第23話 六か月




 元の世界に戻すことができない……?

 俺はハリヤマからの受信メッセージを見て茫然とした。


 だめだ、メッセージのやり取りでは拉致があかない。電話を……。

 しかし、通話のボタンが画面上に見つからない。通話はできないのか?


◇『電話は?』


◆『このスマホは通話機能は実装しておりません。

 私とタカハシさんとは、このアプリ、SMSでのメッセージのやり取りしか連絡手段はありません。

 申し訳ありません』



 頭が混乱して、考えがまとまらない。

 わからないことや聞きたいことが多すぎて、どれから手をつけていいのか……。


 とにかく、“戻れない”ということが大問題だ。


◇『なんで戻れない?』

 と入力して送信した。



 ハリヤマから返信が届く。


◆『まず第一に、タカハシさんを呼び戻すために必要な生体データが揃っていないのです。

 タカハシさんの手形から生体データを取得しましたが、これはあくまでもレベル0のテストプレイを行うための準備でした。

 ところが、機器のトラブルで実際にはレベル1が起動してしまいました。

 レベル1プログラムを終了させるためには、タカハシさんの脳内における意識階層構造をナノレベルで再構築する必要があります。

 しかし、残念ながら、あらかじめ手形から採取した皮膚及び末梢神経からのデータだけでは、十分な再構築が困難です』



◆『第二に、レベル1のプログラムはまだ開発途上の段階なので、バーチャル空間に転移させた意識構造を元通りに戻すプログラムが、まだ完成していません』



◆『今、タカハシさんの肉体は私の目の前にあります。

 しかし、意識はISLANDプログラムの中に転移しており、肉体は言わばもぬけの殻の状態です』


◆『しかしご安心ください。

 たとえ抜け殻となっていても、タカハシさんの肉体は私共のところにあります。

 傷一つつけないよう、細心の注意を払って管理しております。

 そして、タカハシさんの肉体から必要な生体データを採取して、タカハシさんの意識の再構築を試みていきます。

 しばし、お時間をください(ペコリ) 』



 ハリヤマはまさか、難しい言葉の羅列で俺を誤魔化そうとしているのではないだろうな。

 俺を元の世界に戻すには時間が必要だと、そう言っているのか?



◇『時間をください、って、いったいどれだけ待てば良いんだ?』



またしてもしばしの沈黙。五分以上かかって、次のメッセージが届いた。




◆『適切にして十分な生体データの採取と、再構築プログラムの開発が必要です。

 最短で六ヶ月程度の期間をお見積りいただければ、と思います(汗)』




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