第10話「謎の襲撃者」

 晴天の空。


 レイブン隊こと川西二尉と桜木三尉の二人は戦闘機に乗って西の空へと飛んでいた。


 周囲には同じく派遣された飛行隊が飛んでいる。


 先日戦ったミズリの港町。

 そこで簡易的ながら飛行場が開設されたらしい。

 

 港町は一度敵の襲撃があったそうだが静かな物だそうだ。 


 ユリシア王国の王都では現在、特殊部隊クラスが送り込まれてユリシア王国軍に加わり激しい戦闘が連日連夜行われているとか。


 構図は質対量の戦い。


 まるで東側と西側とで別れたあの第三次世界大戦と同じである。


 違う例があるとすれば敵との軍事レベルが掛け離れているせいか虐殺紛いの戦闘になるだけだが。


 周囲も楽勝の雰囲気になってきており、噂では政府はもう戦後の事を考えているそうだとか。


 まあこれも無理からぬ話だろうと川西二尉は思った。


 この後、物語の世界では大体とんでもファンタジー兵器が登場して足元を掬われたりするのだが。


 確か異世界に海外派遣途中の自衛隊が呼び出された奴とかがその傾向が顕著だった。


 隕石が降ってきたり、戦略級の古代兵器が牙を向いてきたり、空中要塞が攻め込んできたりとか。

  

 他にもファンタジーお約束の巨大生物との戦いとか。


 先日港町で戦ったばかりの あの巨大ドラゴンの遺体は魚の餌になる前に現在海上自衛隊の手で引き上げられ、本土で分析中である。


 あの一匹だけと言う安易な考えは出来ない。

 もしもまだ沢山いて、あのレッドドラゴンがイージス艦の攻撃クラスでないと倒せないような生物ならば大幅に軍備の見直しが必要になる。


 最低でも陸自、空自、海自により強力な兵器、例えばレールガンやレーザー兵器の本格的な投入が開始されるだろう。


 自衛隊の上の方や財務省の思惑が考えていた旧世代兵器の処分場と言う名目の軍備編成の目論見が崩れた事になる。


 そう言った意味ではレッドドラゴンの存在は派遣された自衛隊にとっては武装強化と言うお題目が出来てプラスに働くと言う因果な展開となった。


 それはさておき――レイブン隊含めて他の飛行隊は仮設ながら完成した飛行場へと向かっている。


 港町ミズリでは一度だけ大規模戦闘が起きて以来は平穏であるがユリシア王国の王都では激戦続きらしく、噂ではヘルダイバーズを始めとした凄腕集団がユリシア王国の支援のために送り込まれているらしい。


(て事はオメガの奴もいるってことか・・・・・・)


 などと愛機のFー4のコクピットの中で川西二尉は思った。

 ヘルダイバーズのオメガは正真正銘の化け物である。

 産まれた頃から戦闘兵器として育てられたと言っても信じられそうなぐらい戦果が異常で敵はおろか味方からもその挙げた戦果が信じられていない。


 何しろヘルダイバーズ事態が外国のSFを題材にしたFPSゲームに出て来る主人公――スーパーテクノロジー満載のパワードスーツを着た人間兵器を具現化したような存在なのだから。


 その化け物集団の中でも更に化け物なのがオメガである。

 あらゆる軍事兵器の運用に長けて、軍事車輌だけでなく戦闘ヘリや戦闘機の操縦も出来ると言う中学生が考えた創作物のキャラのようなチートスペックだ。


 敵の航空基地で散々暴れ回って敵の戦闘機をジャックして空中に上がって来たのだから誇張はあったとしても間違いではないのだろう。

 あの時は川西二尉達は「!?」となった。


 そこまで思い出して川西二尉は(なんか段々と敵に同情したくなってきた)と思った。


『平和な空ですね――』


「ああ・・・・・・まあな」


 すぐ傍を飛んでいるレイヴン2、桜木三尉の一言で川西二尉の意識は現実に返ってくる。  

 

(いかんな・・・・・・あの当時は空飛んでると生きた心地はしなかったんだがな・・・・・・)


 戦時中の日本の空は常に生きるか死ぬかの緊張感を感じていたが異世界の空はどうも平和な感じだ。

 それもこれも快勝が続いているせいだろう。

 

 つまり油断している状態だ。

 異世界に日本が飛ばされる系の作品だとこう言う時、とんでもないしっぺ返しを食らったりする。

 それよりも今の自分を「エースを越えたエースの隊長」が見たらどう思うのだろうかと好奇心が湧いた。


『此方ウェザーリポート。もう間もなく港町が見えてくる筈だ――うん?』


 空中管制機ウェザーリポートが何か異変を感じたようだ。

 一気に緊迫感が漂う。

 あの戦時の時は些細な状況の変化――「これはレーダーの故障か?」と思われるような変化ですらも安心すると命取りになるからだ。


 この後は大概待ち伏せか奇襲の合図になる。


『南方の方角から謎の敵飛行編隊!! 数は4!! ジェット戦闘機並の速さだ!!』

 

