【1-4話】
帰り道、河川敷沿いの土手道を歩きながらそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「
すごく綺麗な女の子だ。白銀のロングストレートに白い肌。月明かりも助長して、まさに絶世の美女とでも言うような感じ。
「そうだけど、何で僕の名前を知っているんだ?」
「あなたのことを見ていましたもの」
よく見ると、うちの学校の制服だ。けどこんな美人、うちにいたか? 同じ三年生だったら絶対に分かるし、一年生だとしてもこれだけの美人だったら風紀委員長の僕の耳に入ってきそうなものだが。
「何か用?」
「用があるからこうして声をかけたんですよ」
「そうか。じゃあ、その用っていうのを早く言ってくれると助かる」
「あら? 冷たいんですね。こんな美少女に声をかけられていると言うのに」
自分で美少女とか言い始めやがった。
「そう思っているなら、早く家に帰ったほうがいい。最近は日の入りが早いし、不審者の目撃情報だって出ている。女子が一人で出歩いているのは危ないからな」
「流石、カタブツの風紀委員長。お気遣い感謝します。けど心配には及びませんよ。絶対に大丈夫ですから」
何がおかしいのか、この女は。こんな細腕で、武道でもやっているのか?
「で、用ってのは何? 妹が家にいるんだ。早くしてくれ」
「そうですね。では早速ですが、本題に入りましょうか」
どこか余裕を感じさせる態度のまま、女は僕に言った。
「あなたはこの世界が、あるべき世界ではないと思いませんか?」
いきなり哲学じみたこと言ってくる。何だって?
「あるべき世界? どういう意味?」
「そのままの意味ですよ。この世界は正しくない。間違いだらけで腐っている。とても誇れるようなモノではないとは思いませんか?」
「抽象的すぎて分からない。もっと具体的に言ってくれ」
「いいでしょう」と白銀の少女は笑みを崩さずに話し始めた。
「この世界は正しくない人間で溢れている。殺人、詐欺、強姦、強盗、戦争――。取り締まるために作られた法律や規則を守れない、愚かな者ばかり。人への迷惑を顧みない身勝手な行動。見て見ぬふりをして無関係を貫く腐った性根。あげ出すとキリがありません」
少女は風になびく自分の髪を手で押さえながら続ける。
「もっと言うと、ほんの簡単なルールでさえも守れない人間が多すぎると思いませんか? あなたも常日頃から感じていることと思います」
同意だ。
校則違反。信号無視。不法投棄。どれも守るのが難しい規則ではない。
「自分たちで作った規則なのにそれを平気で軽んじる。あまりにも滑稽だと思いませんか?」
「そうかもな。僕も毎日そう思って過ごしているよ」
「でしょう。間違いだらけのこの世界は、あるべき姿じゃない。だから作り変える必要があると思いませんか?」
女は小悪魔のような表情をして物騒なことを言ってのけた。作り変えるっていうのはきっと、「自分が国のトップに立ってより良い世界にする」とか、そういうことを言っているわけではないだろう。そう思える笑みだ。
「君の言いたいことは分かる。で、具体的には何をすればいいと思うんだ?」
「一度、この世界を壊しましょう♪」
ほら、やっぱりそうだ。思春期特有の痛い妄想と変な自信でおかしなことを言ってきやがった。
僕は手のひらを顔に当て、ため息をついた。
「それが君の言いたいこと? 話が終わったなら僕は帰らせてもらう」
「おや? まるで私が荒唐無稽でおかしな話をしているかのような態度をとりますね?」
「なんだ、自覚はあったのか」
「そんなに変なことを言ったでしょうか? 日本の借金が完済することよりはあり得ない話ではないと思うのですが」
「そっちの方がまだ現実味があるよ」
あり得ないけど。
「も○みちがオリーブオイルを使わないで料理をすることよりは現実的だと思いますけど?」
「それはあり得ないけど、君の話もあり得ない」
使わなくなったらおしまいだ。コーナーの特色が失せる。
「どうやら私の話を信じていないようですね? こう言うと自慢げに聞こえるのですが、私、生まれてこの方、嘘をついたことなど一度もないんですよ?」
「僕は君の事なんて知らないし、それを証明しようがないだろ。この言葉が嘘だったらその証言は何も意味を持たないんだから」
「いいですね~、その頭の固さ。こんな絶世の美少女の言葉を嘘と一蹴するだなんて」
美少女アピールうぜぇな。いくら可愛いからって自分に自信を持ちすぎだろ。
「じゃあ、僕は帰る。暗いから気をつけて帰るんだね」
呆れて僕は彼女に背を見せた。すると、彼女は「ふふふ」と笑って、
「私が人間じゃないと言っても、信じられませんか?」
と、こう言ったのだ。
「はぁ。まったく何をわけの……」
「分からないことを言っているんだ?」と呆れた調子で歩きながら振り返って、そのまま最後の会話にしようと思ったのだ。
しかし、僕は足を止めてしまった。
そこで見たあり得ない光景に……不覚にも釘付けになってしまった。
彼女は浮いていた。
いや、浮いているだけではない。背中から大きな翼が生えていた。まるでフィクションに出て来る天使のような白い翼。羽の一枚一枚が大きくて、浮いた拍子に抜けたのか、辺りを大きな羽が舞っている。
「なっ……は……?」
言葉にならなかった。
今さっき話していた女子が急に羽を生やして浮いたとか、どう考えてもおかしいだろう!
これは夢なのか? 僕はいつの間にか寝てしまっていたのか!?
「私、天使なんですよ」
彼女はそう言ってニコリと笑った。
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