この異世界の大空に羽ばたいて

MrR

第1話「遭遇」


 見通しの良い晴天。 

 太陽の光で綺麗に輝く未知の海上の空。


 日本国自衛隊の戦闘機が二機飛んでいた。


 宇宙船が落下するあの時代まで最新鋭戦闘機だったFー35と言うすっかり旧世代となった戦闘機である(最新型の戦闘機は皆、オーバーホール中である)


 この二機は自分達の国――日本の現在位置や状況把握を行うために現在、調査任務についている戦闘機隊の一つである。

  

 最終決戦でエイリアンの船を沈めたのは良かったがその後が大混乱で落ち着くまで一ヶ月ぐらいの月日を要した。


 気が付けば見ず知らずの世界に国家丸ごと転移していたがその事実は当時の日本国からすれば些細な事であり、とにかく全力で国の立て直しを図った。


 裕福層や移民者達は国外に脱出、アメリカは火中の栗を日本にだけら拾わせて後方支援にだけ徹して撤退し、アメリカ軍で残ったのは物好きな民間軍事会社の傭兵と名を変えた連中である。

 領土問題も成し崩し的に実上解決した。


 皮肉にも戦争の御陰で景気も復興特需と言う名の経済回復がもたらされつつある。


 しかし食糧難や国家の血液とされる石油資源問題はどうにもならなかった。


 その代わり撃墜した宇宙船のテクノロジーを積極的な導入も進められ、先に挙げられた問題もある程度自力でどうにかなったりと良い事も悪い事もひっくるめて日本は回っている状況である。


 航空自衛隊所属の川西二尉はコ○ケどうすんのかな、とか思いつつも空を飛ぶ。

 まだ24歳にも関わらず二尉なのはいわゆる戦時昇任と言う奴である。  

 僚機は女性パイロットで新米である桜木三尉。短い黒髪でスタイルもよい若い美女だが前大戦をどうにか生き延びたパイロットである――が真面目すぎるのが偶にキズな女性だと川西二尉は思った。


『此方ウェザーリポート、状況を知らせろ』


 遥か後方で待機している航空管制機ウェザーリポートが呼んでくる。


「レイヴン1、レ―ダーに複数の物体を確認。現在急行中」


『レイヴン2。此方でも確認している。ウェザーリポート、そちらは?』


 レイヴンと言うのは二人のコールサインである。

 英語でカラスと言う意味だ。

 基本無線での会話はコールサインで呼び合う事になる。


 ウェザーリポートもそうだ。


『此方でも確認している――ここは未知の惑星だ。何があるかは分からない――』


「了解。聞いたなレイヴン2?」


『ええ――行きましょう』


 そして戦闘機のアフターバーナーをONにした。

 アフターバーナーと言うのはいわゆる加速モードと考えてくれればいい。

 基本は最高速度で移動せず、燃料消費などを抑えるために巡航速度を保ったまま移動する。

 緊急を要する事態と判断したためである。



 


 異世界セントフライ



 辺境文明圏。


 ユリシア王国。


 ガーデ二ア大陸の極東に位置する国である。

 軍事力、国力ともに低い。

 とても平和で温暖な国である。


 しかしガーデニア大陸は現在、戦乱の状態に陥っていた。

 

 コスモレシア王国、ブロッサム王国、ドラグ二ア帝国、ユグラシア教国――などの列強国。

 

 そして列強国にのし上がろうと虎視眈々と狙う国々。

 

 そうした国達が覇権争いを続けていた。

 

 それに対抗する為にある国は同盟を結び、ある国は他国を侵略して勢力を広げようとしていた。


 ユリシア王国は本来であればそうした時の中で滅びる筈だった。


 ある国と出会うまでは――

 

 ユリシア王国の東、ユリシア海の海上。


 ユリシア王国と国境を接する北の国、バルニアの龍騎士団と一件帆船に見える魔力動力の艦隊が占拠していた。


 王女を乗せた特注の魔力動力機関を乗せた純白の帆船が東に向けて海を進む。

 

