第17話 別れ


──ソフィはオットーの元に届けられた国王の書簡を見せられ驚愕する。



 オットーさんとレックス君だけでなくニコライさんとシュティーナさんも呼ばれた中で読んだ手紙の内容は、王都から騎士を派遣してレックス君を迎えにくるというものであった。


「一体どういうことですか、レックスさん。説明をしてください!」


「申し訳ありません。詳しくはまだ話せませんが、これは断ることの出来ないものです。ですが決して悪い話ではございません」


 オットーさんは全ての事情を知っているようだが、幾ら聞いても口を開こうとしない。

 隣にいるレックスも当然のように何も知らなかったようで、信じられないといった様子がであたふたとしている。

 それもそのはずで、ただの庶民がいきなり国王様に呼び出されるなんて前例を聞いたことがないほどの、言ってみればかなりの事件だ。

 心当たりが全くないというのも、不安を増長させる。


「……分かりました。それではレックス君のことを頼みます、オットーさん」


「何を言っているのですか? もちろんソフィ様もご一緒に来ていただくに決まっているではありませんか!」


「ええ!?」


「ほら、手紙にもそう書かれているでしょう?」


「そんなはずは…………って本当だ」


 レックスを迎えにくるということに目が行って、その後におまけのように書かれている所までは目が行っていなかった。

 ……私宛に書かれていないなら、国王様からの手紙を私が読む必要は無いものね。

 本当は付いていって一緒に話を聞きたいと思っていたので嬉しいのだが、でも罰としてヴィエンヌの町にいるのだから外に出られるとは普通は思わないだろう。


「えっと……でもどうして私も国王様に呼ばれているのですか?」


「それはもちろん、そうした方が良いと思ったからだ。それに王城は直にソフィ様のことに気を留めてはいられないようになります」


「はい? それは一体どういう……」


「詳しくは申し上げられません……」


 オットーさんは気になることばかり言うのだが、その言葉の真意は一向に教えてくれない。


「…………言うことの出来ない理由があるということは分かりました。でもそれほど重大なことならば、私はもうここに帰ってくることは無いのでしょうか?」


「おそらくそうなりますね…………もちろんソフィ様が望むのであれば自由に訪れることは出来るでしょうが」


 つまり私に課せられた罰は終わりといえことであり、ここでの生活はもう終わりを迎えるということだ。ということはニコライさんとシュティーナさんとは、もうすぐお別れしなければいけないということだ。

 二人を見ると既にその事を察している様子で、悲しげな表情をしてこちらを見ている。


「ソフィ……」


「ニコライさん……シュティーナさん……」


 二人の顔を見ていると自然と涙が溢れだしてくる。

 ヴィエンヌの町に来てからというものの、本当の両親の様に優しく時に厳しく接してくれた。

 知らない土地で暮らすのだから不安なことがたくさんあったけれど、二人がいたから乗り越えられたこともたくさんある。

 お互いがお互いを思いやるからこそ築けた関係なのだと思うし、一年という限られた時間であったけれど、この一時を私は決して忘れはしないだろう。


「ソフィ、ここはあなたの家なのだからいつでも帰って来てもいいんだからね」


「うん、絶対にまた帰って来るね」


 シュティーナさんに抱き締められ、その温もりで私の涙腺は崩壊した。

 しかしお店を離れることが決まっても、それまでの間にお店がお休みするわけではない。

 ニコライさんとシュティーナさんは私は休んで良いと言ってくれたが、最後まで恩返しをしたいのでしっかりと働くことにする。

 そんな中、私が町から出ていくことをしった町の皆がサプライズでお店に集まってくれて、皆が持ち寄ったこの町の伝統的な料理を振る舞われながら別れを惜しんだ。

 ……皆、本当にありがとう。



 王都から騎士が迎えにやってきたのは、それから僅か数日後のことであった。

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