第13話 囚われの身
どれくらいの時間が経過しただろうか。
小さな窓からわずかに入っていた陽の光は消失していた。
鉄格子の向こうで口ひげ野郎が鎮座しているテーブルの上に置かれたランプに火が灯されている。
どうやら日が暮れて夜になったようだ。
口ひげ野郎は居眠りをしている。
喉が渇いた。腹も減った。
悪臭をかぎ続けて吐き気もする。気分は最悪だ。
しかも今日一日の疲れがドッと出てきて、眠気が襲ってきているが、気持ちが張り詰めているのか眠れない。
体全体が怠い。
しかし、スマホのことが気になる。
ここが『アイランド』だとして、中世ファンタジーの世界観を再現したオープンワールドだと仮定して、なぜにスマホだけが変わらず存在する?
デニムもポロシャツもスニーカーも、全て消え去っているのに、スマホだけが残っているのはなんとも不可思議だ。
つまり、スマホが鍵だ。
スマホを回収することで、この窮地を脱するヒントが得られる可能性が高い。
それにスマホがあればハリヤマと連絡がとれるかもしれない。
ハリヤマなら、この世界から脱出して、元いた世界、つまり現代の日本に戻る方法を教えてくれるだろう。
今俺が囚われて酷い目に遭っているのも、スマホを回収できなかったからだ。そうに違いない。
なんとかして、この牢屋から脱出しないといけない。
そして村の出入り口から元来た道を戻って、あの木に登ってスマホを回収するのだ。
しかし、この牢屋から出る方法は……?
わからない。出れる気がしない。
このままでは、先行きどうなるか……。
殺されるのかもしれない。
剣だの弓だので武装している野蛮な奴らに囚われたのだ。
野蛮な裁判にかけられて、死刑を宣告されるのかも。
明日の朝には、俺は絞首刑にでもされるのかもしれない。
ここが『アイランド』の中だとしたら、あまりにもリアルすぎるバーチャル世界だとしたら、この中で俺が死んだらどうなる?
ゲームオーバー?
もしかしたら、それがこの世界を脱出するための一番の早道かもしれないが……。
少なくとも現時点では、俺はそれを試す気はない。
いつの間にかウトウト眠っていたようだ。
気づくと天井付近の小さな窓から朝の陽の光が弱々しく差し込んできていた。
俺が眠っている間に、鉄格子の向こうの見張り番が、口ひげ野郎からノッポに交代していた。
ノッポは椅子に座り、こちらをぼんやり見ている。
「起きたか。しばらく寝てやがったな。
なかなか太い根性してるなぁ」
ノッポは俺に向かって言った。
なんと返事をしたら良いかわからず、黙って頷く。
「おまえはどこから来たんだ?
まさかヤブカラ谷の向こうからやってきたなんて言うなよな」
ヤブカラ谷は、あの老人も言っていた地名だ。
俺が落下した地点から反対方向に行けばヤブカラ谷に通じると、あの老人は言っていた。
「ヤブカラ谷には何があるんですか?」
たいして聞く気もなかったのだが、他に返す言葉を思いつかず、そうノッポに質問してみる。
ノッポはびっくりしたような顔でこう言った。
「ヤブカラ谷には何があるかって?
あそこにはトウガラシの原っぱと沼地があるだけだ。
そして谷を抜けたその向こうは、ダイケイブに決まっとろう」
……ダイケイブも俺にはよくわからん。
「まさかおまえさんが、ダイケイブからヤブカラ谷を通ってこっちまでやって来たとは思えん。
おまえさんみたいなヒョロリとした体つきじゃぁ、ネズミ一匹殺せまいて。
おまえさんがダイケイブに一歩でも足を踏み入れりゃあ、アッと言う間に骨までしゃぶられとるわいな」
そう言ってノッポはガッハッハと笑った。
どうやら、ダイケイブが恐ろしい場所であることはわかった。
「しかし、そうするとおまえさんは一体全体どこから来たんだ?
トンビ村からあの道をヤブカラ谷に向かえばダイケイブにしか繋がらん。どん詰まりよ。
ダイケイブからやって来たのでないとすれば、おまえは一体どこからやって来た?」
ノッポは真顔で俺にそう聞いた。
「まさか、空から降ってきたわけじゃあるまいし」
いや、そのまさかなんだよなー。
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