第2話「戦場の道化師」

 第三次世界大戦は主に空中での戦闘機同士の戦いが盛んに行われた。

 特に宇宙船近辺での海域を巡る戦いは熾烈を極め、戦闘機の歴史に残る戦いが度々勃発したと言う。

 

 こうして数え切れない程の戦闘機パイロットが死に、そして多くのエースパイロットが誕生した。


 その一人に「戦場の道化師」と呼ばれるパイロットが存在する。


 日本の自衛隊に協力する航空傭兵で黒塗りのカラーに道化師のエンブレムが特徴。


 単独出撃が多く、多くの敵を撃破した。


 他の味方が全滅するような状況でも生き延びた。


 などなど数多くの噂を持つ。


 故にその戦果やその存在を疑問視されていた。


 こうしたエースの戦果の疑問視する声はよくある話である。


 第二次大戦のエースパイロットでも戦意高揚のプロパガンダのために戦果を偽造するなどが行われた事がある。まあほんの極僅かには記録上の戦果よりあきらかに大いと思われるエースとかもいるのだが・・・・・・


 本題に戻ろう。


 今回のお話は川西二尉ことレイヴン1がユリシア王国の領海内でバルニア軍と最悪なファーストコンタクトと上からの無茶振り任務をこなして少しばかりの時間が経過した後の話である。

 


 沖縄の更に西、日本の極西で最前線中の最前線。


 メガフロート技術で島事態の拡張を行い、新造された極西基地がある。

 自然豊かな小さな孤島に航空基地をクラッシャードッキングした基地であり、娯楽も何もあったもんじゃない基地である。

 

 今は急遽編成された南西航空混成団が使っており第三次世界大戦を生き抜いたベテランパイロットや新入り、そして航空傭兵達も多くここにいた。


 戦闘が起きたと知り、直ぐさま基地の人間達は戦闘態勢に入っていくなか、ある戦闘機の周りに人集りが出来ていた。

 その中には第三次大戦を生き抜いた猛者達や新米のパイロット、傭兵までもが集まって来ていた。


 昼下がりの明かりに照らされた黒塗りのFー15戦闘機。アメリカで開発され、自衛隊でも採用されているベストセラーの戦闘機。


 それも外宇宙のテクノロジーでカスタムされたタイプ。

 Fー15C、ハイパーイーグル。

 現在の自衛隊でもFー15JCとして採用されている。


 本人の趣味なのか翼と胴体の真下に搭載された計五つのガンポッド。

 近代の航空戦闘のセオリーを無視した、ミサイル無しの機銃による長期戦型の戦闘スタイルである。腕に余程の自信がなければこんな極端な装備はしないだろう。

 

 そして一番の特徴はピエロのエンブレムだった。

 

「これってもしかしてピエロの?」


「ああ。戦場伝説とかと言われたが噂は本当だったんだな」


「でも噂は噂でしょう?」


「だが宇宙人の兵器も撃墜したんだぜ、こいつ?」


「じゃあ本物の? てか一緒に転移して来ていたのか?」


 などとパイロット達はガヤガヤと話をしていた。


 そこから更に遠く。

 人気の無い場所。

 周囲を木々で囲まれ、スグ眼前には穏やかな海が見える場所。


 そこに二人の男がいた。


 一人は黒髪のメガネ、レイヴン1こと川西二尉。


 そしてもう一人はまだ若い端正な顔立ちの、ブラウンの髪の毛で氷の様な冷たい雰囲気を身に纏う男性だった。


「まさかお前もここに来るとはな」


「まあな。これも腐れ縁と言う奴だろう、レイヴン」


「お前もな、クラウン」


 お互いコールサインで呼び合う。

 クラウンことクラウス・バーナード。

 それがクラウンの本名であり、レイヴン1とは腐れ縁だった。


「この基地で暫く哨戒任務に就く事になった。状況次第で俺も前線に投入されるだろう」


「是非そうして貰いたいね。俺が楽出来る」


「相変わらずだな」


 クラウスは戦場でしか生き方を知らないと言うか自分探しの手段として活用している節がある男。


 それに対して川西二尉はどっかの二尉同様に仕事はあくまで仕事で趣味に生きるための手段でしか無いのだ。ぶっちゃけ今の職場よりも待遇良くて休暇が取れるのならスグにその職場に飛び付くだろう。最も、今の日本にそんな職場は無いだろうが。

 

