第2話 依頼は突然に

誠司は冷蔵庫を開けて何もないことに絶望する。


(しまった。ここ連日依頼が立て続けで、買い出ししてなかった)


それに追い打ちをかける様に、ご飯も炊いていなかった。

とは言え朝食を取らないわけにもいかない。誠司は数少ない材料を見る。


(卵はある、トマトが一つそれとレタスが半玉。飯は炊いていない。そういえば食パンが二斤あったな)


色々考えてある程度、献立が決まる。少しシンプルすぎるかもしれないが食材がないので仕方がない。


早速調理に取り掛かる。

ダイニングキッチンからさっきまで寝ていたベットがある居間の方を見ると、布団は既に片付けられ、代わりに持ち運びができる少し大きめのテーブルが置いてある。テーブルの前には服をきちんと来たリリアが座りテレビを点けて朝のニュースを見ていた。

ワイシャツの上に紺のブレザージャケットにネクタイ、スカートに黒のニーソックスを履いている。


そうこうしている内に、出来た朝食を机の上に運ぶ。


「今日はシンプルなんですねぇ」


リリアは運ばれてきたを見るとそう感想を述べた。

実際にシンプルなものだ。トーストの上に目玉焼きを乗せたものに、有り合わせで作ったサラダ。それに粉末を溶かしただけのカップスープ。


「まあ、仕方ない。ここ連日依頼で買い出ししてなかったからな。それに米を炊いてなかった」

「あーなるほど。昨日は疲れて、すぐ寝ちゃいましたしね」

「今日は買い出しだな。じゃあ食べるか」


誠司は塩と粗挽き胡椒を目玉焼きにかけ、トーストにかぶりついた。

粗く引いた胡椒の香ばしさが口に広がり、塩の塩味がシンプルながらもいい味を出している。


ふとリリアのつけたテレビに目が行く。


『次のニュースです。三週間前にエデンに不法侵入したと思はれる人物は見つかっておらず、侵入した人物も分かっておりません。今現在エデン警備部隊が現在捜索に当たっており情報が届き次第お伝えします』


そんな話題で持ち切りだった。

他のチャンネルを回してみても、その話題で持ち切りだった。


それはそうだろうこの海上都市エデンは魔術兼魔族研究特区なのだ。

魔術や魔族の研究特区である事を秘匿する為に、警備体制はかなり厳しい。

この都市専用の警備部隊まで組織されるくらいだ。


そんな厳重な警備の中、不法侵入などしてくる奴などほとんどおらず。入ってきたとしてもすぐに拘束される。


そんな中を三週間も経って、未だ人物すら特定できていない。


エデンにとって珍しい事だった。


リリアがトーストをかじりながらテレビを見た。


「珍しいこともあるんですね。この都市で三週間も見つからないなんて」

「そうだな」


誠司はサラダを口にしながらどこか胸の奥がざわつく感じを覚えた。



―――――――――――


誠司達の借りている1LDKのマンションは都市部の西にある。

海上都市エデンは島の中央に管理施設があり、そこを中心に東西南北に分かれており、東が空港や港、西が住宅街、南が商業地区、北が研究地区やビジネス地区となっている。

海上都市のため土地代が高く、物資も船などの輸送しかないため物価も高い。

だが住宅街にあるスーパーマーケットなどは南の地区に比べると雀の涙ほどだか物価が安くなっている店がある。


スーパーマーケットで一通りの買い物を終えた誠司とリリアは帰宅のとにつく。


「さて買い終わったな、これで全部かな?」


両手に買い物袋を持ち、忘れたものはないかとメモをポケットの中から出す。

リリアも両手に買い物袋を持っている。

因みにリリアの尻尾は太ももに巻き付けて収納している。


「かなり買いましたね」

「食材だけじゃなくて、トイレットペーパーや洗剤とか日用品も買ったからな。重くないか」

「大丈夫です。一つ聞いてもいいですか?」

「何だ?」


何気なくリリアの質問に返答した。

交差点に差し掛かり、信号が赤になってたため立ち止まる。


「朝、どうして私を襲わなかったのか理由を聞きたいんですが」

「ぶッ!?おっおまっ!?こんな往来で何てことを」


思わず吹き出してしまいリリアの方を見る。

リリアはジト目で呆れたように見返してきた。


「いや、驚きたいのは、わたくしの方なんですけど。ふつー、こんな美少女が裸ワイシャツ、パンイチでいたら襲いません?ふつー襲いません?こっちもわざわざワイシャツを開けて胸元見えるようにしていたのに、それをただ慌てるだけでなんもしないとか、大丈夫ですか、枯れてんですか、あんたどこまで玄人ですか!?」

「リリアさん、一先ず落ち着こうか。周りの視線が痛すぎるので」


リリアの今の文句を聞いた人が、ジロジロ見てきていた。信号はまだ青にはならない、逃げられず視線が誠司の心に刺さる。


リリアの方はまだ根に持っているのか文句が止まらない。


「ここまで来たら紳士を超えて、ヘタレの極みですね」

「せめて鉄の自制心と言ってくれ」

「これまでも、再三色仕掛けしてきましたが、そろそろこっちが羞恥心で死にそうなんですけど」


どうやら、自然に見えた朝の行動は結構勇気いる行為だったらしく、やってみたが玉砕、放置され、自爆したことに対してリリアは根に持っていた。


この往来の前で言ったのは誠司に対しての意趣返しのつもりなのだろう。


信号が青になり、待っていた人が一斉に歩き出した。

誠司とリリアも歩き出した。


(意識してないわけじゃないんだけどなぁ)


別に誠司は鈍感等ではないためリリアから向けられる好意には気がついていた。それでもなし崩しにするわけにもいかない。


(こんな無愛想なやつのどこがいいんだろうな)


確かに今朝の態度は、リリアの感情を考えれば酷かったと思える。その事については伝えておいたほうがいいだろう。


「リリア」


横断歩道を渡り終えた後にリリアを呼び止める。


「何ですか」


不機嫌そうにこっちを向くリリア。

中々照れる事を言うため頭をカリカリとかきながら若干早口になりながら言った。


「あー、なんだ、お前の事はちゃんと意識しているから安心しろ」

「えっ、あっ、はい」


誠司の言葉に、顔を赤くし押し黙るリリア、誠司の方も黙ってしまう。

この何とも言えない空間に耐えきれなくなった誠司は一人歩き出す、そのあとを追ってリリアも歩き出した。


(・・・・・・・いきなりは、卑怯じゃないですか)


そう思いながら誠司の後ろを追った。


言わないでも分かるがこの後誠司は自分の言葉に羞恥心で悶絶するハメになる。



――――――――――――


エレベーターが二階を指しチンと音を鳴らしてドアが開いた。

誠司とリリアはエレベーターから降り、自分たちの部屋に向かったがそのには先客がいた。


男がドアの前に立っていた。


歳は誠司と同じくらいの青年だ。男にしては長い金髪を一つに束ねており、スーツを身にまとっている。足元には銀色のジュラルミンケースが置いてあった。


その顔に見覚えがあった。

青年が誠司達に気が付き、手を振ってきた。

朝の胸騒ぎが気のせいではないと思えた。


「よう、アベル。察しは付いているがあえて聞こうどうした」

「ああ久しぶりだな」


そう言ってA4サイズの茶封筒を取り出し、その茶封筒をひらひらさせながら言い放った。


「お前に依頼だよ。この島の管理長からな」

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