第3話「バルニアと言う国」


 日本内閣総本部。

  

 直枝・H・和矢、総理大臣。

 日米とのハーフで日本国籍を取得し、総理大臣に昇り詰めた。

 地獄の恐ろしさでどうにか一時的な復興の見通しが立ち、そして国外への探索に全力を尽くした。

 

 そして官邸に届いたのは朗報か凶報かも分からぬ内容。

 新大陸の発見、戦端が開かれた国々と接触したと言う内容だった。


 机に座り、首相官邸から見える窓の景色を長めながら考える。


(これが吉と出るか凶と出るか・・・・・・)


 ともかくやる事は変わらない。


「外務省や防衛省には情報収集に当たらせてくれ、それとなるべく相手を刺激する様な態度を慎むように・・・・・・」


「ですが既に戦闘が・・・・・・」


 と女性秘書がおそるおそる伝えた。

 傭兵が勝手に戦闘を起こしただけでなく軍艦まで撃沈したからだ。 

 外務省では抗議が殺到しているらしい。


「相手は此方の警告を聞かず、有無を言わさず戦闘を開始した――恐らくだが早かれ遅かれこうなっただろう・・・・・・うつろ私としては外務省の方が心配なのだが」


「そうですか・・・・・・」


 確かに問題となっている傭兵は普通の国や軍隊として当然な対応をしたまでだ。 

 にも関わらず騒ぎ立てるのは第三次世界大戦を経ても外務省は変わってないのはある意味驚きだ。

 

「万が一に備えて戦争する準備をしておいてくれ」  


「総理は戦争が起きると?」


「相手が報告にあった通りの精神性の国なら十分にありえる」


「そうですね・・・・・・」


(本当は杞憂に終われば良いのだが・・・・・・)


 国内の内情は分かっている。

 だがやらねばならない時がある。

 

 戦争を嫌うのはいい。

 だがそれでも戦わねばならない時がある。

 それを見誤れば戦争よりも悲惨な目に合う。

  

 その結果が核兵器を日本の本土に撃ち込まれると言う最悪の事態だった。


 それが前大戦で平和ぼけしきっていた政治家達が多くの代償を支払って学んだ教訓の一つである。


「それで――ユリシア王国のアイナ王女は?」


「今はお付きの人と休ませています」


「ふむ・・・・・・」


 ユリシア王国について直枝総理大臣は思考を巡らせる。

 まだ年端もいかない少女の言葉を、例え王女であっても鵜呑みにするわけにはいかないのが政治家の辛いところではあるが――少女の言葉が本当であれば遠からずバルニア王国とは戦争になるだろう。


 それに個人的にはバルニア王国と仲良くなりたくないと言うのもあるし、下手に友好関係を持てば国内でいらぬ問題を抱え込んでしまう。


 アイナ王女の話が本当ならば――バルニア王国は直枝総理が嫌う覇権主義国家であり、考え方が第二次大戦次のナチスドイツとかと同列の思想や選民思想、国を挙げて人外以外の異種族狩りまでしているらしい。

 

 重ねて言うが、まだ結論づけるわけにはいかないのだが本当なら関わりたくない。


 外務省はそんなバルニア王国にコンタクトを取っている。

 そこでアイナ王女の言う事が嘘か真かハッキリするだろう。



 そして件の外務省はと言うと――


 西に大陸が発見され、日本政府は大陸諸国に使節団を派遣していた。

 一先ず相手の事を刺激しないように民間の船舶で近寄る。

 

 他にも東、北、南の方面にも調査の手を伸ばしている。


 現状外務省は取り合えずガーデニア大陸の東部に足を運んだ。


 アイナ王女の事前情報通りガーデニア大陸東部は現在、バルニア王国が猛威を振るっていた。


 ともかく既にもう戦闘が始まってしまい、謝罪の意味を込めて国交を結ぶためにバルニア王国の国王、アブレア王と接触することが出来た。


 そして――外交官の武田 誠司は人生初めての経験となる、メチャクチャな内容の、と言うか外交ですらない脅迫現場に立ち会う事になった。


「なんだこれは!?」


 武田 誠司は提示された条件が記された紙――独自の言語で読めないが、それが読み上げられると顔色を変えて声を荒らげた。


「不服かね?」


 属国化。


 奴隷の献上。


 王族の引き渡し。


 あらゆる国家財産の譲渡。  


 以上の条件を守れば二等国民として扱う。


 そしてこれが守られなければ戦争を仕掛けると言った内容だった。


 事前情報でユリシア王国のアイナ王女からバルニア王国について聞かされていたがあんまりな内容である。

 提示された条件にしろとんでもない国だ。 

 

「何故そこまで戦争をしたいのですか?」


「決まっている。我々が支配するべきだからだ」


「な・・・・・・」

  

 答えになってない。

 