 異世界に来たと言うシュチュエーションに川西二尉は内心興奮はしているが、異世界に来てまでドンパチはしたくないと言う複雑な心境を抱いたりしている。


 対してクラウスはと言うと「相手が何であれ、仕事は仕事だ」と述べている。


「まあお前が出て苦戦するような状況なら現場か、あるいは上層部の指揮官が無能か、もしくは敵が強すぎる場合ぐらいだろう」


「過大に評価してくれちゃってまあ・・・・・・」


「お前が平凡なら他のパイロットは平凡以下だ。自己の過大評価は己の寿命を縮めるが、過度な過小評価は周囲の反感を買う時があるぞ」


「異世界くんだりまで来てお前のそう言う言葉を聞く事になるとは思わなかった」


「そうか」


 そう言ってクラウスは立ち去る。


「どうした?」


「そろそろ機体の整備をしたい。それとシュミレーターに付き合え。腕が落ちてないか試したい」


「お前との戦いキツイんだよな・・・・・・」


「何か奢るからそれで我慢してくれ」


 クラウスと川西二尉の戦績はクラウスが優勢である。

 これは川西二尉が弱いのではなく、クラウスが強すぎるだけだ。これが他のパイロットならば勝負にもならないだろう。



 ピエロのエンブレムを付けたFー15Cのカスタム機。

 外宇宙のテクノロジーで改修され、更にそこにクラウス向けに独自の改修を施されたFー15C・アヴァランチ(英語で雪崩の意味)は夜の空を飛んでいた。いわゆる夜間飛行である。

 

 本当は燃料の規制して哨戒飛行の回数を減らしたかったが、海を隔ててスグ近くに問答無用で襲い掛かって来る国家が存在している以上、そうもいかないのが現状だった。


 それにパイロットの数もまだ全盛期には遠く及ばない人材不足の悩みが付いて回り、クラウスのような第三次大戦からお付き合いがあって信頼出来る傭兵まで投入すると言う昔なら信じられない行為を行っていた。


 この辺り日本政府も自衛隊も柔軟性が出来て変わったと言えるだろう。


『前方にペガサスを確認。本当にファンタジーの世界のようだな』


 クラウスは前方に飛行物体を確認。

 速度を落としてペガサスを確認する。


 ユリシア王国の第二王女、まだ十代半ばの長い銀髪の淑女「アイナ」とその騎手である赤髪のボブカットの女騎士「クレア」が乗っていた。


 そうとは知らず――取り合えず上司である、クラウスが所属する傭兵会社「サーカス」の女上司「レディ」に報告をして事態を静観する。


 命令は「接触して相手の正体を掴んで欲しい」、「スグに増援が来る」との事だった。


 そこでふと十二騎の竜騎士が現れた。


『報告にあったドラゴンか・・・・・・』


 ご丁寧に報告にあった国旗(まだバルニアとは知らない)を掲げている。

 状況から察するに恐らく何処ぞの国(ユリシア王国であるのだがクラウスには知る由もない)から逃げて来た兵士の敗残兵狩りか何かだろうと思った。

 ペガサスもドラゴンもスピードを上げた。



 バルニアの竜騎士「マルシム」は先に拿捕した王族専用の船で捕らえた第二王女が影武者だと知り、すぐさまバルニア軍はその追撃の任を与えた。


 そしてマルシムは最初の発見者と言う幸運に恵まれた。


 ここで確保できれば自分の将来は安泰。

 英雄として国に凱旋できる。


 だがそんな時に暗闇に溶けるようなカラーリングと、不気味なピエロのエンブレムが特徴の謎の飛行機械が両者を遮った。


『ペガサス及び竜騎士に告ぐ。ここは日本の領海内である。直ぐさま引き返すか、もしくは此方の指示に従って基地に同行願いたい』


「舐めやがって! 攻撃開始だ!」


 薔薇色の未来を夢見た途端、突然謎の――報告にあった、新たに現れたニホンの飛行機械が現れてマルシムは怒りを露わにする。


 ――たかが飛行機械如きに竜騎士である自分に戦いを挑むとは舐められた物だ。


 マルシムはそう思った。


 この世界でも飛行機械はあるが、ドラゴンの方が上と言う認識を持つ物は多い。

 バルニアだけではなく、他国でも多く居た。

 そしてマルシムもそう言う認識を持つ物の一人だった。


 それに敵は一機。


 あっと言う間に片は付く。


 そう思っていた。


『仕方ない。戦闘をする』


 クラウスは戦闘機動に入る。

 クラウスにとって戦闘はどこまでいっても戦闘である。

 戦いの中で高揚する事はあれど、そこに遊びなどが介在する予知はない。

 

