第11話
「え……あれ……夢…?」
周りを見回しながら呟いたももを見て美しい青年が口を開いた。
「厳密に言うと夢、ではないかな。夢と現実を混同したんだ」
「混同?」
「そう。さくらさんはもう生きてはいない。要するに実体を持っていない。だからキミと会わせるためにはキミの意識の中に彼女の概念を入れることが必要だったんだよ」
「?」
「つまり、一条さくらさんという概念、まぁ近くて、より簡単な言葉で言うと魂かな。それをキミの中に入れて、キミの意識の中だけで会話をしていたんだ。実際に会ったわけではないけれど、事実上は会ったことになる。勿論キミの意識の中で喋っていたのは紛れもなくさくらさんだし、彼女が幽霊になって云々という話も本当だよ」
中々に難易度の高い説明にももは困惑の色を強くする。
すると聞いたことのある特徴のある声が聞こえてきた。
「お師匠さ〜ん。終わりましたでしょーか???」
少し離れた場所にあるベンチに、昼間会った着物を着た関西弁の男の子がいた。
「ああ。無事にね」
関西弁の男の子の膝では、あのもう一人の青い髪の男の子がスヤスヤと眠っている。
「…………………」
色々ありすぎて整理するのに時間がかかる。
「…忘れ物は、見つけられたかい?」
青年が声をかけた。
「………はい。もう、寒くない。さくらが咲くくらい、暖かいです」
ももの満ち足りた表情を見て、青年も微笑んだ。
「…それは良かった」
そう言うと青年はももの隣から立ち上がった。
そして関西弁の男の子の元へ行き、眠っている青い髪の子を抱き上げるとそのままバスケットコートを出ようとした。
「あっ!ま、待って!!」
ももは思わず呼び止めていた。
「あの……ありがとうございました」
深々とお辞儀をするももを見て青年は目を細めた。
「これからキミがどうやって生きていくかはキミ次第だよ。人間には無限に広がる可能性がある」
そして形のいい唇が弧を描く。
「キミ達の友情を見させてもらった事が、今回の対価だ。とても面白くて貴重なものを見せてもらったよ。こちらこそ、ありがとう」
それだけ言うとまた強い風か吹いた。
思わず目を瞑る。
次に目を開けた時には、もう彼らの姿はどこにも無かった。
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