第8話「昔語り」

 Side 川西 幸斗 二尉  


(異世界に飛ばされてまで戦争か・・・・・・やだねぇ・・・・・・)


 川西二尉含めた飛行隊は日本の最果て中の最果て。

 自然の孤島とメガフロートをドッキングさせた極西飛行基地に帰投。


 本当は空母とかあればユリシア海の近海に留まれて便利なのだが第三次大戦で失い、再配備しようにも現在の日本の懐事情では厳しい。


 遠方ではあるが一番近くのこの基地に戻る事になった。

 

 予定では港町の近くに飛行場を建設し、そこに極西飛行隊の戦力を送り込むらしい。


 その穴埋めはベテラン兵と新兵の教導訓練地とし、戦力として使い物にするためのスパルタトレーニングの舞台にする他、傭兵などにも基地の警護任務を依頼するつもりだそうだ。

 

 極性基地は夜の時間になっても、自室にいても慌ただしい喧噪が聞こえる。

 

 あの戦時中と変わらないなと思った。


 ふとあの戦時の事を思い出す。


 第三次世界大戦。


 宇宙船が日本海により落下して始まった東西との戦争。


 戦争の始まりは先制核攻撃が合図だった。


 幾ら外宇宙の超テクノロジーを使っても物量差は明白だ。

 

 まず通常弾頭の巡航ミサイルを物量に任せて発射し、沿岸部の都市をランダムに攻撃。


 当然自衛隊達は迎撃する。


 そうして迎撃部隊が息切れしたのを見計らった後に戦術核を打ち込むと言う方法を取ったのだ。

 

 子供でも想像がつく単純な手口だが事実、核攻撃に成功した。


 核ミサイルの弾道コースを予測して体当たりして迎撃した戦闘機などもあったそうだがそれでも被害が出た。

 

 着弾場所は山口、青森だった。


 当時、川西二尉はあまりの衝撃で何故そこに核を打ち込んだのか理解が出来なかったが落ち着いて考えてみればただデタラメに打ち込んだワケでは無いと理解出来る。


 先ず首都の東京に撃ち込まなかったのは戦争の泥沼化。

 テロや非正規戦で溢れかえる第三国化を避けるためが目的だと思われる。


 それに首都圏近辺は世界との玄関口であり、世界各国の大使館がある。


 幾ら東側諸国を構成している大国、中国やロシアであってもそれ以外全ての国を敵に回す行為は不可能だと考えたのだろう。


 また首都には自分達の国の様々な尖兵が大勢居る。

 

 事実、世界大戦が始まった時はフロント企業、活動家などに偽装していたグループが一斉に武装蜂起し、中には自衛隊を装って市民を虐殺した連中までいる。自衛隊内部にも想像以上の数のスパイが潜んでいた。


 過去に原爆を落とされた広島と長崎を狙うと言う予測もあったが――そうしなかったのは反戦争団体、反核兵器団体の総本山であり、日本政府に対しての内輪揉めを誘発できると考えられる。


 敵対国家であった東側諸国の玄関口である福岡や北海道は本土進行を考えれば橋頭堡に成り得る場所なので除外。


 山口県は九州と、青森は北海道と隣接する地域であり、そこを核で吹き飛ばせば自衛隊だけでなく日本その物を物理的にも精神的にも分断させるにはうってつけの場所だ。


 その目論見は見事に的中し、緒戦は物量で圧倒する事が出来て九州や北海道は陥落。

  

 更に核攻撃による混乱で関東も制圧される事になる。


 裕福層や政治家達、官僚達は皆国外へ逃げ、アメリカは一方的に日米同盟を放棄し、核による報復は行われなかった。


 日本がなくなり、宇宙船の無差別攻撃で世界中が焼け野原になったらしい元の地球で今頃どうしているのだろうか。


 東側も逃げ出した連中も最大の誤算だったのは自衛隊に人外が大量に出現し始め、もぬけの空になった日本を埋めるように優秀な指導者が本当に都合良く現れた事だろう。


(もうこんな時間か)


 ふと時計に眼をやるとかなりの時間考え込んでいたらしい事に気付き、思考を打ち切った。

 


 Side ヘルダイバーズ所属 コールサイン・オメガ


 ヘルダイバーズは第三次世界隊戦を潜り抜けた特殊部隊中の特殊部隊だ。

 

 今は無き、アメリカの海外のゲームとかに出て来る格好いいコンバットスーツーを身に纏ったスーパーSFソルジャーを具現化したような存在である。


 その中でもオメガは飛び抜けて化け物だった。チートで決戦存在だった。


 日本のミリタリーファンの間では必須科目とされる第二次大戦の人物、船坂弘の転生体だとか言われた事もある程だ。


 それ程までに非現実的な存在だった。


 ヘルダイバーズが組み込まれている派遣部隊も皆、第三次世界隊戦を潜り抜けた猛者揃いで末端の兵士に至るまで装備も練度も最高峰。


 急ピッチで港町の防衛体制を整える。


 その間、ヘルダイバーズは新たなミッションが与えられた。


 それはユリシア王国の王都へと向かい、国王や女王陛下と接触する事である。


 そして正式に日本とユリシア王国とで同盟を結び、大反攻作戦を展開するのが目的だ。


 その作戦には当然、ヘルダイバーズの一員であるオメガも加えられている。


 戦時中からオメガにとって危険度の高い作戦は日常茶飯事。


 時には軍用車に戦車、戦闘ヘリに戦闘機まで動かした事もある。


 敵の拠点や基地を片っ端から潰した事もあった。


 戦争の発端となった、人類を滅ぼそうとした地球外の宇宙船に乗り込んで外宇宙の戦闘マシーンを片っ端から破壊した事もあった。


 それに比べれば今回の任務は油断していいわけではないが楽勝である。


 こうしてノンビリと光学迷彩搭載型のステルスヘリで目的地へゆっくりと向かっていると遠い過去のように感じられる。


 敵の動きは既にステルスヘリや無人哨戒機で察知されている。


 まだ敵に動き無しとの事だ。


 その間に王都へと荷物(外務省の役人)を届けるのが任務である。

 


 Side ???


 私は元は日本の政治家だった。


 我先にと逃げ出し――アメリカへと亡命した。


 第三次世界大戦は東側の圧勝で日本は統治下に置かれ、外宇宙テクノロジーを日本を中心として東側に分配される手筈だった。


 だがそうはならなかった。


 自衛隊が想像以上に強く、優秀な指導者が現れ、そして宇宙船が人類に牙を向き、世界は業火に包まれ、日本は宇宙船の爆発と一緒に地球上から消えた。


 あの戦争から少しばかりの時間が経過した現在――どの国も内戦状態だった。


 世界経済は崩壊し、裕福層の自殺者が世界中で相次ぎ、早くも第四次世界大戦が始まる兆しが見え始めている。


 このアメリカもそうだ。


 都市部はほぼ内戦状態。

 

 国家機能はほぼ麻痺している。


 私を含めた日本からの亡命者の風当たりはとても強い。


 祖国を捨てた恥知らず。

 裏切り者。

 

 そう言われて迫害された。


 それだけならまだ良い方だ。


 現在はホームレス同然の暮らしをして日々を食いつないでいた。


 他に逃げ出した政治家達も同じだろう。

 

 凄い惨めだ。


 家族も何処に消えたのか分からない。


 もう死んでるかもしれない。


 私は選択を間違えた。


 夜にも関わらず、デモで喧噪が騒がしい表通りから外れた薄暗く、臭い路地裏で私は偶然手に入れた拳銃の銃口をコメカミに押し当て、体全身を震わせ泣き出しながら引き金を引いた。 

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