第9話「港町防衛戦」

 ガーデニア大陸


 ユリシア王国


 港町ミズリ


 派遣された陸上自衛隊は戦後処理に当たり、ヘルダイバーズを送り出す傍ら防衛網を構築すると同時に捕虜収容所や航空自衛隊などの戦闘機離着陸上の増設作業を行う。


 とにかく陸上自衛隊は不眠不休で頑張っていた。


 海上自衛隊も巨大な移動砲台代わりとして港町の沿岸部で待機し、足りない物資は本土からピストン輸送していた。


 一方で港町の人々――人族を引っくるめた様々な種族の寄り合い国家であるユリシア王国人は人族のみで構成されていた日本の軍隊を図りかねていた。


 だが強大なバルニア軍、そして自然災害と同義であるレッドドラゴンを倒したのは事実である。


 自衛隊が身に纏う、持ち込んだ物は見た事もない代物ばかり。


バルニアと違って横暴を働くわけでもなく、礼儀正しさすら感じられる。


 それでもまだ出会って僅か経過しておらず、警戒心を遠巻きに・・・・・・一部の自衛官達の鬼気迫る作業体勢に若干引きながらも眺めていた。



 角谷陸将。


 現場からの叩き上げタイプの自衛官であり、目立った戦果はないが東側諸国の猛攻に敗走を重ねながらも軍を維持しつつ抵抗を続けたと言う、敵に回せば厄介なタイプの猛将であり、彼を第三次世界大戦の影の英雄と呼ぶ声も多い。

  

 角谷陸将達首脳陣は仮設の本部に集まり、星々が灯る夜空になっても会議を開いていた。


 そんな時に敵襲の報告が入る。


「角谷陸将の読み通り、敵が来ましたね」


「数は三千ですか――思ったより少ないですね」


「現場の暴走と言う奴なのかもしれません。もしくは我々が油断していると読んでいるのかもしれません」


「ですが、我々の今後を考えれば理想通りの展開と言えます」


 と仮説本部に集まった自衛官達は口々に報告と感想を述べる。

 そして角谷陸将はこう締め括る。


「敵の思惑が何にせよ、ここで敵を撃退せねば罪の無い民間人が犠牲となる! 各員楽な仕事だと思うな! 東側諸国と戦った時のような奮闘を期待する!」


 その場にいた首脳クラスの自衛官が「了解!!」と敬礼を送る。


 

 前線の空では戦闘ヘリが飛び交い、地上では旧式となりつつある10式戦車やそれ以前の90式戦車、もっと旧式の74式戦車まで投入されていた


 これ達の戦車は戦地に送り込むために――他の兵器群も例外なくそうだが、外宇宙技術でのカスタム化が施されていたが基礎構造まで手を加えるとなると新造した方がコストが安上がりになると判断され、このガーデニア大陸が彼達の最後の戦地となる事が決定した。


 だが今迄の戦闘を考えると、これでもオーバーキルの過剰戦力だ。

 

 今回の戦いの舞台は港町周辺の夜の平野部で機甲戦力が最大限に活かせる戦地。

  

 敵は地上、航空戦力もそこそこの数だ。

 どう言った理由で送り込まれたかは自衛隊サイドには知る由もない。

 

 自衛隊側としては航空戦力を全て叩き落としてキルゾーンに設定した場所に遠距離からの砲撃で一網打尽にする完全歩兵抜きの作戦だ。

 

