第33話

 ノアから教えて貰った抜け道を通って、東通りにやってきたアルベール姉妹。

 ノアの話に出てきた双子、リナとルナは、すぐに見つかった。二人は大量のヴァンパイアに囲まれながらも、魔法とナイフ、それぞれの武器で健闘している。

「あっちも大変そうね……」

 シルビアがそう呟いた。

「どうするの?ちょっと手伝う?」

「手伝う必要はないでしょうけど、話は聞きにいきましょう」

「……結局手伝う事になると思うけど」

「それならそれで構わないわ。行くわよ」

「はいはい……」

 最初から素直に肯定してくれれば良いのに、と、苦笑を浮かべながら、シャルロットは歩き出したシルビアについていく。

 やってきた二人に、ルナが気付いた。

「あ、やっときた」

「遅れてごめんなさい――とでも言っておこうかしら」

 いたずらっぽく笑うシャルロット。それに対し、ルナは無表情で冷たい返事を返す。

「そんな言い方なら言わない方が良いんじゃないかな」

「ふむ。間違いないわね」

 四方八方から襲い掛かってくるヴァンパイア。自然と、シャルロットも戦闘に加わる事になる。

「ねぇ、合体しないの?」

「合体?」

 ルナは正面から来たヴァンパイアに掌底をかまして吹っ飛ばしてから、訊き返す。

「ほら、私達と戦った時に、一体のヴァンパイアになったじゃない。その……キス……して……」

「……結構ウブなんだね」

「うるさい!」

 会話をしながらも、シャルロットは持ち前の卓越した射撃能力を発揮して、ヴァンパイア達を近付けない。

 ルナは近付いてくるヴァンパイア達を、逆手に持ったナイフで次々と斬り伏せていく。

 余裕があるのか、二人の会話が途切れる事はほとんど無かった。

「私達ヴァンパイアが真の姿になるのは、楽な事じゃない。それなりの魔力を消耗する。分かりやすく言えば、とても疲れるの」

「だから、二人で戦ってた方が楽って事?」

「そういう事。それにこの程度の連中なら、わざわざあの姿になる必要も無いし」

「随分と自分の力に自信があるみたいね。いつか足を掬われちゃうわよ?」

「その言葉はそっくり返すよ。シャルロット」

「うーん……生意気ね」

 二人はお互いの顔を見合って微笑を浮かべた後、戦闘に集中する為、会話を終えた。


 一方でシルビアは、少し離れた場所で一人で戦っていたリナの元へ向かった。

「遅くなったわね」

「悪いと思ってはいなさそうだね」

「えぇ。勿論」

「その図々しさには尊敬すら覚えるよ」

「そりゃどうも」

 シルビアもルナの元に居るシャルロットと同じように、リナに加勢する。

「エヴァの情報は?」

 辺りのヴァンパイアを祓魔銃で一掃しながらそう訊くシルビア。リナは顔を正面に向けたまま、背後に居るシルビアに答える。

「彼女自体はまだ見つけてない。でも、町の中心にある広場、そこが怪しいかも」

「怪しい?」

「この道を進んだ先に、その広場がある。ヴァンパイア達は、どうもそこから湧いているような気がするの」

 リナの話を聞いて、シルビアはその広場がある方に視線を移す。

 彼女の話通り、確かにそこから新たなヴァンパイアの集団がこちらに向かってきていた。

「なるほど。あり得なくはなさそうね」

「さっきサクラとも会って、その話をした。そしたら、見に行くって言ってそっちに進んでいった」

「そう。なら、私達も行ってみるわ。二人で大丈夫?」

「人の心配してる余裕があるの?」

「――生意気ね」

「よく言われる」

 リナは鼻で笑ってそう返し、両手に魔力を溜め、それを地面に叩き付ける。すると、広場へ続く方向に居るヴァンパイア達の足元から、紫色の炎のようなものが飛び出てきた。そしてその炎は、ヴァンパイア達を無慈悲に包み込む。

「行って」

「恩に着るわ」

「……お礼、言えるんだ」

「うるさい」

 二人はお互いに一瞥した後、シルビアはリナが切り開いた道へと走り出し、リナは再び手に魔力を溜め始める。

「シャル!行くわよ!」

「はいはい!」

 シルビアに呼ばれ、ルナと共闘していたシャルロットもその場を後にする。

「それじゃ、ここは任せるわよ」

「うん。気をつけて」

 ウィンクをして見せるシャルロット、それに応えるかのように微笑を浮かべるルナ。

 二組の双子達は、そこで別れた。


 道中、次々と襲い掛かってくるヴァンパイア達を対処しながら、広場へと続く大通りを駆け抜けていくアルベール姉妹。

「何体居るのかしらね!」

 組み付いてきたヴァンパイアを背負い投げで投げ飛ばしながら、シャルロットが吐き捨てるようにそう呟く。

「私に訊かれても困るわね!」

 そう答えたシルビアはその時、前後左右から同時に襲われ、四体のヴァンパイアが伸ばしてきた手を身体をかがめて避けながら、一体ずつ下から顎に銃を突き付けて撃ち抜き、窮地を脱する。

