第9話 テストプレイ開始
「それではテストプレイを始めましょう。
これがヘッドセットディスプレイです。
頭から被ってください」
ハリヤマはカートの上に載せていたヘッドセットを両手で持ち、俺に手渡した。
スキーのゴーグルとヘッドホンが合わさったような形をしている。
持ってみると思った以上に軽い。
ヘッド部分の内側には、赤外線センサーのように見える物が幾つも取り付けられている。
ハリヤマに言われたとおり、頭から被ってみる。
ゴーグル部分は見た目はプラスティックの黒いボディだが、装着すると、内側のディスプレイ部分がすでに視界を映し出しており、被る前と変わらないブース前の風景が目の前に広がっている。
全く違和感がない。
「どうですか? タカハシさん」
ハリヤマが声をかけてきた。
ハリヤマの声もヘッドホンで耳を塞いでいるとは思えないくらいに、今までと全く変わりなくクリアだ。
「全く違和感がないです。すっごいですね」
スコットがカートの機械から何やらコード類を引っ張り出し、俺の足元にしゃがみこんだ。
「これから手足に端子を貼り付けますね。靴、脱いでもらっていいですか?」
スコットは言った。
俺は指示通り靴を脱ぐ。
「靴下も脱いだほうがいいですか」
「お願いします」
靴下を脱いだ。
スコットは素足になった俺の両足甲と足裏に低周波治療器のパッドをさらに小さくしたような形状の端子を貼り付けた。
次に、両手の甲と手の平にも同じように端子を貼り付ける。
「まさか電気が流れたりするんじゃないですよね?
ちょっと怖くなってきたなぁ」
「大丈夫ですよ。今日はそんなことはありませんから」
ハリヤマとスコットが笑いながら答えた。
“今日は”? 今日は、ってどういう意味だ?
スコットがハリヤマの肩に手を置き、囁き声で聞いた。
「ハリヤマさん、確認ですが、今日のテストプレイは“レベル0”を試すんですよね」
「ああそうだ。“レベル1”はまだ実証性テストをクリアしてないだろう?」
「ええそうです。じゃあ“レベル0”で起動します」
ハリヤマが俺に声かける。
「じゃあタカハシさん、これからテストプレイを始めてもらいます。
タカハシさんの『アイランド』の中でのキャラクター名は『プッピ』と言います。
変な名前と思うかもしれませんが、“テストプレイヤー1”のネームは『プッピ』で固定して開発していたものですから」
「はい了解です。『プッピ』ね。で、これからどうすれば?」
「『アイランド』を起動したら、VRが開始されますので、今日はオープンワールド内を自由に散歩でもしてもらったら良いですよ。
ゲーム中に出会う人物はすべてAIを持って自立して行動しています。
場合によっては魔物も出現します。
会話をするなり、戦ってみるなり、自由にできます。
ただし、『プッピ』は言ってみればまだレベル1無職の状態なので、下手に闘いを挑むと間違いなく負けますから。
今日はともかく散歩程度をおすすめしますよ」
「うーんわかりました。
なんだかドキドキするなぁ」
ここで俺はコントローラーを渡されていないことに気づく。
「あの、コントローラーは?
どうやって操作すればいいの?」
「いりません」
スコットが俺の質問に答えた。
「VRが開始されたら、自分の思ったように動くことができます。
頭の中で思った通りに、プレイヤーも動きますので」
「手足につけた端子はそのためなのかな? すごいですね」
「あとは、実際にプレイしてもらったらわかると思います」
「了解です」
「それでは起動しますよ」
スコットが言った。カートの機械のスイッチを操作している。
「いってらっしゃい」
とハリヤマが言った。
ピッ とヘッドホンから高周波のクリック音が聞こえた。
さらに続けて、ピッ、ピッ、ピッとクリック音が連続すると同時に、視界が徐々に暗くなっていく。
いよいよ始まるのか。
連続するクリック音の周波数が徐々に変化していき、高音から低音に移動していく。
視界はもはや真っ暗だ。
クリック音が低周波のビープ音に変化する。
と同時に、目の前にタイトルバックが表示された。
“ ISLAND
presented by 地球人類研究所
loading please wait......”
次の瞬間だった。
突然に聞こえていたビープ音のボリュームが大きく変化すると同時に、両耳の奥を刺すような痛みが襲った。
まるで両耳の穴から鋭い針を脳に突き刺されているような激痛だった。
やがて痛みの範囲が広がり、激しい頭痛に変わった。
前方に見えていたタイトルバックはかき消され、視界全体が放送終了したテレビ画面のような砂嵐に覆われた。
「ぎゃぁー!! 痛い痛い痛い!!」
おもわず悲鳴をあげる俺
耳をつんざくビープ音と激痛の中に混じって、ハリヤマとスコットの声がかすかに聞こえたような気がした。
「……ベル1が起動して……のか?
……どうして……止めたほうがい……」
声が聞こえたのはそこまでだった。
なぜなら、俺はあまりの爆音と痛みで気絶したからだ。
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