第14話「王都決戦」

 Side ユリシア王国 王女 ソフィア


 長い銀髪をポニーテールにして束ね、動きやすいドレスと白銀の鎧に剣を手に迫り来る敵を味方を指揮し迎撃するソフィア。


 他にもバルニアから国を焼かれて義勇軍となった人々も一緒に戦ってくれている。


 戦いは遠大な城門、城壁は突破され、市街地での激戦になっており、何度も大砲や攻城魔法が使える魔導士、ゴーレムに竜騎士を差し向けられたりしていた。


 最後の砦である王城で本陣を敷き、避難民と一緒に協力して抵抗を続けている。


 日本の助力がなければとっくに陥落していただろう。


 特に未知の鎧――ヘル・ダイバーズと呼ばれる彼達の力は凄かった。


 妹のアイナが協力を約束してくれた彼達。


 謎の武器の力もあるだろうがそれを抜きにしても彼達の総合的な戦闘力に助けられた。


 ただの武勇だけではなく、冷静な判断力や未来予知しているかのような素早い行動力、それを行う継続力。


 疑いようもなく彼達は戦闘のプロだった。


 王都の上空では制空権を確保するために飛行可能で戦闘的な種の――ペガサスやグリフォンなどに乗った騎士団がバルニアの竜騎士達と激しい攻防戦が幾度も行われている。


 だが敵の勢いが目に見えて弱まり、ソフィアは「む?」と思った。


「日本軍が言っていた"例の作戦"が成功したのか?」

 

 最後の城門近くの陣地。

 傍に控えていた――眼鏡を掛け、鎧を身につけた短い緑髪の参謀の女性に声をかける。


「そう考えるのが自然なのでしょうが――信じられませんね」


 との参謀の女性の弁も分からなくはない。

 バルニアはこの先、間違いなく列強入りする軍事力だと言われていた。


 敵の増援を混乱させると言うのは簡単でもそれを現実にするのは難しい。

 一体どんな手品を使ったのであろうかとソフィアは考えてしまうが――


「――今のウチにこちらも態勢を整えておこう」


 考えるだけ無駄だと思い、ソフィアはそう決断するのであった。

 


Side バルニア ディアス王子


「援軍がやられただと!?」


 現在城攻めの真っ最中のユリシア王国の王都から少しばかりの距離が離れた本陣。

 豪華に整えられた天幕ではディアス王子はその報に驚愕した。


「援軍は奇襲を受けて混乱状態だそうです。被害状況の把握も困難で――」


「――撤退だ!」


「はい?」


 そのディアス王子の決断に居並ぶ将兵達は首を傾げた。


「恐らく敵はすぐ近くに迫っている! このままだと挟み撃ちにされるぞ!」


「ですが今撤退すれば――」


「ユリシアよりもニホンと言う援軍の方が気がかりだ! 奴達の戦力はまだ底が知れん! 攻城部隊は順次撤退! 竜騎士団は戦闘を続行させつつ撤退を支援! 不満があって戦闘を続行したいのなら好きにさせろ! 時間稼ぎにはなるだろう!」


「は、はは!!」


 ディアス王子の迫力ある矢継ぎ早な命令に頭を下げる。

 居合わせた将兵達も概ねディアス王子の指示に従った。

 

 そんな時、聞き覚えのある轟音が空から響いた。



 Side 日本 航空自衛隊 レイヴン1 川西 幸斗 二尉    


 オペレーションフローイングは開始された。


 増援に対する遅滞目的での攻撃。


 間を置かずに航空戦力による王都へ展開するバルニア軍の撃滅。

 

 陸上自衛隊もユリシア王国内のバルニア軍の軍事拠点を次々と攻撃していく。


 川西 幸斗二尉は相変わらず黒いF4のカスタムモデル、Fー4JCに乗っていた。


 ミサイルに頼らない機関砲寄りの装備なのも変わらずである。


『こちらニンジャ部隊。王族のディアスに対する攻撃は禁ずる。位置情報はデーターで送信しておく』


『こちら航空管制機、ウェザーリポート。すでに敵軍は王都内に侵入。また敵の航空戦力が飛び回っている。支援するにあたり、精密さと判断力が要求される。敵味方のの識別はこちらの電子支援機などを通して随時更新していく――』


『角谷陸将だ。状況は切迫している。まずはユリシア王国の王城付近にいる敵を叩いて欲しい。攻城兵器などを破壊するだけでも手助けになるはずだ。今回の作戦は敵は"殲滅する"のではなく、"追い払うこと"のみを考えてほしい。私からは以上だ』


 とのことだった。

 何度も通達された作戦内容ではあるが人の命が掛かっているのだ。

 念入りにこうして最後の最後まで言うのは仕方ないと言えるだろう。


『上空からの突入は厳しそうね――』

 

 レイヴン1の相方、レイヴン2こと桜木 美琴 三尉(搭乗機は何時ものNFJー1ネクストファイター)はそう評する。


 いちおう日本側からIFF(敵味方識別装置)を提供されているが戦闘機の火力や速度を考えればあまり上空には近寄れない。

 ただ傍を通り過ぎるだけで味方を墜落させてしまう危険性だってある。

 

 なので低空飛行が求められる。


『なら堂々と城門から入ればいいだろ』


 川西二尉は即刻決断する。


『え? ちょっと、レイヴン1!?』


 桜木三尉は驚愕する。

 他の戦闘機乗り達も同じだ。


 大きな城門は戦闘機なら潜り抜けられるだろうがとんでもない低空で、猛スピードで突っ切るなど正気の沙汰ではない。


 そうこうしているウチに川西二尉は城門に突っ込んでいった。

 


 ディアス王子配下 グレイン将軍


「なに!? 撤退命令だと!?」


 城攻めは市街地戦である事を含めて敵の最後の粘りに苦戦しながらも進めていたのだがまさかの撤退命令に驚いていた。


 周囲では城攻めのための道具だった物やゴーレムや大砲などの残骸が転がっており、散々な有様だ。


 投入される傍から謎の攻撃で優先して的確に破壊されるのだ。

 

 それだけでなく隊長格も次々と討ち取られていき、指揮系統は半ば崩壊しながらもどうにか踏ん張りつつ攻め続けていた。

 

 そこに来て撤退命令。


 何を考えているのか分からなかったがディアス王子は無意味にこんな命令をするような人ではない。

 

 悔しい気持ちはあるが何か考えがあるのだろう。


「何だこの音は―」


 そう思った矢先――何かが陥落させた王都の外へと繋がる城門の方角から何かが猛スピードで突っ込んできて、あっと言う間に頭上を過ぎ去り、暴風が巻き起こってグレイン将軍含む将兵に混乱が起きる。

 

 同時に残った攻城兵器――大砲、ゴーレムなどが次々と破壊されていく。


 そして敵の最後の城門の近くで垂直に天高く昇っていった―― 


 この一瞬の光景でどれだけの味方が倒されたのだろう。


 だがグレイン将軍にはそれがとても幻想的で、まるで神話の一ページを垣間見たかのような、心奪われる光景であった。

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