらに高い枝によじ登ってみる。

 すると、枝の末端に手の平ほどの大きさの巾着袋が引っかかってぶら下がっているのを発見した。

 枝の末端は遠すぎて手が届かない。


 そこで、巾着袋がぶら下がっている枝を思いっきり揺らしてみた。

 思惑通り、巾着袋は枝から外れて地面に落下した。


 俺は木を降りて、地面に落ちた巾着袋の中身を確認した。

 中には碁石ほどの大きさの金貨が二枚と銀貨が五枚、入っていた。



◇『あった。金貨が二枚と銀貨が五枚』と入力し、ハリヤマに送信した。


◆『良かったです。

 “アイランド”では、銀貨十枚が金貨一枚に相当します。

 今は所持していませんが、銅貨十枚が銀貨一枚に相当しますし、鉄貨十枚は銅貨一枚に相当します。

 ちなみに物価の目安ですが、店で銅貨一枚か二枚払えば、食事と飲み物を入手できます。

 宿屋の宿泊料金はだいたい銅貨四枚か五枚といった所です』



◆『とりあえず、現時点での説明は以上です。

 今後も、連絡をとりあっていきましょう。

 困ったことがあったらご相談ください』




 俺は、マケラとその娘ノーラのことが気になっていた。

 彼女の病気の原因を探る必要がある。

 そこで、ハリヤマに質問した。



◇『このスマホにはブラウザは無い? 検索して調べたいことがあるんだ。急ぎで』



 ハリヤマから返信が届く。

◆『ブラウザはありません。何が知りたいのですか?』



 やはりネット検索は不可能だったか。

 それなら仕方ない。

 俺の代わりに、ハリヤマに病気の原因を調べてもらえばいい。



◇『以下の症状に合致する疾患を検索して調べて!

  呼吸困難、発作、めまい、動悸、手足の痺れ 』



 ハリヤマはすぐにネット検索して、該当する疾患を調べて回答を送ってくれた。


◇『助かった。ありがとう』

 と送っておいた。




 時刻を確認すると、もう夕方五時を過ぎていた。

 日が暮れる前に屋敷に戻らなくては。


 俺は巾着袋にスマホをしまい込み、ズボンの腰紐に巾着袋を固定し、落ちないことを確認した。



 俺は森を後にし、屋敷へと急いだ。



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