四 実験
再び、世界中で調査が行われた。
膨大な費用がかかった。
しかし、半年経っても新たな穴は見つからなかった。
研究も進められた。超安定物質、そして、穴の研究。どこへつながっているのか。なぜ穴はあいたのか。
別の空間。この世界の外側の世界。
あくまで仮説だ。筒状なのか。それとも世界全体を、宇宙全体をも包み込んでいるのか。それは今もわからない。穴の内部や外の空間の調査は、全く進んでいないのだ。
調べる方法がなかった。最後に残ったのは、ロケットにカメラや、通信機器を積み込んで穴へ突っ込むという、原始的な方法だった。
ロケットの大きさは一メートルほど。超安定物質の流れに逆らい、穴の中へ入った。だが、それっきり。通信不能。場所もわからない。つまり、この世界から消えてしまったのだった。
流れ込んでくる未知の物質に沈みゆく、世界。
初めて穴があいた時、そのようにテレビや新聞は表現した。この世の終わりのような切迫した空気が、世界中に漂った。
だが、その絶望はたった一年で薄れた。もう、超安定物質を処理する経路は確立され、強固なものになっていた。
そう。まるで、ごみでも捨てるような感覚だ。
人はこの異常な状況に、慣れ始めていた。
ああ。この感覚は、一年ぶりだ。
いや、あの時より、大分落ち着いているか。
男は現場に向かうため、飛行機のチケットを一枚予約した。
それから、妻に電話を入れた。
また、しばらく帰れそうにない。
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