第14話 幸せな日常
──ソフィはヴィエンヌの町に来てからの疲れもあって風邪で数日間寝込んだのだが、無事に体調が良くなり目を覚ます。
寝込んでいる最中に何度となくレックス君のことを聞くも、まずは自分の体調を良くしなさいと教えてくれなかったので、どうなっているのか分からない。
身支度を整えてから私はシュティーナさんの元にむかう。
「おはようございます」
「もう大丈夫なのかい?」
「はい。ご迷惑を掛けた分、今日からバリバリと働きますよ!」
「それは頼もしいが、あんまり無理はしないでいいんだよ」
ただの風邪だっただけなのでそんなに心配してくれなくてもいいのだけれども、本当に心配してくれているようなので自重する。
「わかりました…………そういえば、レックス君はどこにいるんですか? 体調が良くなったとは聞きましたけど」
「そうだね……それは私が説明するよりも見た方が早いかもしれないね」
「はい?」
シュティーナさんは直ぐには教えてくれず良く分からないままお店の裏側に連れていかれると、そこにはオットーさんと共に剣を振るうレックス君がいた。
「えっと、シュティーナさん、これは一体?」
「オットーさんが、レックスの後見人になると約束したことは覚えているかい?」
「はい……でもそれとこれに何の関係があるんですか?」
「ソフィはレックスにとって命の恩人で、オットーさんはソフィの護衛だ。それならレックスがとる選択は一つでしょう」
シュティーナさんによると、レックス君は私に命を救われたので何とか恩返しをしたいと思っているそうだ。
しかしレックス君は何も持っていないので、オットーさんに鍛えてもらいその身を捧げて仕えることで、一生を懸けて恩返しをするつもりらしい。
「命の恩人だなんて……それに私に仕える必要なんてないし、自由に生きていいのに」
「それで、自分を卑下するものではないよ。それにこれはレックスが決めた意識だから、断るならレックスの決意を踏みにじることになるよ」
「そんなつもりは……」
「それなら彼らの為に、差し入れでもしてあげよう。朝ごはんを作る手伝いをしてくれるかい?」
「はい、もちろんです」
レックス君が望むのであれば、私がその邪魔をする必要はない。
それに新しいことに挑戦しようとしているのに口を出すほど野暮ではない。
こうして私の日常に新たな仲間が増えることになった。
■■■
オットーさんの訓練はそれは厳しいようで、レックス君の体には日に日に生傷が増えていく。
それでもレックス君の顔は充実した笑顔をみせ、日に日に精悍な顔つきになっている。
……守ってあげたくなる感じも良かったんだけど、どんどんと格好良くなるレックス君も良いね。
たまの休日にはオットーさんの代わりに護衛について貰って一緒に出掛けるようになったのだが、必死にエスコートしてくれる姿にキュンと来る。
「ソフィ様、足下にお気をつけ下さい」
「ええ、ありがとう」
本音を言えば様付けは止めて欲しいのだけれどもヴィエンヌの町から戻ればそうは言っていられなくなるので、今から曖昧にしていると今後に影響が出ては駄目なので仕方なく受け入れた。
おかげで事情を知らない町の人から弄られるので恥ずかしい。
「ソフィお嬢様は、今日は王子様と一緒なんだね」
「やめてくださいよ、ハンスさん。もうお店に来てもサービスしてあげませんからね」
「ごめん、ごめん。でもソフィちゃんとレックス君の二人はお似合いだよ」
「えへへ、そうですか?」
「お辞めください。私とソフィ様はそういう関係ではありませんし、私には不釣り合いです」
……お、おう。そんなつもりはないんだろうけど、そうはっきり言われるとちょっと傷付くな。
ちょっと困らせようと思い、分かりやすくガッカリして見せると、慌てたレックスがあたふたとしだして自然と笑みがこぼれる。
ヴィエンヌの町でこうした日常を過ごせる日が、あとどれほど残されているのか分からないが、間違いなく今の私は幸せだ。
こうして何気なくかけがえの無い日常が過ぎていくのであった。
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