第20話 相容れぬ二人
──王城へと戻ったソフィはレックス達と合流する。
後ろ楯が少ないレックス君がじっとしていても味方が増えることは無いので、様々な貴族の元に挨拶に出向くのだけれども印象は芳しくない。
皆が一様にジャイアヌス様の支持をしているからどう考えても勝ち馬はジャイアヌス様で、あえて困難な状況にあるレックス君を支持しようとする人がいないのだ。
この状況を変える手立てを必死に考えている中、ジャイアヌス様が王城に戻ってきた知らせが入り、国王様のいる謁見の間に向かう。
二人の王子が相対し、ジャイアヌス様が口を開く。
「お前が、レックスか?」
「そうでございます、ジャイアヌス様」
王子として君臨し続けてきたジャイアヌス様と、市民のそれも仄暗い場所で生きてきたレックス君だ。思わず胸に手をやり敬礼してしまったのを責めることは出来ないだろう。
「うむ、立場はわきまえているようだな。しかし、なんともみすぼらしい格好だ。平民の王子様は服もろくに買えないのか?」
ジャイアヌス様の取り巻きから笑い声が漏れる。
「ジャイアヌス様、その様な言い方は無いのではないでしょうか? レックス様も、ジャイアヌス様と同じ国王様の子でございます」
「なんだ、誰かと思えばソフィではないか。良くもこの場に顔を出せたものだな」
「それは……」
既に国王様にお許しを得たと言っても、外遊していたジャイアヌス様は知らぬ話だ。
正義がどちらにあるかはさておき、解決しなければいけない問題である。
なので申し開きをしようとすると、国王様が口を開く。
「ジャイアヌスよ、先の件はソフィ君のせいだけではない。それに既に十分すぎるほどの罰を受けておる。これ以上、ソフィ君に対して無礼を働くことはワシが許さん」
「父上…………そうか、今回の騒動はソフィ、お主が仕組んだことだな!」
「えっ!?」
「話を聞いた時から不思議に思っておったのだ。父上の話は知っているが既に結論が出ていたこと。それなのに只の平民が俺と同じ王子になるなど、誰かの陰謀に違いないのだ!」
……ああ、そういうことか。
うん、まあ確かにレックス君を助けたのは私だし、オットーさんが私と一緒にヴィエンヌの町にいなかったら分からなかったことだから間接的にはそうなるのかな。
でもそれを陰謀と言われても……。
国王様も私も呆れてものを言うことを忘れていると、ジャイアヌス様は発言を続ける。
「黙るということはやはり、そうなのだな! 腹黒いお主の考えることなど、俺にはお見通しだ!!」
「は、はあ」
呆れて反論するのも馬鹿らしく、思わず返事をしてしまった。
そしてジャイアヌス様は今度はレックスに絡む。
「父上が騙されても俺は騙されないし、認めない! お前、レックスと言ったな?」
「はい」
「お前が本当に王子たる器だと言うならば、俺に証明してみせよ!」
「証明と言われましても……」
「なんだ、やはり出来ぬのか。ならばさっさと正体を証して田舎に帰るのだな!」
本当に何を言っているんだこの人は。
流石に聞いていられないので話に割り込もうとすると、国王様が先に割り込む。
「面白いではないか。レックスよ、その腕で証明してみれば良い」
……えっ、ちょ、国王様は何を言ってるの!?
「こ、国王様、腕と言われましても、自分には証明するものなど……」
「そんなことはない。お主がジャイアヌスに証明する方法、それは我が国に代々伝わる王宮剣術を用いた決闘じゃよ」
「王宮剣術による決闘……」
「そう、王家において己の正しさを証明する古来から伝わる由緒ある決闘だ。ジャイアヌスもそれならば異論なかろう?」
「それは…………いやそうだな、それで問題ない。決闘で己の存在意義を証明してみせよ!!」
ジャイアヌス様はレックス君の方を見て、その体躯の違いに余裕を見せて勝負を快諾した。
しかしジャイアヌス様は知らないのだろう、レックス君が一年に及ぶほどの間、王国騎士の筆頭であるオットーさんから剣術を学んでいることを。
「分かりました。その決闘、謹んでお受けいたしましょう」
「ふん……ならばその首を洗って待っておるが良い。化けの皮が剥がされるその日をな!」
レックス君が怯えずに快諾したことが面白くなかったのか、ジャイアヌス様はそのままこの場を後にしてしまった。
ジャイアヌス様の側付きも慌てて後を追う。
「全く、我が息子ながら……。こんなことになってしまって申し訳ないなソフィ君、レックスよ」
「いえ、お陰で素晴らしい機会を得たと思います」
「そうか、そう思ってくれるとありがたい。日程と場所はワシが取り仕切り、証人にもなろう」
「分かりました。よろしくお願い致します」
レックス君は未だに良く分かっていないようだが、ここでジャイアヌス様を打ち破れば全ての状況が好転するだろう。
まさかジャイアヌス様、自らがその切っ掛けを与えてくれるとは思わなかったけどね。
「レックス様、絶対に勝とうね」
「はい」
こうして多くの貴族が注目する、ジャイアヌスとレックスという世継ぎを争う王子の二人による決闘が行われることになったのであった。
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