第11話「夜間飛行」
Side 川西 幸斗 二尉
ミズリの港町その物は平穏だった。
時間が経過して自衛隊と現地住民も細かいトラブルはあるが大分打ち解けてきているらしい。
だがやる事は皆、キッチリやっている。
中には戦闘のスイッチが入っている奴もいた。
飛行場や格納庫は特に慌正しい。
第三次世界大戦の時程ではないがそれでも皆気合いが入っている。
謎の襲撃者――正体は不明。
戦闘目的は分からず。
だが保有しているテクノロジーは外宇宙テクノロジーを導入している自衛隊を部分的に上回っているもっとも警戒している敵。
あの戦闘から三日経過しているが今でも厳戒態勢だ。
哨戒飛行の回数も増えており、補給の護衛任務のために飛行する者も行われている。
本土でも同じ様子らしい。
一般には情報が回ってないらしいが一部の重要な役職の人間には披露されている。
皆、新たな敵の出現に緊張感を漂わせていた。
川西二尉も平静を装っているが同じ感じだった。
今日もペアの桜木三尉と同じ空を飛ぶ。
眼下にはミズリの港町が広がっており、戦時下とは思えない綺麗な町の光で彩られていた。
最近では自衛隊の兵器達は観光名物扱いになっていて戦時下にも関わらず見物に来る人間がちらほら。
その中にどれだけ他国のスパイがいるのかは分からないがそれは自分の仕事ではないと川西二尉は自分に言い聞かせる。
『哨戒飛行の回数増えましたね』
「まったくだ。資源不足解消されてるワケじゃないのに上も無茶するよ」
ハァと川西二尉はため息をついた。
日本は第三次世界大戦を終えてからまだ一年も経過してないボロボロな状態でこの世界に転移してきた。
まだまだ完全復興には程遠い状況である。
救いなのは再建できる希望があることだろうか。
『私達――てっきり、何らかの罰則を受けると思ってたんですけど』
「第三次大戦前ならそうなっただろうな」
川西二尉はそう言うが内心、上の戦闘許可があったとはいえ何かしらの懲罰があると思っていたが逆に頭を下げられた。
これが第三次大戦前だったら政治家連中に全部現場の責任にされて二度と戦闘機に乗れなくさせせられただろう。
それ以前に戦闘すらできなかっただろうが。
『しかし川西二尉・・・・・・あなたは何者なんですか?』
「どうした突然?」
『いえ、周りも腕利きだらけなんですが・・・・・・その中でも川西二尉は飛び抜けているように思えて』
「いちおう宇宙船の円盤の撃墜経験あるが買い被りすぎだ」
『やっぱり最終決戦に参加してたんですね』
最終決戦とは巨大宇宙船が人類抹殺ために稼働した戦いの事だろう。
文字通り地球の航空力学の常識を越えた挙動で襲い掛かってきて本当にアレは悪夢だったと川西二尉は当時を思い出す。
「そう言う桜木さんは最終決戦の時は――」
『・・・・・・私は出撃させてもらえませんでした。兵隊になったのが遅くて、パイロットになれてもあまり戦場の空を飛ぶことはありませんでした。最終決戦も当時の上官の判断で飛ぶことなくこの世界に――』
川西二尉は「そうか」とだけ返した。
下手な慰めはかえって逆上させる。
「確かに第三次世界大戦は終わったが俺達のフライト(戦い)はまだまだ続く。ヒヨッ子だとか言ってられんのも今のウチだぞ」
『ふふ』
なぜか笑われた。
「あ~やっぱおかしかった?」
『ええ。無理していい上官演じなくても大丈夫ですよ』
「そか。やっぱ自分のキャラじゃないと思ったんだよな」
こう言うのは前の隊長とかの役目だ。
自分の柄じゃないなと思った。
『話題変えますけど、隊長――上はやはり短期決戦に持ち込むつもりみたいですね』
「だな――謎の敵を警戒しての事だろう。技術差で圧倒してるから敵の主力部隊を撃滅して時間稼ぎするつもりらしい」
上の方針は一部の将兵にしか伝えられてない。
川西二尉たちはその一部の将兵だった。
謎の敵の出現により、将兵に混乱が起きている現状。
とにかく物量差や魔法や異世界と言うイレギュラーを圧倒的な技術差で埋めている現状を維持するためにユリシア王国に展開するバルニア軍を叩き出すつもりだった。
そのためにはまずユリシア王国王都周辺にいるバルニア軍を撃滅して相手が戦力を立て直す間にこちらも戦力を立て直すと言う算段の作戦だ。
この作戦の前段階としてすでに陸上自衛隊がバルニア軍のユリシア王国内の拠点を幾つか制圧。
特殊部隊ヘルダイバーズは見事にアイナ王女を王都へ送り届け、日本との連携をより強化するために動き始めている。
その後、ヘルダイバーズは王都に留まり防衛戦に参加しているようだ。
近いうちに川西二尉達――レイヴン隊を含めた飛行隊もバルニア軍撃滅のために投入されることになるだろう。
(王都解放作戦・・・・・・オペレーション・フローイングか)
ユリシア王国を花にみたててフローイング(開花)と名付けたのだろう。
作戦名はともかく自分たちのやることは変わらない。
川西二尉は操縦桿を握る力を少し強める。
バルニア軍の大きな動きが知らされたのは哨戒飛行を終えた後だった。
ユリシア王国北部のバルニア軍に占拠された砦から大部隊がユリシア王国の王都に向かって進行中とのことだった。
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