 ただ支配出来る領土があるなら力尽くで奪い取ると言う思考のようだ。

 最初この交渉に挑むまで武田は戦争前提で進める政治屋達に外交官としての意地を見せてやろうと思ったがそんな決意は欠片も残らず粉砕された。


 戦争前提で物事を進める今の政府に意義を唱える側であるのだが、悔しいがそれが正しかった事が痛感した。 


「ふん、ホラ吹き国家が――突如この世界に転移し、一億近くもの人口を保有しておきながら、十万近くしか(*本作品の日本は転移前の戦争で兵力は減少しています)」兵士しか保有しておらず、魔法もなく龍もいない。強く見せたいのか弱く見せたいのか分からんな。だがそんな下等な蛮族国家でも我々の要求を飲めばそれなりの暮らしが出来るのだぞ?」


「・・・・・・我が国に来て頂ければ真実だと。それに資料を」


 諦めずに交渉を試みるが――


「誰が蛮族の国に王である世が足を踏み入れるか」


(メチャクチャだ・・・・・・)


 と一蹴される。

 もうこれは交渉ではない。

 ただの宣戦布告の通達だ。


 その後、武田 誠司は沈痛の様な表情で、負け犬の様な雰囲気を全身から醸し出しながらその場を後にした。バルニアの文官達から嘲笑の声が聞こえるが耳に入らなかった。

  

 総理大臣が言うように砲艦外交でもした方がよかったかもしれないなどと思いながらトボトボと立ち去って行った。



 各関係閣僚達や各省庁から派遣されたスタッフが広い室内に集まり、バルニアとの交渉が失敗に終わった事、そして提示されたメチャクチャな条件が伝えられた。


「総理や防衛省の予測通りの展開になりましたな」


「見かけただけで突然襲い掛かる様な国です。何となくこうなるんじゃないかとは思っていましたが・・・・・・当たって欲しくはなかったですな」


「外務省に責任はありませんよこれ。うつろ外務省の勇気に感服します」


 と、口々に愚痴交じりに言っていた。

 日本は転移後に比べて多少マシになった程度だ。

 そんな状況で見ず知らずの世界に飛ばされて、いきなり戦争を吹っ掛けられるのは幸先が悪すぎる。


 まるで防衛省が読み漁っている日本が異世界に転移した系の小説まんまだ。


「ですがまだ戦争になるとは――」


  と、老齢の男の外務大臣「檜 善一」(ひのき ぜんいち)がいうが――


「まだ戦前の感覚を引き摺っているのか外務省」


「そりゃ穏便に済めばそれに超した事はないんだけどね。そうやって先送り、先送りにした結果が第三次世界大戦に繋がったのではないのかね?」


 そう言われて檜外務大臣は言葉を失う。

 

 第三次世界大戦は宇宙船がキッカケだ。

 だがそれはあくまでキッカケであって、今政府にいる関係者は「なるべくしてなった」、「何時かは起きていた」、「仮に起きなくてもヤクザみたいな方法で日本は支配されていた」と口を揃えて言う。


 実際自分達が戦った相手はそう言う相手であり、バルニアもその類いだ。

 ただやり方が直接的か、経済戦争的かぐらいの違いしか無い。

 

 この場で槍玉に挙げられてはいないが、法務大臣は顔色悪そうに俯いている。

 彼も先の大戦で色々と思う所があるのだろう。


「防衛省の鬼塚です。悪い知らせがあります」


 と、黒いスーツに身を包んだヤクザの組長みたいな風貌のオッサンがそう告げた。


「なんだ? バルニアが攻めてきたのか?」


「その通りです」


 誰かの呟きに鬼塚は即答した。

 場がザワめく。


「進路を見る限り我々の国の精確な位置は掴んではいない様子ですが二百隻以上の大艦隊です。既に偵察機や潜水艦、イージス艦などが遠くから警戒態勢で監視しています。恐らく先の二度の接触と外務省の船を後から追跡して我が国のおおよその位置を割り出したものと思われます」


「おい外務省!」


 周囲の視線が外務大臣に集まる。

 流石の外務大臣を顔色を悪くさせた。


「いや、外務省の失態よりも、どうする気だ? 自衛隊を投入するのか? 敵の兵器レベルは分からん以上下手な戦いは――」


「だがこうして敵が迫っている以上、傍観はできまい」


「二度目の戦争だな・・・・・・」


 皆達観したように戦争を決意した。

 

 そしてこのタイミングで今迄黙り込んでいた直枝総理大臣が口を開いた。


「残念ながら私も同じ意見です。念の為、相手の言質を取った上で対処します。ですが皆さんも知っての通り我々は疲弊しています。少数精鋭で敵を追い払う事になるでしょう」


 と、物静かであるがシッカリとした口調で総理は決断した。


「戦争は政治の延長線上か・・・・・・」


「まだ憲法九条があるし、このタイミングで自衛隊を解散して軍にするワケにもいかんだろう」


「主立った影響力のあるカルト左翼連中は戦争時に国外に脱出したがそれでも未だに残っている連中もいる」


「あの視聴率の奴隷ども(マスコミ)もまた馬鹿みたいに騒ぎ立てるんだろう。どうかにならんかね」


 その決断に皆諦めたような様々な反応を見せたが、戦争致し方なしと言う空気が場を包んでいた。


 こうして日本は嫌々バルニアと戦う事になったのである。

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