第13話「オペレーション・フローイング」


 Side ヘルダイバーズ コールサイン オメガ


 ヘルダイバーズはユリシア王国王都で戦闘をしていた。

 と言っても戦闘範囲は城下町も含まれているのでとても広大である。

 周囲を大軍に包囲され、城の後ろ側は部隊の展開にむいてない山脈であるが敵の指揮官は中々に優秀らしくそこからも航空戦力で敵を送り込むという手法で追い詰めてくる。

 

 にも関わらず陥落してないのは緑の斑模様で塗装されたパワードスーツに身を包むヘルダイバーズだけでなく、腕利きの自衛官が送り込まれて映画一本作れるぐらいの活躍をしているからだろう。


 オメガなどもそうだ。


 アサルトライフルで的確に指揮官を狙撃したり、ロケット砲などの爆発物でドラゴンを撃ち落としたりとか迫り来るゴーレムを破壊したりとかしていた。


 時には白兵戦で殴り倒したり、相手の武器を奪って仕留めたり、夜間に敵へ急襲仕掛けたりとかもしてユリシア王国から畏怖と敬意の目で見られ――派遣された自衛隊からも「オメガの噂は本当だったんだな・・・・・・」とか恐れられていた。



 Side バルニア王国 王子 ディアス


(こんなはずでは・・・・・・・)


 本陣では内心ディアスは焦っていた。


 バルニア王国の王子であるディアスは焦っていた。

 日本の軍隊が参戦してきた辺りから戦況が一変。


 ユリシア王国内に展開していた自軍が次々と音信不通となり、気がつけば補給線が絶たれ、自分達が逆に包囲される危険性が出てきた。


 予測される敵の戦闘力を考えれば引き上げるのも賢い選択だろうが、その前に甚大な被害を被る可能性もある。 


 だから早急に城を陥落させ、増援が来るまで王都に立て籠もる必要性が出てきた。



 Side 陸上自衛隊 バルニア軍増援部隊方面 作戦指揮車


「観測機からデーターが送られてきました」


「特科部隊、射撃準備よし」


「オペレーション・フローイング作戦第一段階に突入します」


 陸上自衛隊は遠く離れた場所。

 ユリシア領地内のまだ夜も明けきれない深夜。

 大部隊を「撃退」するために射撃準備をしていた。


 どうして砲撃による「殲滅」ではなく「撃退」なのかと言うとかなり説明は難しい。

 

 賭けの要素もある。


 と言うのもこの世界には一種の魔法的な通信機が存在している。

 撃滅させた場合、即時に知られて追い詰められた敵は死兵と化して首都攻めを続行する可能性があり、そうなった場合、首都の被害は甚大になる可能性もある。


 増援部隊が合流したところで一気に叩くという作戦もあったが、これは政治的な都合で無理であるし、例え撃滅させたとしてもその頃には首都への被害増大は間逃れないだろう。


 なので希望的観測もあるが敵戦力の威力偵察も兼ねて砲撃を行い、増援部隊到達までの時間稼ぎを行う事にしたのだ。

 

 少なくともこうすることで司令官クラスはともかく兵士達には「増援は来る」と鼓舞するしかなくなるからだ。


『総司令部より。そちらのタイミングで射撃してよし』


「了解。撃ち方準備。作戦内容を再度復唱の上で射撃準備」


 そうした手順を踏んで射撃準備に移る。

 一見無駄に見えるが失敗が許されない軍事組織においてはこう言う手順は大事なのだ。


 そして全ての手順を確認した後に砲弾は発射された。


 敵の被害は軽微なれど大混乱に陥り、再び進軍するまで立て直すのに時間を要した。

 


 Side ユリシア王国 王女 アイナ

 

 ユリシア王国の王城。


 兵を引き連れて国を追われて亡命してきた王族達が詰めよっている


 アイナ王女含めて全てのユリシア王国の王都にいる将兵は滅ぼされた他国の義勇兵達、一緒にバルニア軍の大軍と戦い抜いていた。


 自衛隊も頑張っているがそれでも物量差を覆せないでいる。


 アイナ王女も先程まで命令を出しつつ治癒魔法で必死に城内に運び込まれた将兵達を魔法で癒やし続けていた。


 武勇に優れたアイナの姉のソフィアも前線を支えるために指揮を執っている。


 遠い地で自衛隊による増援部隊への足止め作戦が敢行され、朝日が昇り――アイナはクロッカス国王や近衛兵と一緒に城の最上階へと上がる。


 その場所は王都や幾重の城壁が一望できる場所だ。


 彼方此方で煙が上がり、城下町にいる国民に王都のあちこちにいる我が軍の兵士、城壁の遠くに敵ながら見事としか言いようがない陣を構えている敵の姿があった。


 敵は幾たびも攻め込んでいるにもかかわらず、こうして見事な敵の陣容を眺めてみると敵軍は底なしではないかと言う不安すら湧いてくる。 


「それで本当に来るのかね?」


 威厳ある出で立ちの髭を蓄えた国王クロッカスは娘であるアイナに尋ねる。


「もう、かれらは我々のために戦ってくれています。いまさら約束をたがえるとは思えません」


 と、強気かつ堂々とした物言いで返した。


 クロッカス国王は一瞬目を丸くし、笑みを浮かべて「成長したな」とつぶやく。


 アイナは照れて「ありがとうございます。父上」と返した。


 胸中では不安だらけだった。


 死を覚悟しながらも戦ってくれている将兵達。


 もう逃げ場なく王城周辺の庭などの彼方此方でキャンプを張って震える罪のない民たち。


 その戦闘能力ゆえに前線に出なければならなかった姉のソフィアのこと。

 

 今も頑張っている母のフローラのこと。


 そして自分達とともに戦うことを選択した日本軍――自衛隊のこと。


 自衛隊は強く味方してくれるのは頼もしい。


 なし崩し的にそうなったとは言え、本来は彼達には関係のない戦いの筈だ。


 それを心苦しく思う事があったが――


(共に戦い抜きましょう。それがきっと彼達に酬いる唯一のことだから)


 両目を瞑り、祈るように胸の前で両手を合わせて静かにアイナ王女は祈った。


 

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