第21話 スマホ回収




 俺は村を出て、道なりに草原を進んだ。

 ずっと先のほうに、昨日俺がいたであろう森が見える。

 生暖かい風が吹いており、周囲の草がサワサワと音を立てて揺れている。

 平和な風景の中を俺はひたすら歩く。


 道を外れるな、というノッポの助言どおり、俺は舗装されていない道をまっすぐに進んだ。

 しばらく歩くと、道はだんだんと細くなり、森に近づいた頃には獣道となった。

 森の中は、不気味な静寂が支配している。

 たまにカラスの鳴く声が聞こえる。

 

 ここはただの森ではない。

 中世ファンタジー世界を再現したオープンワ-ルドだ。

 突然モンスターが出現しても不思議ではない。

 俺は警戒しながら歩を進めた。



 やがて、見覚えのある場所に到着した。

 ここが、昨日俺が落下してきた地点に違いない。

 目の前の木の枝ぶりをよく覚えている。


 俺は、周囲を見回して、誰もいないのを一応確認してから、木の幹に足をかけ、よじ登り始めた。


 四メートルほど登り、枝の分かれ目を探した。

 

 ……あった! スマホだ!


 文明の利器を久しぶりに見てホッと一安心する。

 俺はスマホをつかみ取り、慎重に木を降りた。



 木の幹に寄りかかって腰掛け、スマホを確認する。


 スマホは、俺の愛用のスマホではなかった。


 今、俺の手の中にあるスマホは、見た事のないメーカーの物だ。

 画面はブラックアウトしている。

 電源ボタンを探すが、見当たらない。

 そもそも物理ボタンが一つもない。



 指紋認証か……? 

 ダメ元で画面部分に親指を押し付けてみる。

 すると、スマホが再起動を開始した。



 何やら見た事のないメーカーのロゴマークが画面に映し出され、砂時計マークのアイコンがクルクル回転している。

 しばらく待つと、再起動が完了し、ホーム画面が表示された。



 ホーム画面の時計は、『15:17』を示している。

 今は午後の三時台のようだ。

 そういえば、丸一日以上、時計のない生活をしてきたものだから、現在時間が判明して、なんだか安心した気持ちになった。

 時刻の上に日付が表示されているが、こちらは『4月2日 火曜日』となっている。

 俺が六本木ヒルズに出向いたのは六月二十四日なので、日付表示はあてにならない。

 恐らく、この世界での日付を示しているのだろう。


 ホーム画面には、時計の他に四つのアイコンが並んでいる。


 『MAP』

 『ISLAND』

 『SMS』

 『マニュアル』



 ホーム画面はスワイプしても反応しない事から、この一画面のみである。

 つまり、どうやらこのスマホにインストールされているアプリはこの四つだけのようだ。


 

 見覚えのあるアイコンといえば、緑の縁取りに白い吹き出しの、あのアイコンだ。しかしアプリの名前は『SMS』となっている。


 とりあえず、『SMS』を起動してみた。

 やはり、あのアプリと同じだ。”友だち”にメッセージを送受信出来て、相手がメッセージを読むと既読マークがつく、あのアプリにそっくりだ。




“友だち”登録してあるのは“ISLANDサポート”の一つのみのようだ。


 トーク画面に切り替えてみると、“ISLANDサポート”からの着信が複数入っていた。



 < 4月1日(月)>

◆『タカハシさん、大丈夫ですか』午後2:12


◆『返事してください』午後2:59


◆『おーい』午後3:01



“ISLANDサポート”からのメッセージ着信はこの三つだった。


 これは、ハリヤマからのメッセージに違いない。


 昨日、この森に落下した時、メッセージ着信音が三回鳴っていた。

 この三つのメッセージはきっとその時の受信メッセージだろう。



 早速、返信しようと思っていた所に、新たなメッセージが届いた。



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