二 それ

 

 超安定物質。

 そんな名前が与えられた。


 何とも反応しない。水にも油にも溶けない。燃えない。重さはほぼ水と同じ。光は完全に透過。無色透明。

 拡大しても、どんな力の相互作用を用いても、粒子らしいものは見えず、結局、温度差による巨視的な観測だけが可能だった。


 現場は、住宅街。近隣の警察が懸命に砂の入った袋を積み上げ、街を守ろうとしたが、流れの勢いは半端なものではなかった。

 街は、超安定物質に浸った。

 街自体を囲い、池のようにした。


 そうやって、海に流れていかないようにしている。ポンプで吸い上げ、コンテナに移す。そして、トラックで運ぶ。燃やせないごみの収集所。


 そこに、コンテナを積み上げていった。あまりに幅をとるので地面をかなり掘った。




 穴があいてから、一年が経っていた。

 現場となった街に一般の住人はいない。


 建物の半分は流された。映像でその様子を見る限り、家や車、人が飛んでいるように見えた。

 超安定物質が出てくる穴も、無色透明だった。向こう側が、はっきりと見えた。

 今は建物に覆われている。


 流れの速さは変わらずに一定である。



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