 空中で親衛隊の騎士団や艦船が護衛や殿をしているが状況は不利である。

 次々と命を散らしていく。


『レイブン1、これは一体・・・・・・』


「状況が掴めないし――ここは観察に徹するか・・・・・・」  

 

『了解・・・・・・』


 幸いにして桜木三尉も同じ意見だった。

 内心では彼女は戦闘に介入して不利な方を助けたいと思っているかも知れないが、安易な判断は国を危険に晒してしまう。

 本当は不利な方に手助けしたいのが人情と言う物であるが、その辺を割り切らなければならないのがこの仕事の辛いところである。 


「ウェザーリポート。状況は見えてるか?」


『二機に搭載したカメラや望遠カメラでどうにかな・・・・・・どうも高度な政治判断が要求される事態らしい――』


「同じ意見だ。それと空中をファンタジーな生物が飛んでる。見えるな? ウェザーリポート?」


『ああ――此方でも確認している。引き続き偵察を続行せよ』


 取り合えず川西二尉達はこの状況を静観する事にした。



 バルニア軍は突然現れた空中を飛び回る飛行機械に困惑した。

 ユリシア王国の援軍かと思えば此方に仕掛けてくる気配はない。


 龍騎士団の面々はどうするか考えた。

 腕に巻いた魔信の水晶で連絡仕合う。

 魔法技術の発達で普及したマジックアイテムで遠くの相手と会話するための機器であり、小型化が進んでいるが小型化すればする程値段が高くなると言う欠点があり、腕に巻くタイプは一部のエリート部隊にしか普及されてないのが現状である。

 

 そして今この場にいるバルニアの龍騎士団はそのエリートで構成されていた。


『東の方角から来ましたよアイツら?』


『あの王族の乗せた船も東に進んでたな』


『そもそもこの東に国なんてあるのか?』


 と、部隊長間などで話し合いが行われた。

 

『此方バルニア艦隊司令官マグニスだ。ユリシア王国の艦艇を捕らえよ。同時に謎の二騎の飛行機械を撃墜せよ』


『飛行機械か・・・・・・まあ飛行機械なんざ俺達の敵じゃねえ』


 この世界に置いて飛行機械は『最新鋭』の物でも時速200km台半ば程度が普通である。

 しかし龍騎士団が跨がるドラゴン達はそれに匹敵、あるいは超えるしパワーもある。

 此方は五十騎以上いる。

 楽な仕事だと思った。 

   


 バルニアの王族、ディアス王子。

 紅の礼装を身に纏った気品溢れる赤毛の青年だ。


 だがバルニア王国は長年の間、大陸に覇を唱えようと考え、軍備拡張に従事していた。

 最新鋭の空中艦隊や竜騎士団、そして艦隊に陸軍戦力も揃え、既に周辺諸国も幾つも飲み込んだ。

 そして遂にユリシア王国にも手を伸ばした。


 豊かな食糧資源、大層美しいプリンセスや美女揃いの魔法戦士達の親衛隊など、旨味は沢山存在する。

 軍事力を極力持たず、平和を愛し、自警団と称して義の為に戦う王国。

 そんな甘い幻想を持つから歴史から消え去る事になるのだとディアスは王子は思った。

 

(たった二機の飛行機械で何が出来る――)


 そうほくそ笑みつつ旗艦のフレイズの高級感溢れる貴賓席の窓から望遠鏡で空を眺めた。

  


『逃げるなこの臆病者!!』


『どうした、掛かって来い!!』


 バルニアの龍騎士団はマジックアイテムの、機械の拡声機と同じ機能を持つ遠吠えの角吠えを手に持ち罵倒してくる。

 

 言葉が通じる事に川西二尉含めた自衛隊達は驚いた。

 

