第15話「王都決戦その2」
Side ユリシア王国王女 ソフィア
(私は奇跡を見ているのだろうか?)
今の状況も、今に至る過程も奇跡的だったが――敵の占領された外へと繋がる際奥の城門から一気に城下町を駆け抜け、そして多くの民や王族が立て籠もる最後の城門まで来たそれは眼前で一気に大空へ駆け上った。
黒い機体。
黒い鳥のエンブレム。
そして同盟国の証である四角い白の中央に日の丸のマーク。
天に駆け上ったその黒い鳥は――次々とバルニアのドラゴンやグリフォンなどに跨がる騎士達に襲い掛かる。
戦場を静寂が支配した。
不思議な程に静かだった。
そうして、沈黙を破るかのように誰かが言った。
「奇跡だ!! 奇跡が起きたぞ!!」
「遂に天からの助けが来たんだ!!」
「ユリシア王国万歳!!」
デタラメな現実の受け止め方だと思う。
だけどそう思いたくもなるような光景が今も上空で続いている。
ソフィアは城壁の上でそれを呆然と眺めていた。
☆
Side ユリシア王国 王都ペガサス隊 隊長 エルナー
ペガサスに跨がる美女。
蒼い髪の毛を後ろに束ねた妙齢の美女。
軽装な鎧を身に纏い、槍でバルニアの空の騎士達と互角の勝負を演じていた。
今日まで持たせられたのはニホンと言う国から来た増援の御蔭である。
――救いはくる。
そう元気づけて彼達は必死にエルナーたち軍人だけでなく民間人までもを支え続けてきた。
正直その心遣いだけでも満足だった。
バルニアとの連戦連敗。
少なくなっていく仲間。
絶望的な戦局。
だが彼達の御蔭で自分達は伝説の一部になれる事を誇らしく思った。
正直戦局は好転したが――このまま逆転まではいかないだろうと誰もが心は折れ掛かっていた。
エルナーも、そしてソフィア王女も、誰もがそうだった。
だが――今の光景は――
次々と敵の飛行部隊が落とされていく。
敵の攻撃もまるで当たらない。
ギリギリまで引きつけて回避し、時には敵に当てて回避する。
遠くにも同じような飛行機械が見える。
圧倒的な力で敵を焼き尽くしているのが見える。
だけどあの黒い鋼鉄の鳥だけは違った。
まるで彼一人だけは他の鳥達とは違った、自由な空を飛んでいるようだ。
胸が躍る光景。
英雄とは彼のような人を言うのだろう。
エルナーは決意した。
「皆、今のウチに態勢を建て直して!! 無事な物は私に続いて!! あの援軍を援護するわ!!」
「了解!! みんな、魔導具でエルナー隊長の命令は聞いていたわね!? 私達は勝てるわ!!」
「ニホン軍に負けるな!! 我々もバルニア軍を叩き出すんだ!!」
士気が一気に上がる。
攻勢の時は来た。
☆
Side バルニア軍 王都攻撃部隊 混成飛空騎士団 ガジム将軍
本来ガジムは竜騎士団を纏めていたが戦力の消耗が思った以上に激しく、混成飛空騎士団として戦力を統合、再編成して最後の攻めに入ってきた。
不安なのはニホンと呼ばれる謎の新興国家だ。
噂が噂を呼んでいる状況でディアス王子は危険視しているようだ。
ガジム将軍も同じだった。
だがそんな心配も王都を落とせば終わる。
だが少数のニホンの精鋭部隊が介入してから徐々に戦の流れは変わっていき、そしてまさかの全軍撤退命令で混乱した。
今もディアス王子は殿をする部隊や早急に撤退するべき部隊などを必死に命令を飛ばして指揮している。
(何か重大な事が起きたのだろうがッ――)
だが今はそんな事を考えている暇はなかった。
黒い鋼鉄の飛行機械が次々と友軍を蹴散らしていくのだ。
幾ら攻撃しても当たらない。
逆に友軍の猛攻撃で味方が餌食になる始末。
「殿下!! 我々はこのままでは全滅してしまいます!! 出来るだけ時間を稼ぐので少しでも早く撤退を!!」
『くっ――すまん――』
自分の武運は尽き果てた。
圧倒的だった我が飛行部隊は――たった一機の黒い鳥――黒い飛行機械――死神の遣いだろうか? の手で次々と落とされていく。
空の彼方。
自分達が届かぬほどの天空にまで昇っては降下して餌を捕食する動物のように次々と敵を落としていく。
「私が殿を勤める!! 我が部隊も散開し、ディアス王子の下に馳せ参じた後に撤退を援護せよ!!」
相手の動きのクセは掴んだ。
一騎打ちを挑む。
相手が急降下してくる。
(速い!!)
ドラゴンのブレス。
それを相手は容易く回避する。
次の一手――長槍から雷光の魔法を放つ――
(仕留め・・・・・・損ねた・・・・・・)
相打ちの覚悟の一撃は避けられた。
相棒の竜が何かに打ち抜かれた。
仕留めた相手は傍を過ぎ去り、暴風で空中に投げ出される。
死の恐怖よりも重要なのは勝敗は決したことだ。
自分は地面に落下していく。
(これが最後の戦場であったか)
不思議と恨みとか後悔とかはなかった。
ただあるのは解放感のようなものだけだった。
☆
Side 日本 航空自衛隊 レイヴン1 川西 幸斗 二尉
(あれが人の生きる力か――)
先程の一騎打ちをそう振り返りつつ任務を続行する。
人の生きる力。
生きたい。
死にたくない。
誰かのために戦う。
大切な物を守りたい。
それらが統合した、上手く説明できない力。
それを東側の戦時中や最後の戦いで何度も目にしてきた。
不思議な感覚だ。
先程の命のやり取りを恥ではなく、誇りのように感じている。
これも何度も経験してきた。
『こちら空中管制機ウェザーリポート。作戦目標はほぼ達成――航空隊の諸君、お疲れ様。レイヴン1。色々と言いたい事はあるが、君の御蔭で王都はユリシア王国の制空権は完全に確保された。被害も想定を遥かに下回る見込みだ』
とのことだった。
川西二尉も(調子に乗ってやりすぎたな・・・・・・)と反省した。
『レイヴン1――アナタは私とペアで飛んでるのを忘れてない?』
傍にレイヴン2の機体が寄ってきた。
少し怒り気味だがこの程度で済んで良かったと考えることにした。
『悪いなレイヴン2――ウェザーリポート――こっからどう動けばいい?』
『今戦況を把握中だ――待て――また謎の部隊だ!! 南東の方角!! この空域に突っ込んでくるぞ!! 数は十三機!! うち一機――なんだこれは!? 後方にいるが反応がデカイ!! 軍艦サイズだ!!』
以前襲ってきた敵か、新手か――ともかく休ませてはくれないようだ。
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