第3話

次の日から悪い予感は的中して、彼女は僕に異常なほどに話しかけてきた。

はじめこそは「え…誰?こわーい」と、か弱い女子高生みたいな反応で切り抜けようとしたが、まあ無理ゲーだった。


「何で知らないふりすんの!もしかして…インチ症なの?」

「それは長さの単位だし、もし認知症と言いたいなら違う」

「あ!やっぱその頭いい話し方、さては自殺君だね?」

「逆に誰だと思って話してたんだよ」


温度差のある僕らをほかのクラスメイトがチラチラとみてくる。

理由は多分、僕ら二人があり得ない組み合わせだからだろう。

そう考えているとチャイムが鳴った。


…下校時刻になり、僕は一人で屋上に向けて階段を上っていた。

鞄の中には睡眠薬が沢山詰まった袋が入っている。


前回は飛び降り自殺をしようとしたが、よくよく考えると死後にぐちゃぐちゃに潰れた死体を見つけてしまった人が一番可哀相だし、落ちている間に考える話のネタも無いからやめた。


屋上の扉を開けると見えたのは、橙色が滲んだ美しい空と大の字になって倒れているお馬鹿だった。


「なにしてんの」

「おっ自殺君、今ね。流れ星探してんの」

「うん、そっか。見つかったら是非教えてね」

「うん!自殺君はまた自殺?」

「数十秒前まではしようと思ってたけど邪魔が入った」

「それは萎え萎えだねー」

「君だけどね」

「え?」


心の底から不思議そうな顔をしてこちらを見る彼女に、僕はずっと疑問に思っていたことを聞いた。


「君が言ったさ、殺させないってどういうこと?」

「え、そのまんまだけんども」

「具体的に」

「えーっとね、まあ実際には死ぬのを先延ばしにしてもらいます。



私のために」

「…はあ?」

「私のお願い、10個聞いて」

「いや、なんで僕が君のためにそんなことしなきゃいけないの」

「やってくれなかったら自殺君が自殺したがりって皆に言っちゃうもんね」








それは困る。

大人なんかは自殺なんて聞き付けたらいろんな手を使って止めてくるだろう。

僕が求めるのは静寂で快適な死で、説教や慰めを受けた後の死なんて御免だ。


「私のお願い、聞いてくれるよね」


悪魔に魂を売るような気分だが、背に腹はかえられない。

「…わかった。」

「うええい、やりぃ。

あ、私の名前は君じゃないよ。鈴野ひかりだよ」

「山下しゅうです。もうクラスで自殺君って呼ばないでね」

「知ってるよそんなん。クラスメイトの名前覚えてないとか無いわー(ポリポリ」


こいつ人の名前知っててわざと変な名前で呼んでたのか。

隣でポッキーを頬張ってる彼女を冷たい目で見ると、彼女はドヤ顔でポッキーを見せつけてくる。

いや別にポッキーを食べたいわけじゃねえよ。



これが僕と鈴野ひかりの出会いだった。

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