 攻撃を受けてはいるがチャンスと思い、二機のFー35は単発のエンジンを吹かしながら攻撃を回避する。

 付かず離れずの距離を保って何度も呼びかけたが此方の言葉が通じないのか、ドラゴンに跨がった騎士が攻撃を仕掛けてくる。 

 素早い個体や強力なブレスを吐く個体などが入り交じっているが、どうにか振り切る。


「此方日本国!! 我々に抗戦意思はない!! 繰り返す!! 抗戦意思はない!!」

 

 川西二尉は必死に叫ぶ。

 しかし返ってくる返事は――


『戦う気が無いなら戦場に出て来るな!!』


『貴様達は腰抜けか!!』


 と言う物だった。

 川西二尉は外部スピーカーを切って悪態をつく


「クソ、好き勝手いいやがって・・・・・・」


 さっきからずっとこの調子だ。

 幾ら戦場に迷い込んだとは言え、普通国籍不明の戦闘機に突然襲い掛かる馬鹿はいるだろうか?

 分かってやってるならとんでもない蛮族が相手らしい。


『此方、ウェザーリポート! 撤退しろ! 万が一君達が撃墜されたら成し崩し的に戦争に突入する! 今日本は戦争に突入するわけにはいかん!』


「了解。レイヴン2、さっさと逃げるぞ!」

 

 川西二尉は僚機の桜木三尉に呼びかける。


『分かりました。レイヴン2、撤退行動に移ります』


 そうして元来た道を引き返そうとした。

 しかしクソ真面目に呼びかけるために速度を落としていたせいで、四方八方を囲まれている。


 相手もムキになってデタラメに攻撃していた。

 幾ら戦闘機と生物が相手でも並のパイロットなら撃墜もありえた状況だ。

 いや、それ以前に失速して墜落する危険すらありえた。

   

「少々危険だが海面スレスレ目掛けて飛ぶぞ! 速度を全快にして抱囲を突っ切る!」


『了解!!』


 そして一気に加速して包囲網を突き破った。

 二人の乗るFー35の性能は外宇宙のテクノロジーで改良されているため、まだ宇宙船が日本海に飛来する前に導入された頃とは性能は雲泥の差だ。

 ドラゴンを振り切るには十分過ぎる加速性能を発揮する。

 

「な、何だ!?」


「あの飛行機械、アレだけ速度が出るのか!?」


 二機は一目散に戦闘海域から逃げ出す。

 ドラゴンの騎手から見ればそれは海面を切り裂く光の矢のように見えた。


『此方、ウェザーリポート。お偉いさんからお言葉だ。無茶な対応をして貰って感謝する――と』


「此方レイヴン1、お褒めに預かり光栄とだけ返しておいてくれ――」


『それにしてもヒヤヒヤしました・・・・・・』


「全くだ・・・・・・」


 桜木三尉の意見に同意する。

 今回みたいな任務はこれ限りにして欲しいと思った。

 精神的にも肉体的にも疲れた川西二尉と桜木三尉は搭乗した戦闘機と一緒に戦闘海域から離脱した。

 


 ディアスは屈辱と憤怒に塗れながらも、あの力に驚愕し、そして恐怖を覚えた。

 もしもあの力が自分達に向けられたら? と。

 

 だが分からない事がある。


 アレだけ攻撃をして来てどうして攻撃してこなかったのだろうか?

 アレだけの速さを産み出すために攻撃する為の兵器は搭載出来なかったのだろうか?

 

 分からない事だらけだ。


「ディアス様、少々よろしいでしょうか?」

 

 副官の男が尋ねてくる。


「何が問題が出て来たのか?」  

 

「バルニア龍騎士団の消耗が激しいため、王女の拿捕には少数しか回せないようです。龍母に後退許可をとの事です」


「分かった。ではそうしろ」


「ハッ!」


 十数分近く必死になって攻撃していたにも関わらず一太刀も攻撃を与えられなかった。

 ドラゴンや騎手も肉体的、精神的に疲労している筈だ。

 それにもうすぐユリシアの王女を乗せた船の拿捕もカタが付く。


「それにしても東か――」


 東には一体何があるのだろうか? 

 そのことを進言してみようと思った。   

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