 その言葉に一気に川西二尉の意識が戦闘モードになる。

 桜木三尉も同じだ。


『敵の正体が何なのか分からない! この空域からただちに離脱する事を考えろ!』


 と、ウェザーリポートが指示を飛ばす。


『ちょっと待て! ウェザーリポート! 万が一敵対勢力だった場合、お前が攻撃を受けるぞ!?』


 他の戦闘機隊の誰かが言った。

 航空管制機は大きな空飛ぶ飛行基地であり、戦闘機の戦略、戦術指揮や電子戦などで味方戦闘機に多大な恩恵を与えてくれる、現代の航空戦でとても重要な役割を果たしてくれる飛行機だ。


 だが速度はジェット戦闘機よりも遅い。

 ウェザーリポートの指示に従えばウェザーリポートを見殺しにする事になる。

 人道的にも軍事的にも避けたかった。


 それはウェザーリポートも分かっているのだが政治、外交的な判断――日本、自衛隊を縛る法律から見ればアリなのだ。


 相手がバルニア軍なら迎撃出来るが相手が何処の国なのか分からない国家であるため、最悪戦争に発展する。


 今の日本はただでさえ苦しい状態なのだ。

 幾らテクノロジーで勝っていても新たに戦争する相手を作る余力は無いのだ。


『レイヴン1!? どうする!?』

 

 桜木三尉が戸惑い交じりに尋ねる。


「決まっている! あの日の再現だ! 此方レイヴン隊! 俺達が接触する!」


 そう言って敵が接近してくる方向に戦闘機を向ける。


『此方サイクロン隊はウェザーリポートの援護に回る!』


『此方ウォーシャーク隊。航空戦闘には不向きなため、全速力でこの空域から離脱する――武運を祈る』 


『此方ナイトアイ。ウェザーリポート、異世界の航空機に効くかどうか分からんが万が一に備えてやれる事はやろう』


『此方イージス艦那珂。全速力で其方の空域に向かっているが戦闘には間に合いそうにも無い』


 無線が慌ただしくなっていく。

 先程までのノンビリとした空気が嘘のようだ。


『戦闘機!? 本当に四機だけ!?』


「油断するな!! ステルス機が潜んでいる可能性がある!!」


『りょ、了解!』


 非ステルス機で相手を油断させ、ステルス機で仕留めると言う方法は敵味方共によくやった手口だ。

 それを思い出した川西二尉は有無を言わさない迫力で彼女に注意を呼びかける。

 

 もうここが異世界だとかどうとか言う認識は吹き飛んでいた。

 川西二尉はあのころ――第三次世界大戦のあの時代に舞い戻っていた。

 それは他の戦闘機乗り達も同じだろう。


「警告無しで撃って来やがった!!」


『レイヴン1!!』


 敵の銀色の戦闘機。

 高速で動き回っているので大雑把なシルエットでしか捕らえられなかったが、SFアニメに出て来る宇宙戦闘機のようなデザイン。

 より分かり易く言えば戦闘機のシルエットを保ちつつ、航空力学を無視してでもワザと「地球外産」を自己主張しているような、地球に侵略して来た悪の侵略者が使用するような戦闘機なのだ。

 

 それが光線を放ってくる。

 一発や二発ではなく、連射も出来るらしい。

 時偶火炎玉のような誘導弾を発射してくるが光線よりかは遅い物のミサイル並の追尾性能で時間経過と共に消失するようだった。


「敵の戦闘力は外宇宙テクノロジー抜きの戦闘機並か――部分的には今の俺達以上か!?」


 もしかすると撃墜されるかもしれない。

 そんな恐怖と戦いながら必死に逃げ回り、敵の情報を味方に送る。

 

(焦っている――いや、動揺しているのか?)


 ふと二機の敵――他の二機は桜木三尉の砲に向かったのだろう――の猛攻に晒されながらも――そんな事を感じ取る。

 最初は統制の取れた動きだったが段々と機体性能に任せてムキになって追い掛け回しているような印象だった。


『此方ウェザーリポート!! 反撃許可は出た!! 思う存分やってもいいぞ!!』


「了解! レイヴン2! 生きてるな!!」


『隊長の御陰でなんとか!』


 今の政府は相当優秀らしい。

 以前の政府ならばこんな短時間で戦闘許可などおりなかっただろう。

 

『レイヴン1、エンゲージ!!』


 そして荒っぽい宙返りを披露して敵のバックを取り、愛機のF4の機関銃が敵の戦闘機の一機に叩き込まれるが――


「クソ!? バリア持ちか!?」


 緑色の膜で機銃が防がれた。

 だが以前地球で戦った宇宙船の飛行機械よりかはバリアの強度は低いらしく何発かはバリアを貫通して相手の翼を撃ち抜く。

 

 敵の銀色の戦闘機から煙が上がった。

 それを合図に敵は一目散に逃げ出していく。


『レイヴン1? どうします?』


「深追いするのは止めておこう――敵の増援や待ち伏せがあるかもしれない。ただちにこの空域から離脱して味方と合流。その後は暫く戦闘配置で待機だ」


『りょ、了解――どうなるんでしょうか・・・・・・』


 桜木三尉の吐露はこの場にいる、川西二尉の気持ちを含めた心情を現している。

 どうやらこの異世界、一筋縄ではいかないようだ。

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