第8話


その日の授業は一限のみだった。

帰って次に行く企業説明会の準備をしなければ…などと考えながらももは大学の門を潜った。

「オネーサン!!」

すると不意に後から声が聞こえた。

反射的に振り向くとそこには14、5歳位の男の子と、まだ10歳にも満たないであろう子供が手を繋いで立っていた。

男の子の綺麗な赤色の瞳は、クリクリとしているが、どこか気の強さを感じさせる。

肩程まである漆黒の髪は後ろで軽くハーフアップにしているようだ。

隣にいる子供はくすんだ青色のベリーショートで、短く揃えられた前髪が可愛らしい。

無言のままももを見つめている大きな目は、深い海の色をしている。

二人ともぱっと見、女の子にも男の子にも見えるが、着ているもので判別がついた。

着物だ。

着物は女性と男性で着方が違う。

二人とも男性用の着方をしている。

この時代に着物を着こなす子供がいるなんて…などと考えていると、黒髪の男の子が関西弁訛りの言葉でももに話しかけた。

「その髪型にそのお顔。そしてミサンガ!!間違いない!オネーサンが二条ももさんですね?」

突然自分の名前を出されて戸惑いながらももは言った。

「え…どうして私の名前…」

間違いなくこの子達と会ったのは今日が初めてのはずだ。

着物を着た赤い目の男の子…なんてそうそう居ないだろう。

会っていたら確実に覚えているはずだ。

しかし以前に会った記憶は全くない。

「ほなら良かった!!じゃ、行きましょか!」

驚いて静止しているももを気にも止めず、男の子はももの手を取った。

「え!ちょっ!ちょっと待って!!行くってどこに?っていうか、キミたちどこから来たの?お父さんかお母さんは???」

ももの言葉に黒髪の男の子は少し残念そうな顔で言った。

「うーん…やっぱり駄目でしたか〜。ほんまはオネーサンの意思でちゃんと付いてきてもらう方が楽なんやけど……しゃーない!サンちゃんごめんなぁ、よろしゅう!」

ももの質問には答えずに黒髪の男の子は隣の子供に声をかけた。

言われた子供は一瞬黒髪の男の子へ目を向け、軽く頷いた。

そしてももの瞳を真っ直ぐに見つめ言った。

「いっしょにおいで。わすれものを、みつけにいくよ。」

まるで、海の底から響くような、スっと身体の中に入ってくるような…そんな綺麗な澄んだ声だった。

そしてももの意識は、そこで途切れた。

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