 カスタムされたF15Cの、両翼の下に取り付けられ複数のガンポッドが順序よく火を噴く。

 

「なっ!?」


 轟音が鳴り響くたびに竜騎士が騎撃墜されていく。

 敵の戦闘機――猛スピードで横切った時には半数以上が撃墜される。


 生き延びた竜騎士達は恐怖とかどうとかよりも何が起きたか理解出来なかった。


 相手の混乱など知る由もなく、クラウスは最適なルートを頭の中で算出しながら着実に敵を屠っていく。


 計算され尽くした、芸術的とも言える、最も敵を効率よく撃破するための戦闘機動、弾道計算。


 それをマッハの世界で行う。


 マルシアは運が無かった。

 

 第三次大戦のエース。

 宇宙人の戦闘機械すら撃墜出来る男に空戦能力が圧倒的に劣る、第二次世界大戦の戦闘機でも苦戦しそうなドラゴンがたかだが十二騎ぐらいでは勝ち目など万に一つ存在しないのだから。


「は、速い!?」


「アイツ海に激突するのが恐く無いのか!?」


「あんなのにどうやって攻撃を当てれば――」


「何なんだ!! 何なんだよ!」


 竜騎士は反撃する間もなく、次々と弾丸のシャワーを浴びてドラゴン諸共海の藻屑になっていく。


『これでは訓練にもならんな・・・・・・』


 一分も経たないウチに十一騎をガンポッド(機銃)のみで落とした。


 最後の一騎――マルシアが乗ったドラゴンだけはワザと逃していた。


『放っておくの?』


 若い女性の声、クラウスの上司で通称「レディ」の声がクラウスの耳に届いた。

 疑問の声だ。

 

 クラウスは元の世界でも上から数えた方が早い程の凄腕の戦闘機乗りだ。

 実際戦闘機のガンポッドでドラゴン十一匹を一分以内で撃墜して見せた。

 

 ただドラゴンを全滅させるだけなら、例え単騎でも今の空自のパイロットや腕利きの航空傭兵でも可能だが一分以内で機銃(ガンポッド含む)のみとなると限られる。


 第三次大戦のエースの称号は伊達ではない。


『レイヴンから借りたファンタジー小説によれば竜母と言うドラゴン専用の母艦があるらしい。そう言う物がこの先にあるのかも知れない。必要とあらば撃沈させる』

  

 これは創作物の知識である。

 クラウスは正直創作物の知識などアテにしたくはないのだが、前の世界では宇宙船が落下して宇宙人と戦うハメになり、こうしてドラゴンとドンパチする始末だ。


 噂では防衛庁は異世界関係の創作物を買い漁っている始末らしい。特に自衛隊が異世界に転移するハメになる創作物を熱心に読み込んで今後の対応を決めてるかどうかとか・・・・・・クラウスは笑う気にもなれなかった。


 ちなみに今回クラウスがやった敵を僅かだけ残して敵の基地や空母を逆探知すると言う方法は第三次大戦中に自衛隊や航空傭兵、敵も使っていた常套手段だったりする。レーダー妨害技術などが発達するとそう言う戦術が広まったりするのだ。

 

『どちらにせよ降伏勧告なり退去命令なりはちゃんとするのよ』


 クラウスの理解したレディはそう告げる本人は『それは相手の出方次第だ・・・・・・』と返して愛機を加速させる。


 

 アイナはとんでもない戦いをペガサスの上から見た。

 闇夜の中で、遠くの出来事なので分からなかったが、何物かが次々と追っ手の竜騎士達をあっと言う間に全滅させたのは理解出来た。


 ペガサスの騎手であるクレアも似たり寄ったりな心境だった。


 勝負にもなってない。


 圧倒的かつ芸術的な殺戮ショーだった。


 その後、自衛隊の戦闘機が駆け付けて更には海上自衛隊や海上保安庁までもが駆け付け、ユリシア王国第二王女アイナとペガサスの騎手であるクレアは保護された。


 ついでにクラウスはやはり存在していた海上のドラゴン専用母艦、龍母とその護衛の艦を確認して戦闘に突入したがあっと言う間に海の藻屑に変わった。


 政治的なアレコレは抜きにして、戦果だけを見れば敵の飛行戦力及び空母付きの小規模な艦隊を単独で沈めるなど第三次世界大戦のエース面目躍如である。


 この戦いは誰に知られる事無く、口止め料の報酬がクラウス達に支払われて記録上からは抹消される事になるのだが整備兵などの人の口に戸は立てられず、またアイナ王女などの口から未来で明かされる事になる。

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