『此方ステルス観測ヘリ――コールサイン『ナイトフォックス』、データーを送る』


 ステルス観測ヘリ。

 夜間迷彩を施しているだけでなく光学迷彩すら導入された最新鋭兵器だ。

 外見は角張った外見をしている。


 周りには無人観測機、低空や地上ではドローンなどが空中を飛び交っている。


『データー受信完了。イージス艦那珂、航空戦力を撃滅する』


 データーを受け取ったイージス艦那珂が攻撃態勢に入る。 


『スカイハウンド隊、此方も攻撃態勢に入る』


 スカイハウンド隊――空中で待機する攻撃ヘリ部隊も搭載された火器の安全装置を解除する。


『此方混成戦車大隊。準備良し』


 様々な車輌で部隊を編成された――今の陸上自衛隊の懐事情を現した部隊も攻撃準備が完了した事を告げる。


『特科部隊(砲兵部隊)、準備完了! 何時でもいけるぞ!!』


 特科部隊も間に合ったようだ。

 誇らしく攻撃準備が完了した事を告げる。


『此方角谷陸将だ。君達の奮戦を期待する。意見はあるだろうが、かつての自衛隊の作法に則り、警告した後に攻撃するか否かの命令を下す』


 と、角谷陸将が締め括った。



 バルニア王国軍、ディアス王子の配下の将であるギャブル――まだ三十代前半ぐらいの若い赤毛の将はマグニス将軍を不甲斐なく思いながらも馬車に乗り進行する。


 陸は騎兵のみ。

 空はドラゴン。

起動力特化型の編成。


 数は三千。


 偏りのある編成だがユリシア王国軍相手なら過剰とも言える戦力だ。


「よろしいんですか? ディアス王子の断りなく軍を動かして?」


 馬車の席に隣で立っている副官の男が疑問を投げ掛ける。


「いいんだ。手柄を挙げちまえばこっちのもんだ。それに敵は一戦交えて、レッドドラゴンも相手にして疲れている筈だ――今なら楽に倒せる」


「はあ・・・・・・」


 と、ギャブレは副官の男に反論する。

 彼の言葉がこの世界の常識では何一つ間違ってはない。

 当たり前な考えとも言える。


 内心ギャブルには野心があったりもしたが――例えば出世してディアスをも、ひいてはバルニアを統べる王となる取っかかりを得るとか。


 それにユリシア攻めは正直言えば――人殺しを楽しめる楽勝な戦だが――出世のチャンスはない勝って当たり前の戦だ。


 だがここでマグニスの失態を帳消しにしてやれば出世にも繋がる。

 そう考えたのである。


 ここまで彼が出世に固執するのは楽しい、思い通りの人生を送るには出世しなければならないと思ったからだ。


 将軍まで出世しといて何を――と言う人間もいるかもしれないが、出世しても出世しても気に入らない奴は出て来る。

 

 ある程度妥協すれば――と言う考えはない。

 

 そうして目的の達成と悩みの解決手段が出世なのである。

 そしてギャブルには将軍になれるだけの運と才はあった。


 だが彼の最大の不運は出世に目が眩んだ事だろう。


『此方日本国自衛隊。ユリシア王国軍と同盟を組んでいる防衛組織である。ミズリの港町から引き返せば攻撃は加えない!』


 突然空から全軍に響き渡る程の声が聞こえた。

 バルニア軍は混乱をきたすがギャブルは「構わず進め!!」と檄を飛ばす。

 それから数分後。


「な、なんだ!?」


 突然、自衛隊の砲弾――脅しの一発が軍勢の先頭に着弾した。


『此方日本国自衛隊。今のは威嚇射撃だ。このまま撤退の意志を見せないなら攻撃を開始する!』

 

 再度空中からの警告。

 しかしギャブレはすぐさま「ドラゴンを突っ込ませろ」と指示を飛ばす。

 敵の大砲を破壊する算段のようだ。


 その動きを察知した自衛隊は攻撃を開始する。

 攻撃ヘリ、陸上自衛隊の各種対空兵器がドラゴンの群れを一掃する。

 それを潜り抜けたドラゴンはイージス艦が相手をする手筈だったがそれ程の猛者はおらず、一分にも満たない時間でドラゴンの編隊は陸上自衛隊の手で夜空を照らす光となり消えていった。


「全ての竜騎士からの魔信は途絶!! 全滅です!!」


 副官が悲鳴交じりの報告を隣にいるギャブレにするが――


「全員突っ込め!!」


「ぎゃ、ギャブレ様!?」 


 何をトチ狂ったのかギャブレは突撃を決意した。

 ギャブレを突き動かしたのは様々な感情だ。

 勝手に軍を動かした自分に下る処罰の恐怖。

 出世街道からの転落への恐怖。

 そして自分が楽しんできた戦争の――狩られる側の恐怖。 


 それ達の恐怖が待ち受ける先は戦車混成大隊、攻撃ヘリ部隊の一斉射撃。

 これにより地上の騎馬隊は悲鳴、断末魔を挙げる間もなく壊滅。

 硝煙が晴れるとそこは原型を留めていない人と馬のバラバラ死体の山。

 生存者はいるかどうかも分からない惨たらしい状態だった。


 戦闘は終結したものとみなし、自衛隊はバルニア軍の人命救助活動へと入った。

 

 大小様々な爆音と一緒にバルニア軍を蹴散らした自衛隊に対してミズリの港町の人々は改めて自衛隊の強さを実感したと言う。


 

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