第19話 決意
──レックスという突然に現れた王子に城内は騒然となるも、彼を真の王子であると認める者は少ない。逆境に立たされるなか、ソフィ、レックス、オットーの三人は今後について話し合う。
外の世界を知って城内に帰って来たからこそ、私は強く思うことがある。
ジャイアヌス様が国王になる──それが城内のほとんどの者の認識だ。
事実、第一王子のヘンリー様がその権利を放棄し国外に旅立って以降はそれが確定事項として認識され、多くの貴族がジャイアヌス様に取り入ろうとしている。
だからこそジャイアヌス様も態度を改めることなく、わがままなまま大人になってしまったのだと思う。
しかしそんな人物が人の上に立っていいはずがない。
今はまだレックス君とオットーさん、そして私の三人しか味方はいないけど、でも不思議と負ける気がしない。
「レックス様、私は負けないよ」
「はい。ソフィ様が望むのであれば、私は国王にでも何でもなります」
……うん、でもやっぱりこのままでは駄目だよね。
まずはレックス君の意識を変えなくてはいけない。
「ねぇ……これからは様と呼ぶのをやめにしてくれない?」
「いえ、そんな訳にはいきません。むしろソフィ様が、お止めください」
「ううん、今のあなたはこの国の王子で、私よりも立場が上だから敬称は付けないといけないの」
皆がどう思っていようとも国王が認めた王子なのだから軽々しく君づけで呼べないし、逆に様付けで呼ばれていると奇異の目で見られかねない。
今はレックス君の為に用意された部屋の中だから問題ないけど、一歩外に出ればそうはいかないだろう。
「まだ僕は自分がその……王子だなんて思っていません。僕は僕だし、ソフィ様はソフィ様です」
そんな澄んだ目で力強く見つめられても、駄目なものは駄目だ。
今は良くても、他の貴族に支援して貰うためには示しをつけなくてはならない。
「それなら命令します。今後、私のことを呼ぶときはソフィと呼び捨てにしなさい」
「それは……呼ばなくてはいけないのですか?」
「ダメ。それにオットーさんのこともオットーと呼ばないとダメだし、命令口調でね!」
「……分かった」
レックス君は呼吸を整えてから、決意したようにこちらを見つめてくる。
「ソフィ、そしてオットー。これからも宜しく頼む」
「はい」
……自分から言い出したことだけど、いざ呼び捨てにされるとドキッっとしてしまうものだね。
でもこれだけではまだまだ不十分だ。
私も動かなくては、ジャイアヌス様に太刀打ちなんて出来ない。
「オットーさん、しばらくレックス様の事をお願いしても良いですか?」
「何か手を打つのですか?」
「はい……既に耳にしているかもしれませんが、まずはお父様とお母様に伝えて味方になって貰います」
「そうですか……では私も家のものに手紙を送っておきましょう」
「ええ、そうしてください。打てる手は何でもしなければ、ジャイアヌス様に勝つことなんて出来ません」
今は一人でも多くの味方を得る必要がある。たとえ国王様によってレックス君が次期国王に指名されたとして、誰も付いてこない裸の王様では意味が無い。
幸いにもジャイアヌス様と仲が良くない貴族、そして中立の立場を取っている貴族はいる。
それでもまずは、自分の親を説得しなければいけない。
──王城を離れ、私は久しぶりの我が家へと戻る。
事前に連絡を入れていた訳ではないが罰が不問になったことを国王様から知らされていたようで、家に入るとお母様とお父様に出迎えられる。
「お父様、お母様……」
「おかえりなさい、ソフィ」
久しぶりの対面でおもわず言葉が詰まり、お母様に抱擁されると涙が浮かんでくる。
……前はこんなに涙もろくなかったんだけどなぁ。
花音としての意識では問題ないけどソフィとしての心の奥に、寂しい感情が渦巻いていたのだろう。
「…………お父様とお母様にお願いしたいことがあるのですが、聞いていただけますか?」
「ええ、もちろんよ。でもまずは身なりを整えてからにしましょう」
「いや、別にこのままでも……」
「駄目です! あなたは貴族としての自覚を忘れているの?」
確かにヴィエンヌの町に行ってからというものの、貴族らしい振る舞いをすっかりと忘れてしまっていた。
少しずつ伸びてきているとは言っても髪もバッサリと切ってしまったし、それなりの格好はしていてもお母様の目には物足りなく感じてしまうのだろう。
こうして嬉々として待ち構えていた侍女のマリーに連れていかれて、お人形さんみたいに着飾られた。
でも髪に花飾りまでつけるのはやりすぎだと思う。
「ありがとう、マリー」
「はい、お嬢様はやっぱりこれぐらい華やかな方がお似合いですね」
「そうなの?」
「はい!」
……個人的にはシンプルな方がいいけも、マリーにも色々と心配を掛けたし好きにさせてあげよう。
身仕度を終えて食堂に向かい、テーブルにつくと直ぐに食事が運ばれてくる。
料理長も久々ということもあって、私の好きな食べ物ものを多く作ってくれたみたいだ。
そして食事を終えて、いよいよ本題を伝えた。
「……なので、お父様とお母様の手を貸して欲しいのです」
「そうか…………」
私の話を受けてお父様とお母様は困惑している様子だ。
そしてお父様が口を開く。
「ソフィ、気持ちは分かるがレックス様に肩入れするということは、今後ジャイアヌス様からの恩恵を受けられなくなるということだ」
「でも……」
「それにジャイアヌス様が国王になられた時に、先の一件もあったのだから敵対勢力としてお家取り潰しもあり得る。だから簡単に決断できることではないのだよ」
確かに私はレックス君を国王様にすることばかりを考えていたけど、必ずしもそうなるとは限らない。
むしろ現状は厳しい状況だと言わざるを得ないのだ。
私の身勝手な思いで家が取り潰されることは、絶対にあってはならない。
「ごめんなさい……でも私は……」
「あなた……気持ちは分かります。でも、私たちが我が子を信じてあげなくてどうするのですか? ソフィが信じるのであれば、その背中を押してあげるのが親のつとめではありませんか!」
「だが……」
「たとえこの国で居場所が無くなっても、ヘンリー王子の様に外の世界があります。私たちのせいでソフィが辛い目にあったのですから、今度こそ私たちでソフィを支えましょう」
「そうだな……いや、そうだ。ソフィ、私はフェルンストレーム家の主としてレックス様を支えよう!」
「でもそれでは、皆が……」
お父様に言われるまでそこまで頭が回っていなかったが、私のわがままで家が取り潰されてこの家で働く皆が路頭に迷うことがあってはならない。
なので今度は逆に私が躊躇いをみせるも、話を聞いていたマリーをはじめ皆が励ましてくれる。
「ソフィ様、私たちなら大丈夫です! それに、たとえどうなったとしても私たちはソフィ様、フェルンストレーム家の味方ですよ!」
「みんな……ありがとう。これからも宜しくね」
こうしてフェルンストレーム家の支持を取り付けることが出来た私は、再びお城へと戻る。
そんな折、遂にジャイアヌスが王城に戻ってくるのであった。
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