 全てを相手にしていては時間と弾薬の無駄だと判断し、二人は行く手を阻んでくるヴァンパイアだけをある程度まで片付けては進み、再び止まって戦闘という行動を繰り返しながら、大通りを進んでいく。

 すると、二人はしばらく進んだ所で、同時に立ち止まった。

「どうしてここだけ、こんなに群れてるのかしら……?」

 目の前に居る大量のヴァンパイア達を見て、苦笑を浮かべるシルビア。

「理由はちゃんとあるみたいよ。――ほら」

「?」

 シャルロットが指差した方向を見たシルビアは、一瞬で納得した。そこには大量のヴァンパイア達に囲まれ、獅子奮迅の勢いでそれらを蹴散らしている、サクラと彼女の配下のヴァンパイア達の姿があった。

 そして更に、シャルロットはもう一つ何かを見つける。

「……シルビア。私達も行きましょう」

「何よ急に。あいつなら大丈夫でしょう」

「病院よ。生存者が居るわ」

「え?」

 耳を疑うシルビアであったが、サクラが居る場所の丁度真正面にある大きな病院を見てみると、確かに上の階の窓から生存者の姿が確認できた。

「……なるほど」

「行くわよ」

 何の躊躇いも無しに、ヴァンパイアの群れの中に突っ込んでいくシャルロット。

「……無茶するわね」

 それを見て苦笑を浮かべた後、シルビアも彼女に続いた。


「あら、遅かったですね。お二方」

 ヴァンパイア達の間を縫うようにして登場したアルベール姉妹の二人に気付いたサクラは、攻撃の手を止めて二人に歩み寄る。

「状況はどうなの?」

 近付いてくるヴァンパイアを銃で迎撃しながら、シャルロットが訊く。

「よくはありませんね。この病院の生存者も、半分以上はやられてしまいましたし」

「あんた何してたのよ……」

「勘違いはしないでくださいね?私が到着した時には既に、三階までヴァンパイア達に制圧されていましたからね。これでも被害を抑えた方なんですよ?」

「あっそ……。まぁいいわ」

「それで――」

 次に、シルビアが口を開く。

「エヴァの方はどうなの?」

「恐らく、この先にある広場に居るでしょう。双子がそう言っていました」

「確かめてないの?」

「生存者を無視して、確かめに行った方がよろしかったですか?」

「……嫌味な言い方ね」

「ふふ、あしからず……」

 そこで、サクラの背後に一体のヴァンパイアが忍び寄った事で、会話が中断される。

 振り向き様に抜刀してそのヴァンパイアを真っ二つにし、サクラは二人に背を向けながらこう言った。

「ここは私にお任せください。あなた方は、広場に向かってくださいな」

「一人で大丈夫?」

 からかうようにそう訊くシャルロット。その時、サクラに二体のヴァンパイアが接近する。

 いち早く気付き、銃を構えた二人であったが、それよりも早く、サクラの配下のヴァンパイア達がそれらを仕留めた。彼等は離れて個別に戦ってはいるが、主であるサクラの周囲は常に警戒している。

 それを見て、シャルロットは小さく溜め息をついてこう言った。

「余計な心配だったわね」

「そういう事です。さぁ、行ってください」

 サクラは刀を鞘に納め、広場への通り道のヴァンパイア達を次元斬で一掃する。

 二人はサクラが切り開いた道を走り出し、広場へと向かった。


 絶えず襲い掛かってくるヴァンパイア達を退けながら進んでいき、正面に石造りの階段が見えてくる。その先に、例の広場はあった。

「最後の戦いよ。覚悟は良いわね?」

 階段を駆け上がりながら、シルビアが隣に居るシャルロットに訊く。

「えぇ。寿命で死んだって、今死んだって、変わりはしないわよ」

「ひねくれた返答ね……」

 最後に振り向き、後続の数を減らそうとする二人。

「――ッ!?」

 先程までは大量に居たハズのヴァンパイア達は、忽然と姿を消していた。

「どうなっているのやら……」

 苦笑を浮かべながら銃を下ろすシャルロット。

「……」

 シルビアは目の前で起きた不可思議な現象に対し、訝しそうに目を細め、それから、シャルロットと同じように銃を下ろす。

「行くわよ」

「えぇ」

 答えは、階段を登ったこの先にあるような気がしていた。


 そして二人は、広場に到着した。

「遅かったわね」

 広場の中心にある噴水の前で腕を組み、艶然とした微笑みを浮かべながら、現れた二人を鋭い目付きで睨み付けるように見つめる女性。

「待たせたわね」

 シルビアはニヤリと口元を歪ませ、その女性、エヴァに銃口を向けた。


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